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#    ―物語― 10


 例え赤を切っても、僕らは赤い糸で繋がってる。


 なんてかっこいいこと言えたらいいな。


 





 毎日フルパワーで働く太陽も少しペースを落としてきたのか、今日は8月にしては涼しかった。それでも気温は30℃辺りをうろうろ。Tシャツ1枚でも暑いことに変わりは無い。


 夏休みは折り返し地点を通過して中盤。学生達が遊びほうける夏休みの間でも社会は怠けずに稼動している。それに携わる大人達も太陽からのいじめ光線に負けずに労働に勤しんでいる。


 ああ、そう考えたら大人にはなりたくないなぁ………。


 「自転車こいでー、ひたすら走るー」


 最近覚えたさわやか系の曲を口ずさみながら、歌詞通り自転車を漕ぐ。涼しめの風が追い風となって僕と自転車を押している。今から舞魅の家に行くのだ。


 今日はいつもと違う道を通ってみよう。いきなり思い立ち、いつものコースから逸れる。近道か否かは分からないが、気分が変わるからいいんじゃないかな。


 なんてね。これも歌詞通りだ。


 あの事件のことをふと思い出す。


 最近毎日、起きてる間に1回はこういうことがある。


 色々あったけど、結局僕らは今まで通りで。そしてこれからも今まで通りの日常を続けるんだろうと夢を見る。否、夢かどうかは未来の話。


 平凡な日常にも非凡はあるし。非凡な日常にも平凡が垣間見られる。


 そんな世の中なんだろう。この世界の構成はそんなもの。難しく考える必要なんて無い。


 住宅街を適当に走っていると、結局いつもの駅に着いてしまった。


 「ありゃ、駅に来ちゃったか。まあ近道だったのかな」


 勝手に独り言を心の中で吐き、自己満足を得た。そうしてこのまま舞魅の家に。


 ………行く必要がなくなってしまった。






 

 あの変な事件から1週間が経った。


 相変わらず私の世界は普通。能力者とかが街をうろついてることも、私からすれば普通。最近読んだ本にはそんな常識は一切無かったから、そういう世界もあるのかもしれない。あったら、少しいってみたい気がする。勿論、鷹くんと一緒に。


 「暑いなー」


 思わず口に出してしまったところでふと気付く。あれ、あんまり暑くないぞ?


 んあ、そういえば、昨日の天気予報で今日は気温が下がるとか言ってたな。雨も降らないのに何でだろう?鷹くんに聞いてみようかな。


 まあいっか。自分の疑問を5文字で流す。細かいことは気にしなくていいと、恐らく父親であろう人に言われたから。


 「お前は本当にいい人間を捕まえたな」感心した口調で私に話す父は鳩のように頭を上下させていた。あ、頷いてたのかな。


 「お前は神の娘だよ。そしてそいつは人間だ。このことをちゃんと分かって言ってるのか?」


 「よく分からない。けど、私は鷹くんが好き。それでいいんじゃないの?」


 「お前はどうなんだ?人間」鷹くんを一瞥する父。


 「よく分かりません。ですが、僕は舞魅が好きです」


 鷹くんは茶化す様子も無く真面目に一つ一つの単語を口にしていた。そんな、舞魅が好きですって、真っ直ぐすぎだよ。照れちゃうなぁ。


 ああもう、惚気ちゃった。


 早く鷹くんに会いたいなぁ。


 あと何分くらいかなと時計を見ると、今から行くとメールが来た時刻から3分しか経ってなかった。こういう時にに限って時間の進み方が遅く感じるのは、人間だけらしい。本からの知識。


 一つ、妙案が浮かんだ。私から会いに行けばいいんだ、という単純だけど効果抜群の案だ。うん、今日は涼しいせいか頭が冴えてる気がする。


 私は携帯を開き、駅前に来て、はーと、とメールを打ち、支度をして家を飛び出した。後になってはーと、を鷹くんがどんな顔で、どんな想像しながら読んでるのか考えてしまって、恥ずかしくなった。


 


 


 

 「あ、鷹くん、メール見た?」駅前広場に舞魅が居た。


 「メール?いや、多分見てない。自転車乗ってると着信音聞こえないからさ。何て送ったの?」


 「え、駅前に来て、は、は、」「は?」「な、何でもない!っていうか聞かないで!メール見てよ」


 何故か急に顔を赤くする。何だろう、は?まあ舞魅の前では見ないほうがいいかな。地雷の気配を感じたので何となくで回避しておく。

 

 「今日は買い物行くの?」言いながら自転車を降りて、駐輪場へとめる。


 「うん、それともう一つイベントがあるんだー」


 舞魅はニコニコと小さい子どものような笑みを浮かべる。僕にはその表情が、聞いて聞いてと期待してるように見えたのと単純な興味から質問する。


 「イベント?んーと、何?」


 「私、今日髪を切りに行きまーす!」


 いえーい!とはしゃぐ舞魅。今日はご機嫌だなぁ。そんな舞魅を見ると僕もご機嫌になるから言い事尽くめなんだけどねぇ。


 「ショートヘアー?」肩までゆうに伸びた髪の毛を見ながら。


 「ショートヘアー!」


 「前髪は?」


 「鷹くんの好みでいいよっ!」


 「いやいや、僕は特にこだわり無いし。ショートヘアーは好きだけどね。あと僕は髪型とかファッションに疎いから、期待しちゃダメ」


 「ダメですか」「ダメですです」


 いつもとテンションの違う舞魅のせいで僕もテンポが狂ってきた。


 多分、そのせいなんだろうな。僕は今日限りにおいて、ジョーカーをゲーム中盤で切った。


 これから切るんであろう舞魅の前髪をかきあげて。


 舞魅のおでこにそっと唇を押し当てた。


 公衆の面前でキスするのはバカップルだけじゃないぞ。というか、これはキスって言うのか?


 生憎、駐輪場に人影は無かったが。


 「た、鷹くん、何でいきなりっ」


 「わざとだよ。舞魅が驚く顔が見たかった」


 「うう、意地悪………。ドS………変態」


 「っちょ、言いすぎっ」


 舞魅は神なんかじゃなく、ちゃんとした人間。なんてのは僕の思い込みであって、現実は僕を否定する。それでもいいと思える感情がいつか僕にできたらいいなと願う今日この頃。


 僕はきっと、舞魅と出会ってから4ヶ月ほどのことを一生忘れない。忘れたくない、と言う感情も僕の中にはある。


 あの非日常は、今から始まる日常の糧になるんだろう。


 神も超能力者も魔術師も魔道師も異世界人も魔女も一般人も居た。そいつらは、不確定ながらも、不完全な形で、不自然な影響を及ぼしあって、あの非日常を作っていた。


 けど。


 そいつらの中にちゃんと僕達は居た。


 僕と舞魅はそこにいた。


 僕と舞魅は一緒に、その中に居た。

 

 過去は失われないし、消えてしまうことも無い。


 僕らの全ては消えずに残る。輝かしい過去として。


以上で、本編は完結致しました。


次話からは番外編をお届けします。

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