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#実神鷹 ―物語― 7


 「舞魅」


 「へ?――あっ」


 完全に油断していた舞魅の唇に僕は唇を重ねた。舞魅の華奢な肩を抱きながら。


 「ん………あ、ん」


 5秒ほど口付けして唇を離した。目を開くと、舞魅は何故キスされたのか分からないといった表情をしていた。


 「いきなりでごめん。もう、出来ないと思って」


 「そ、そうだよね。って、え?そう……なの?」


 「いや、そうじゃないんだけど。でも、ちょっと不安になったから。舞魅とキスすると安心するんだ」


 「わ、私もだよ」

 

 「そっか……」


 安心するのは、舞魅を感じれるからだよ、とは口にはしなかった。代わりに、もう一度舞魅の唇を奪った。さっきよりも少し激しく、舌を絡めた。


 「ん……ん、は、あぅ」


 今度は長く、20秒くらいだっただろうか、細かいところは分からないがそれくらいだろう。唇と舌を離すのが惜しかった。舞魅と離れてしまうような気がしてならなかったから。


 今度はキス直後に目が合った。視線を外そうか迷う暇も無く、僕らはしばらく見詰め合った。誰かに強制されたわけでもなく、自然にでもなく。


 お互いの意思をもって。


 「好きだよ、舞魅」


 「……私も」


 心のもやもやが少し晴れた気がした。


 




 誰かが階段を上ってくる音が微かに響いている。その音は走っているようには聞こえない。ただゆっくりと、どちらかと言えば機械的な、人間味を感じさせない上り方だ。


 「移動しよう。………上のほうがいいよな」


 独り言気味に呟いたつもりだったけど、舞魅に「うん」と返事をされた。その返事として髪の毛を少し撫でてやった。舞魅はとても心地よさそうに顔をほころばせていた。


 階段を使って、建物の上を目指す。上を目指すと言えば聞こえはいいが、客観的に見れば天に近付いていってるようにも見えるだろう。


 しばらく上り続けていると、今までのフロアには無かった大きなロビーがある階にたどり着いた。


 「ここって……」前に舞魅と夜景を見に来た展望ロビーだ。けど、僕はすんでのところで口に出すことを中止できた。


 ここには、違う世界の舞魅と来た。だから、こっちの世界の舞魅とは来てない。


 「鷹くん、来たことあるの?」「う、うん」「誰と?」「小さい頃、家族で」


 ハッと思い直す。ここが展望ロビーなら、この建物は市役所じゃないか。そんなことを全く気にせずに屋内に入り込んでいたから、今まで全く気付かなかったけど。


 どこか人目に付かないところに移動しようと歩を進めようとした時、またしても僕の携帯が鳴る。


 「何だ」


 「鬼ごっこはもう飽きただろう。次はもっとスリルのあるゲームだ」


 「銃で撃ち合いか?」


 「まさか」言って不気味に笑う声の主。


 笑い声が終わった頃に、足下で爆発音のような音、そして地響きが僕らに届いた。


 「きゃっ」と僕の腕にしがみつく舞魅。僕は地震のような揺れを足を踏ん張って耐えた。


 「今からそのビルに仕掛けられた爆弾が随時爆発する。最後は最上階にある威力の高い爆弾が爆発する。今、1階の爆弾が爆発した」


 「それで?何が言いたい。お前は僕に何をさせたい?」


 挑発的な態度を示したが、返答は来なかった。

 

 僕は腕にしがみついている舞魅を軽く抱きしめて、それから手を取った。


 抱きしめる行為に意味があったかどうかは言及しない。


 「舞魅、立てる?今からでも遅くないかもしれない。逃げよう」


 「でも、外には敵が居るんじゃ……」


 「いや、僕の予想では居ない。あいつらはここに僕達を閉じ込めるための駒だったんだ」


 「じゃあさっきの階段での足音は?」


 「あれも……多分何か別のもの。人間の足音じゃなかったと思う」


 とりあえず急ごう、と無理矢理舞魅の手を引っ張り階段を降り始める。


 展望ロビーは確か24階。階段だから2分もあれば1階までたどり着ける、はず。


 異変に気付いたのは5階を過ぎた辺りから。


 妙に焦げ臭い匂いが漂ってきた。3階を過ぎると煙のようなものも。そして1階につくと、ロビーが燃えていた。もはや2人の力じゃ手に負えない程、炎は燃え広がっていた。特に、入り口付近の燃え方がひどい。


 爆弾はガセネタじゃなかったんだな。


 正面玄関ではなく、裏口からの脱出を試みる。裏口らしき場所を見つけたが、ここも燃やされている。2ヶ所の非常口も同様の状態だった。


 これ以上は身に危険が及ぶと判断し、僕らは階段まで戻り、再び上を目指した。


 4階付近まで上ったところで、今度はさっきよりも大きな爆発音と地響きが僕らを襲った。


 さすがに今回は立ってられず、階段の手すりを掴んで膝をつき、揺れがおさまるのを待った。


 「2階辺りで爆発があったか」「1階の次は2階?じゃあもしかして、下の階から順番に?」


 そうかもしれない、とは敢えて言わない。舞魅の手を引っ張り、最上階を目指した。


 30階――最上階には大きなホールがあった。何か披露宴でも行えそうな感じの割と綺麗なホールだった。需要があるのかどうかは分からない。


 そのホールのほぼ中央の床に、どう見ても不審物としか思えない、というかモロにダンボールが置いてあった。そっと中を開けると、タイマーがセットされた爆弾のようなもの(爆弾確定だ)が入っていた。


 「これ、爆弾だよね?」


 「多分、そうだと思う。威力がどれほどのものか、全く想像が付かないけど。タイマーは………あと10時間45分9秒。ってことは爆発するのは、丁度夜明けくらいってことか」


 「こんな爆弾、窓から捨てちゃえばいいんじゃないの?」


 「いや、動かすのはよくないと思う。何か仕掛けがあるかもしれないし」


 爆弾についてはドラマや映画からの知識しかないが、こういうのは触れないに越したことは無いはずだと勝手な推測を立てた。


 まさかこの爆弾を解体しろなんて言うんじゃないだろうな。


 「その通りだよ」


 頭上からあの声が聞こえてきた。舞魅は「え?何のこと?」と戸惑っているが、そんなことは気にすることじゃない。


 「マジで言ってんのか?」「なーに、10時間もあるじゃないか」「お前は僕を殺したいのか?」


 声の主は短く答えた。


 「まさか」


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