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#実神鷹 ―物語― 6


 灰色の世界の端の端には、動く2人と止まった人間。否、これは僕の主観であり、僕の勝手な想像の中では世界中の一般人が目の前の人間のように停止している。


 動く2人の一方、すなわち僕の携帯が着信する。


 「そろそろ本格的にしようと思ってね、邪魔な人間には消えてもらった」


 聞くだけで悪寒がするこの独特の声と口調。30分間イヤホンで流せば間違いなく洗脳できるレベルだ。


 「僕の目の前には人間がいますがね」


 「言葉遊びには興味ないよ。それよりどうだい、この世界。悪くないんじゃないか?これで君たちの視界で動くものは全て敵になった。動くもの全てね」


 強調したかったのか、一部を繰り返したその声は高らかに笑う。そこに人間味は髪の毛一本分すらも感じられない。


 「『これ』はいつ終わるんだ?」


 「『これ』とは?成神祭のことかな?だったら明日の夜明けまでだ。あ、君が今すぐ死ねば終わりになるが、やってみるかい?」


 そう言ってまた高らかに嘲笑する声の主。人の上に立ったら気持ちが高ぶるのだろうか。漫画などで見る中世の王族貴族を想起させる。


 「結構です。他に、言いたい事は無いですか?」


 「せいぜい頑張れ」「応援してるんですね」「それはどうかな」「ツンデレだなぁ……」


 頑張れと言うことは僕に逃げ切って欲しいわけだな。そう解釈して今回は優位な立場を奪取しようと僕から電話回線を切った。


 「聞こえてたよね」


 色彩の乏しい舞魅の顔を見つけて優しい笑顔を作って話しかけた。


 「うん……。動くものが全部敵だって……それと、明日の夜明けが終わりってこと……」


 いつもカラフルな舞魅の瞳も、今は色彩を失って心なしか少し小さく見える。萎縮、とはまた別だと思うけど。


 「そう。あいつが何をしたいか、何となく分かってきたよ。成神祭ね……よくできた名前だ。言葉遊びは嫌いって言ったくせに、やっぱツンデレだな」


 「鷹くんは怖くないの?こういうの……その、この灰色の世界とか、動くものが全て敵っていう状況とか」


 「うん、実を言うとあんまりね。それに全てが敵って訳じゃない。舞魅は味方だからね。舞魅は僕の味方で、僕は舞魅の味方」


 僕にはあの声の主が敵には思えなかったけど。舞魅はどう思ってるんだろう。


 舞魅はそれ以降返事をすることなく、ただ僕の横で軽く、軽微に震えていた。


 んー、何かいまいち緊張に欠けるなぁ。


 昔から飽き性だったもんなぁ僕。長く続かない性格ってのは嫌気が差すね。まぁ睡眠取れば忘れられるくらいのものなんだけどね。


 楽天家、と中学の友達に言われた。そいつには偏見家って返したけど、あれはあながち間違いではなかった気がする。


 今だって舞魅とくっついてるけど、舞魅が僕の元から居なくなる気がしない。全く。皆無。そして。


 「そして、僕の感じた気は大抵現実となるのであった」


 これはたいけんだんです、まる。このものがたりは、じつわをもとにせいさくされています。






 中学校生活は楽しくなかった。


 中学校に居るのは子どもばかりで、その子ども達は皆ガキだった。多分思春期の影響だろうけど、敢えて教師に反抗する奴、ルールを守らないのをかっこいいと思う奴、すぐに周りと比べる奴などなど、ガキ盛りだくさん、特製ガキの寄せ集めみたいな感じだった。


 教師は皆いい人たちだった。


 好き嫌いはあっても、いい人なのは違いなかったと断言できる。


 友達は多いほうではなかった。むしろその逆だった。


 多分僕の友達の定義は狭いんだろう。友達とは、クラスメイトを指す言葉ではなく、仲のいい人を指す言葉でもない。その人の前では素の自分で居られ、素直になれ、助け合える人を指す言葉だと僕は確信している。  


 そんな捻くれ者の友達は6人だった。これが多いか少ないかは主観に頼ることになりそうだから敢えて計りはしない。僕の主観で客観的に見れば、少ないという意見が多数を占めそうだけどね。


 そんな友達から漫画や小説を教えてもらった。


 面白かった。現実に無いことが、その世界では起こっていたからだ。僕が特に気に入ったのが、SFモノ。サイエンスフィクションモノ。その中でも取り分け現実に起こりえそうなことが載ってある漫画や小説を、僕は好んで読んだ。


 『こういうのって、もしかしたら現実で起こることがあるのかもしれない』15歳が見た希望は今、確かに現実となって起こっていたのであった。


 これはたいけんだんです、まる。まだすこしつづきます。






 気が付くと、と言うより、ふっと気が抜けた瞬間、僕らは建物の中に入っていた。


 心臓が激しく鼓動を繰り返す。その振動が体全体に伝わって、僕の視界や鼓膜を躊躇無く揺らしていく。舞魅の方も、足に自信があったとはいえ短距離走と長距離走を繰り返す運動は初めてだったらしく、僕同様に肩を上下させながら息を吐いている。


 「はぁ、はぁ―――」


 「は、ぁはぁ、はぁ」


 少しの落ち着きを取り戻した頃に、少しこもったあの声が上から振動として降ってきた。


 「意外としぶといんだねぇ。ここまでもった奴は久しぶりだよ。600年ぶりくらいだな」


 「喋り方変わってないか?」


 「さぁ、気まぐれで変わってるのかもしれないな。それが何か重要かい?」


 「さぁ、気が向いたら教えてやるよ」


 「君には口の聞き方を教えないといけないかもしれないねぇ」


 ほらまたそうやって口を滑らす。600年ぶりというと、100年毎か150年毎くらいのペースでこんなことやってるのか。50年毎じゃないことを祈ろう。生きてる間に2回もいらない。


 以後、声が降って来ることは無く、しばらく無言の時間が過ぎた。


 ……………………………………………………………………………………


 休憩終わり。


 「そろそろ出よう、舞魅」


 「うん。鷹くん、今何時?」


 「午後18時38分」


 「あと……、何時間くらいかな……」


 「12時間も無いよ」


 8月上旬の日の出の時間はだいたい6時半くらいだろうと勝手な知識作りから適当な言葉を吐いた。


 




 回想シーン。


 「舞魅!こっち!」


 舞魅の手を引き、敵から逃亡するために足を酷使する。舞魅も少し引っ張った後は自分の足を使って前へ進む。


 もう何回こんなことをしてるんだろう。


 鬼ごっこは逃亡者が捕まらない限り、時間の許す範囲で永久的に続けられるゲームだ。今回の時間の許す範囲というのが、明日の夜明け。そして僕達は捕まらないと言う前提があるから、足し算引き算掛け算割り算を駆使すると、明日の太陽がおはようを言う時刻が、このゲームのリミット。終了時刻。


 それまで僕は舞魅を守らなければならない。


 あ、また動く物体だ。めんどくさいなぁ。


 「舞魅!隠れて!」


 舞魅に覆いかぶさるように壁に張り付く僕ら。体が密着して、普段ならドキドキするシーンだが、今回は違う意味で心臓がハードワーク中だった。仕事熱心な奴だ。


 あと14時間か。腹減るな。どうするか。


 んー。


 何か大丈夫な気がする。


 僕の感じた気は以下略。まだおわりません。


 


 


 回想終わり。


 物語はまだ終わらないけど。


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