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#実神鷹 ―物語― 2


 こんな日に限って休日であり、世間一般人並びに社会人は基本的に休みな日曜日だった。


 同居してる姉ちゃんも漏れなくそいつに入ってるわけであって。騒ぎが無いことからまだ寝ているのだろうと考える。


 左目をこすりながらリビングへ向かうと、こちらもまた眠そうな目をくりくりさせている姉ちゃんを発見した。今起きたらしい。寝ぼけているのか、この赤が見えていないのかどっちだろうか。


 「おはよう鷹」「ああ、おはよう姉ちゃん。今日は空が赤いよね」


 疑問符を排出された。そりゃそうだ。やはりこの赤は姉ちゃんには見えてない。


 「何言ってんの鷹。寝ぼけてる?目覚めのちゅーしてあげよっか?」

 

 「今日は遠慮しとくよ」また今度に取っといて、とさりげなく所望する。


 どう説得したものかと頭を悩ませる展開を全く期待していなかったんだけど、期待通り。寝ぼけている姉ちゃんを出し抜いて僕は早々に家を出た。とんだ姉不孝だな。将来は宝くじを当てて姉ちゃんを幸せにしてあげようと夢を見ようとしたけど、赤い世界によって阻まれた。


 暗記用の赤い下敷きを目の前にかざして見た世界、と言えば少しは想像がつくだろうか。世界が、周りが、風景が赤に埋もれてしまい、色彩の判別ができない状態。ほとんど白か黒か赤にしか見えない。昇って3時間くらい経ったはずの太陽が照らす空も、見事な夕焼け空に変わっている。


 移動手段は、自由度を優先して徒歩と公共交通機関。自転車はいざとなったときに逃げることができないと判断。まあこのバスの中だって逃げ場は無いんだけど。


 20分ほどで駅前に到着。ここから徒歩で舞魅の家に向かう。その間に一つやることがあることを僕は忘れない。


 精神がまいりそうなこの赤い空間のせいで、1回、ボタンを押し間違えた。2回目で、電波は相手に届いた、はず――届いた。電子音5回で先輩は電話に出た。


 「もしもし実神かあ?何だこんな朝っぱらから。デートなら昨日行っただろ」


 「行ってません。それからデートの誘いでもないです。僕の勝手な推測ですが、先輩、今起きましたね?まだ布団と抱き合ってるんじゃないですか」


 「そうだよー。電話で起こされるなんてなんか久しぶり。で、何か用?」


 「とりあえずカーテンを開けて窓の外を見ることをオススメします。というかしてください」


 シャーっと、カーテンレールの移動する音。先輩の寝ぼけた声。「外に何かあるの?」「あ、分からないならいいです」この赤は今のところ舞魅と僕にしか見えてないようだ。


 「先輩、ここからが本題なんですけど」先ほどまでとは少し声色を変えて言う。


 「先輩は魔女ですよね」


 「今更だね」


 「ずっと黙ってたことなんですけど。この前の、舞魅の誘拐事件は覚えてますよね。僕が助けに行って事なきを得た事件でしたけど。その誘拐事件の主犯が別れ際にこう言ってました」


 「……………………」


 わざと間を持たせた、もしくはなかなか言い出せなかった。どっちかだろう。


 「『私は、全ての魔女を統括する、魔女の総代表』だと―――」


 「………………………」


 電話の向こうで血の気が引いてく音が聞こえた。困惑した先輩は舌が職務放棄したのか、無言を通している。もはや喋る気力も無いのか。


 「先輩……知らなかったんですか?」「…………………」「先輩、一体何が起こってるんですか?」


 先輩は答えない。否、答えを持ち合わせていないんだろう。


 でもそれは同情には値しない。魔女の総代表が僕の敵なら、先輩も立派な敵だ。もう信用はできない。こんな非日常的な世界じゃ、味方は選ばないと。自分のためと、何より舞魅の為に。


 「やっぱり………先輩とはもう仲良くできませんね。ちょっと、残念な気がするけど……」


 結局先輩は押し黙ったままで、僕は一方的に電話を切ってしまった。


 所詮そんなもの。人との関わりはほんの些細なことで断ち切られる。


 或いは、舞魅と僕も。


 




 そろそろ目が疲れてきたといったところで、舞魅の家に到着した。インターホンを押すと清水川さんが対応してくれた。こちらも赤色には気付いてない模様。


 もしかしてこれは、僕の精神を崩壊させるために、僕の脳に電波を飛ばしてるんじゃないか。


 最も確率の低い意見を述べてみました。虚しさしか生まれなかったとさ。


 戯言を楽しんでいると、舞魅の部屋の前まで来た。ノックする。


 「舞魅、僕だよ」「はーい」


 えらくお気楽な声だな。緊張感がっと、パジャマ姿の舞魅が出てきた。


 「何でパジャマ?」「き、着替えるのが怖かったから。でも、鷹くんが来たから着替えるよっ」


 あれ?なんかおかしくないかそれ。


 「え、目の前で着替えてくれるの?」「………えっち」


 何でそうなる。と突っ込んでみた。僕は後ろを向いてろとのことだったらしい。じゃあ僕を待ってた意味は一体?と疑問は残ったけど、あえて口外しなかった。


 僕の背中方面で舞魅が着替えを完了させてから、僕らは話し合いへと流れ込んだ。


 「この赤いの、何なのかな?」


 「僕にも分からない。ただ、いつもと違うって事くらいしか……」全く頼りない彼氏だな僕は。自虐したところで事態は好転しない。


 「あのさ、今日起きる前に変な夢を見たんだけど、その時に神が出てきて」かくかくしかじか話そうと思った矢先、僕の携帯に着信アリ。迷惑メールとかだったら切れるぞ、と眉をひそめたけど、メールではなく電話だった。番号は非通知。


 「出た方がいいんじゃない?」舞魅がそう言ったので、いい知らせを期待して出てみた。


 「もしもし――」


 「実神だな」ドラマとかでよくある、変声機を通したような声だった。嫌な予感純度100%一直線直球ど真ん中だ。切ってやろうか。


 「失礼ですがそちらは?」舞魅が僕の携帯に耳を近づける。


 「名乗る必要は無いから名乗るつもりは無い。今、お前らには世界が赤に見えるだろう」「それがどうした」「今日から成神祭だ。お前は命を懸けて、どんなことをしても岡後舞魅を守れ」


 前半部分に聞き慣れない単語が含まれていた。


 「成人祭って何だよ」「神に成る祭りで成神祭だ。追い追い、意味が分かる。大事なのは後半部分、ちゃんと聞いてたか。もしできなかったらお前も岡後舞魅も死ぬことになる。今はそれだけ理解していればいい」


 赤い非日常の世界に舞い込む非日常の報告。死と隣り合わせになるという恐怖。以前先輩から聞いた話を思い出した。


 「勢力争い?」


 「何の話だ?」


 「神々、もしくは能力者たちの勢力争い―――今から始まるのはそれか?」


 「……一つ、優しさを見せてやろうか。それは違う、とだけ言っておく」


 こいつは一体何を言ってるんだ。もしかして全部口からでまかせなんじゃないのか、と楽観視してみる。少しでも気を紛らわすために。


 「お前」「長話する時間は無い。もうすぐ始まる。せいぜい死なないようにしろ」


 「てめぇ待て!人の話を」叫ぶ頃には電話は切られていた。


 脳で処理しきれない情報が僕の中で混沌としている。


 ああ、いつから僕の日常はこんなことになったんだ。


 ああ、舞魅と出会ってからか。

 

 ああ、ならいいや。それならいい。つまりこれは、舞魅と出会ったことによるものであり、僕にとって不幸の類じゃない。


 ああ、そういえば時間が無いとか言ってたな。舞魅に準備をさせないと。どうにもこの先、いいことは舞魅と一緒に居られることくらいしかないようだし。


 「あ、あの、鷹くん。成神祭がどうって言って」今度は爆音が舞魅の言葉を遮った。全く、ゆっくりお喋りもできないなんてな。イライラさせて冷静さを欠かせているのか。


 「ちっ―――舞魅、準備して行こう」「へ、い、行くってどこに?準備って?」「ここから離れよう。多分ここはもうすぐ………」


 もうすぐ、この家は跡形も無く消える。


 

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