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#実神鷹 ―くのいち― 6


 既に廃れていて、どこが玄関だか分からない建物だが、ひとまず入口と思われる場所を見つけたので、入ろうと思ったところを、後ろから声を掛けられた。何だよ。僕は舞魅を救出するのに忙しいんだ。後にしてくれないかな。そう言うと、男と思われる声が続いた。


 「まぁまぁそう焦るなって。ちゃんと会わせてやるさ。ボスもそういう方向らしいし」


 振り返りながら、そいつの存在を確認する。「誰だお前。敵か味方、どっちだ?」


 「味方じゃないことは確かだ」「それは雑魚キャラの台詞だ。つまり、お前は雑魚キャラということだ。よし、さっさと僕に倒されてくれ」


 「まぁまぁ。お前はせっかちだな。名前何ていうんだ?にのかみだっけ?」


 まぁまぁ、が口癖のその男は、全身黒だった。まるで時代劇に登場する忍者のような容姿。腹の中もさぞかし黒いことだろう。背中には刀身の見えない刀。顔もほとんど見えておらず、紫外線対策はばっちりだった。この夏の昼間からの対策は賛美に値するとしても、気候を考えれば快適そうには見えなかった。


 「誰がお前なんかに名前を教えるか。で、舞魅はどこにいるんだ?」


 「こっちの質問に答えろよ」


 「何だよ」


 「お前、能力か何かもってんのか?」


 「それを言えば舞魅の場所を教えてくれるのか?」


 「おっと、それは質問だな。その質問に答えるためには、まず俺の質問に答えてもらわないと」


 かはは、と快活に笑う忍者野郎。わざとだろうか、隙を見せている。それとも、僕にとっては隙ではないとでも思ってるのだろうか。どっちでもいい。


 「超能力、魔術、魔法、その他の能力は一切持っていない。ノーマル。一般ピープルだ。これで満足か、忍者野郎」


 「かははははは!」口が元気に動く奴だ。「あぶねぇあぶねぇ、つぼに入るところだったぜ。で、何だって?無能力?何で一般人がこんなとこ来てるわけ?ここはもうお前らの居る世界じゃねぇんだけど。裏世界だぜ。裏世界。お前ら一般人がのうのうと生きているのが表世界。その辺ちゃんとわ――!っと………」


 不意打ちで手と足を出してみたが、ぎりぎりのところでかわされた。


 「早く教えてろ」


 「時計台に居るさ。さて、俺はボスにこう言われた。実神を殺せと。これの意味、分かるか?」


 口元が歪むのが分かる。余裕の笑みか。こういう奴は笑って間抜け面して死ねばいい。


 「そのまんまの意味だ。僕を殺せばいいということ」


 「そうだ。だが俺はそんな浅いことは聞いていない。それはお前も分かってるはずだぜ。俺が言いたいのはだな、この言葉の裏にべったりひっついた、ボスの意図と策略、考えのことさ。ボスはお前と会って話がしたいと言っていた。が、ここでは俺に殺せと言った。その意味が、お前は分かるか?」


 こいつに殺されるくらいなら、わざわざ話をしなくてもいい。こいつを倒してくるような奴なら注意すべきと、こういうことだろう。要するにあんたのボスは、あんたを大して信用してないっていうことになるな。勿論、口には出さずに、考えで止めておく。それにしても、そのボスは物分りが良いらしい。こちらから会談を申し出たいくらいだ。おっと。今はもう誘われてるんだったな。ということはあれだ。こいつを倒せば僕の目的は達せられるわけだということ。


 「ふうん――」それなら話は早い。「よく分からん」所詮こいつも人間だ。


 「そうかい。何か分かったんなら協力してやってもよかったけど。おっと、口が滑ったが、まぁまぁ、よしとしよう。ここで殺せば関係ない」


 「ここで待っていたのは、校舎内への侵入を防ぐという意味か?」


 もう少しだけ、時間稼ぎをしよう。考える時間を稼ごう。


 「そうなんじゃないか?俺にはどうでもいいことだが、それはお前にも一緒なんじゃないか?」


 「さぁ。どうだかね。ところで、あんたはどんな能力者だ?忍者か?」


 「忍者だ」


 予想通りの返答だった。舞魅の家に侵入したのが忍者だったから、だいたいの予測はついていた。


 「忍者っていうのは、歴史とかに出てくるあの忍者だよな?」饒舌なこいつを信じて、もう一押し。


 「ああ、ただし、よく言われる形の手裏剣は持っていない」


 「手裏剣?」


 「ああ、本物はこんな感じだっ!」


 投じられた手裏剣をかわしながら、2歩で相手に近づき、拳を繰り出した。が、男は僕の拳をするりと避けて、再び懐から手裏剣を出そうと手を伸ばした。


 「おわっ!」


 「――!おりゃあ!」


 何故か体勢を崩した男に、僕は全体重を乗せて覆いかぶさり、その首元にスタンガンを突き立て、スイッチを入れた。一瞬の閃光と、男の体がビクンと跳ね上がるのを感覚神経から確認した。それから男は力が抜けたように動かなくなった。


 「……………やったか」


 スタンガンのリミッターは外していた。だから多分だが、こいつは当分起きないだろう。もしかしたら、もう心臓が止まってるかもしれない。しかし、あらかじめゴム手袋をしているのを奴に悟られなかったのは幸いだった。気付いていたのかもしれないけど………。


 男が体勢を崩した時、足下に瓦礫の中の比較的大きい石があった。今は何の僕に何の干渉もなく、男の足下で佇んでいる。無機物のくせに僕に加担するなんていい奴じゃないか、あくまで無機物だけど、とその石を一瞥し校舎の中へ入る。


 中は埃まみれで、生徒達が学業を営んでいたであろう面影はほとんど残ってない。その割に廊下は夏の太陽の恩恵もあってか、明るく照らされていた。天井に見られる亀裂から、倒壊の危険を感じた僕はすぐに校舎を抜けて時計塔のほうへ向かった。


 「………いてぇ」


 右上腕部に金属の細長い棒のようなものが生えていた。大きな釘にも見える。が、何だこれは、抜いても大丈夫だろうか。10秒ほど考えた結果、刺したままだと危ないという結論に至り、抜くという行動を実行に移す。血が吹き出したりはせず、服が少し赤く染まる程度だった。


 これくらいなら、腕をまくっておけばいい。金属棒は持っておこう。


 あれ、これが手裏剣なのか?


 金属棒を注意してみてみる。先が尖ってる。削られた鉛筆の如く。ただそれ以外に特徴は無い。


 まぁいいさ。そんなこと、舞魅を助けるのに関係ない。


 中庭を抜けてもう一つの校舎を足早に抜けると、屋根に十字架が付いた建造物を発見した。残念ながら僕は仏教徒なので、特に何も思うものもなく、お祈りすることも、胸の前で十字架を描くことも、「アーメン」と口に出して言うこともなく、ただその建造物の前を通り過ぎた。今僕が言った例えは全て、僕の想像によるフィクションであり、実在の宗教とは関係ありません。もし似てることがあっても、それは他人の空似的なアレです。と、誤魔化してみた。


 きっとあれは教会なんだろうと、一人早合点する。キリスト教(あ、言っちゃった)系の学校だったということなんだろう。だとすれば、時計塔なんて仏教と関わりの浅い建物があっても不思議じゃないわけだ。


 時計塔の高さは、目測で約50m程。推測だが、直方体であるその形の4つの側面全てに時計が組み込まれているんだろう。僕の居る角度からは二つの時計が同じ時刻を刻んでいる。


 「田舎にキリスト教系の学校ねぇ……」


 僕の固定観念の中に存在しないシロモノだった。あくまでも固定観念、と言ってしまえばそこで終わる話だったので、展開しようとは思わなかった。


 しかし、僕が見るだけの情報では、この学校で以前教育が行われていたかどうかは分からない。


 極端な話、わざと廃校っぽく見立てた立派なアジトかもしれないのだ。


 悪の組織がそこまでしてアジトを作るかという点については、今度悪の組織の誰かに聞くとして、時計塔の前までやってきた僕だが。


 また一人、今度は女が僕の行く手を阻む気満々にそこに立っている。今度も真っ黒な人間だった。いやいや、この女性は肌を焼きたくないが為にこんな服装をしているただの一般人かもしれない。キリシタンで、教会にお祈りに来たとか。


 「あーあ。来ちゃったんだー。すごいねー君。一般人なのにあいつ倒してきたんだ。ふんふん。で、えーっと?ああ、殺ればいいのね」


 どこの宗教だろうか、初対面の人に向かって殺るなんて言葉を使うのは。


 「ちょっとくらい会話してくれてもいいんじゃないですか?さっきの人はすごく喋ってくれましたよ。おかげでここまで来れたんですけどね」


 「だったら尚更、話す気にはなれないね」ふん、と鼻で笑う女。相変わらず声はこもっていて聞き取りにくい。「あんたは話してる間に自分を有利にできる何かを持っているかもしれない。そういう可能性が出たら真っ先に潰すのが鉄則。はい、会話終了」


 「そうですか。でも僕が喋る時間は与えてくれるんですね」とりあえず口を動かしたが、全く耳に入れてない様子だった。傍から見れば、僕が独り言を吐いてるように見えただろう。さて、思考お終い。


 女が、持っていた薙刀を僕の方へ向けて突進してきた。


 「うおおおおおおおお」


 がきん、と金属と石がぶつかる音。一振り目は僕がかわしたため空振りとなった。が、すぐに追撃が僕を襲う。ぶん、ぶん、と風を切る音が間近に聞こえる。僕がどんどん後退していくと、途中で女は追撃を停止し、こちらを見据えたまますり足で元の場所へ戻っていった。


 「そこから動けない。というか、その入り口さえ死守していれば良いと、そういうことか」


 「……………………」女は答えない。会話は完全に断ち切られた。


 「じゃあそろそろ軽く力入れてみるか」


 深呼吸する。女は襲ってこない。


 いつも手抜きの僕が、珍しく力を出すと言ってるんだ。もう思いっきり注目しろよ。


 もう一度女を見据える。


 女が5人に増えていた。


 「はぁ?」


 「ふっふっふっふっふっふっふっふ」不気味な笑いを響かせる5人の女。皆全く同じ動作を全く同じタイミングで進める。薙刀も5本に増えた。


 「おいおい、マジかよ………」折角格好良く倒してやろうと思ったのに。


 雑魚はすぐに倒されるんだよ。


 それが物語での絶対であり、鉄則だ。例外は無い。


 昔のように、力を使いすぎることも無い。今はちゃんと自制できている。


 だからこそ、今こういう時にこそ、この力は使うべきだ。そうだよね、姉ちゃん。


 昔は色々迷惑かけました。ごめんなさい。


 あの時叱ってくれた姉ちゃんのおかげで、今ここで力は役に立ちます。


 僕は手抜きを解除し、40%ほど力を出す。


 敵は見えた。後は、倒すだけだ。


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