♯岡後舞魅 ―知り合い― 1
放課後、視聴覚室にて。
私は、目の前の人――実神鷹という人と2人きり。
「じ、実は、その、これは罰ゲームみたいなもので……」
「罰ゲーム?」
ああ、と彼は頷く。
「もしかして、ゲームで負けたから告白、みたいな?」
「そ、そうですっ!私、あらゆるゲームが弱いんですっ!」
弱い、というより、半ばルールがよく分からないっていうのもあるんだけど。私は覚えるのは苦手だ。
「さ、最初は、ババ抜きで負けたんだけどねっ、それくらいで罰ゲームなんて酷いよって言ったら、今度はボーカーやったんだけど、それも負けて―――その後、ブラックジャックとか、神経衰弱とか、七並べとか……どんどん……負けていって………」
「それって、岡後さんはカードゲームが弱いだけじゃないの?」
「違いますっ!私……人生ゲームとかも負けたから――」
本当は、他にも大富豪とか、オセロとかもやったんだけど、全部負けたし……。そう思って私は、そのことに関しては伏せておくことにした。
「本当に弱いんだね」
彼は面白そうに笑った。それは、馬鹿にしている笑いではなく、純粋な笑いだった。自然、私も笑顔になった。
「もしかして、他にも大富豪とかやって負けたの?」
びっくりした。まさか彼がそんなことを言い当てるなんて、全く考えてなかった。それが顔に出てしまったのか、またしても彼は面白そうに笑っている。面白そう、というより、とても楽しそうだ。
「岡後さんって、いじめられるようなタイプには見えないんだけど………もしかして中学のころからそんな感じだったのかな?」
「………………」
「あ、ごめん。嫌なこと聞いたかな……。忘れて」
「ち、違うよ……そうじゃなくて、私ね―――」
私は、本当のことを言おうか迷ったけど、結局言うことにした。そう決断させたのは、彼のその笑顔かもしれないし、ちょっと変わった喋り方かもしれない。どちらにせよ、私にとって彼は特別な存在に見えた。
「私、中学のことはよく分からない―――」
「……それは、何か理由がある、よね?」
「うん――」
彼は、私の答えを待っている。
「私、春休みより前の記憶が無いんだ――」
その言葉に彼は、少し驚いたような様子の後。
「それって………」
「うん。記憶喪失らしいんだ」
記憶喪失のことを最初に話す人が、まさかこんなところで会った男の子になるとは、全然思ってなかった。




