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#実神鷹 ―異世界― 5


 僕は女子とデートするのは初めてではなかったので、下手に緊張なんかしないが岡後さんは違った。緊張はして無いけど、11月に雪が降ったときの中学生のように興奮していた。テンションアゲアゲ。


 田舎者が都会のデパートではしゃいでいるのと同じだ。


 『あ、見て見て実神くんっ!』 


 『あ、あそこ行ってみたいっ!』


 『こっちこっち!』


 『わぁ~この服可愛い!あ、こっちもいいなぁ。ね、実神くん!どっちがいいかなっ?』


 女の買い物に伊達で付き合うものじゃないと言うのは、経験上分かっていたし、伊達のつもりもなかったけど、岡後さんのハイテンションも手伝ってか、昼過ぎにはぐったりするはめになった。


 女の買い物に付き合うのってこんなに疲れたっけ?


 まぁ高校生と中学生を比較すれば、買い物の量なんて一目瞭然なんだけど。見落としていた。


 そんなこんなで。イタリアンレストラン(リーズナブルな店)で、昼食を摂っている。僕の正面でバスタをフォークに巻きつけている岡後さんはまだまだ元気そうな様子だ。中学生の修学旅行みたいな。普段より疲れることしてるのに元気、みたいな。


 岡後さんは今、白のワンピースに着替えている。1時間ほど前に買ったやつだ。線の細い岡後さんに、ワンピースはとてもよく似合っている。白鳥の湖を思い出すくらい。


 「えへへー。デートって楽しいねっ!」


 「うん。すごい楽しい。学校なんて行きたくなくなるくらい楽しいよ。僕はこんなに楽しいと思ったのは人生で初めてだと思う」


 「えへへ、私もっ!」チューリップのような(可愛らしい)笑顔を作る岡後さん。記憶喪失の彼女は何事も初めてが多いんだろうな、と心の内で呟く。本当は初めてじゃないものも含まれているはずだけど、本人の脳がそう言ってるんだから間違いじゃない。


 「午後は実神くんが連れて行ってくれるんだよねっ?」


 「ああ、勿論。でも僕は気分屋だから、予定通りに行くとは限らないよ」まぁ変なところに連れ込みはしないけどね。


 「私は予定知らないから、そんな事言われても分かんないんだけどね」


 「そうだったな。つまり僕は嘘をついてもばれないということだ」


 「嘘はやめてよ」


 「何で?」


 「嘘つかれるの嫌じゃん」


 至極真っ当な意見だった。真っ当、当たり前すぎて一瞬「は?」と思った。嘘つかれるのは嫌。それはその通りだろう。嘘つかれて気分のいい人なんて僕の知り合いには居ない。世界中探せばどこかにはいるのかもしれないけど。けど。日常では、嘘が自動販売機のように便利に多用されている。それは僕も含めた一般の人は知ってることだから、岡後さんの言葉に疑問を抱くが、そんな常識を知らない岡後さんは違う。当たり前のように、当たり前の意見を述べてくれる。


 岡後さんと一緒に居ると、たまに自分がおかしいんじゃないかと思うことがある。そして実際そうだったこともいくつかあった。その度に僕は岡後さんに尊敬の念を抱いている。純粋ゆえに、当たり前のことを教えてくれるからだ。


 「そうだよね、嘘つかれるのは嫌。当たり前なのに何で聞いたんだろ」


 「実神くんは、私に嘘つかないよね?」当たり前じゃない、と言わんばかりに聞いてくる。


 「うう。約束するとは言い難いんだよなぁ」


 「な、何で?私に嘘つく予定があるの?」


 「いやさ、嘘っていうのは予定外の時につくものだからさ……」


 「……………………………」


 「分かった。約束する」折れたわけではない。純粋に、自分の意思で頷いた。嘘かもしれないけど。


 僕の言葉を聞いて岡後さんは納得したようで、再びフォークにパスタを巻きつけそれを口に運んでいた。僕の前には、空になったグラタンの容器が一つ。もう食べ終わっている。


 さて、どこに行こうかな。


 気分で決めようと決めたその理由もまた、紛れも無く気分だった。


 



 

 

 ゲームセンター。100円でお菓子も取れて人形も取れて、ゲームができる場所。


 センス無ぇ。最悪だ。


 岡後さんは思いっきりはしゃいでいるけど………。どうやらゲーセンは初めてらしい。買い物も初めてだから当たり前か。


 岡後さんが特に望まない限り、長居するつもりは無い。他にも候補は一杯あるんだし。


 僕達はUFOキャッチャーのエリアを徘徊していた。


 「あ、これ可愛いっ!」ケース内のある人形を指さす。茶色の脱力系のあのクマだった。


 「欲しい?」


 「うんっ!」


 「じゃ、取ってみる」


 財布を取り出し、機械に百円玉を入れた。大型クレーンが大型リラックマを捕らえに行く。真ん中より後方を持ち上げて、どうだ。――取れなかったが、かなり位置がずれてくれた。


 「あー……難しいんだねぇ……」


 「岡後さん。僕の武勇伝にゲームが得意っていうのがあるんだ。勿論ジャンルも関係あるんだけど、こういうのは得意なほうだから」


 「ぶ、武勇伝?」


 「自慢できる部分、みたいな」


 わざと格好つけてみた。興味と関心で。元から一回で捕ろうとしてなどいない。こういうのは二回で取るのがコツなんだ。


 僕はクレーンを操作し、今度は例のクマの右側を持ち上げた。バランスを崩されたクマさんは左に転がり、そのまま穴に落ちた。二百円でゲット!


 「わわっ!すごーい!すごーい!!わっ、可愛いなこのクマ。ね、次私やってみたい!」

 

 岡後さんはそれから、UFOキャッチャーに嵌ってしまったが、どうやら得意なほうではないということが判明した。全然取れてない。お金だけが機械に吸い込まれていく。それでも岡後さんが楽しそうだったから僕は満足してその光景を眺めていた。そして岡後さんが初めて自分で商品またリラックマだったをゲットしたところで、ゲーセンからはおいとますることにした。


 また手荷物――手に持つものが増えたが、それは岡後さんとの幸せが増えたことだ、なんてロマンチックな語りを脳内再生して、僕の両腕に脳が力を与えた。


 次に訪れた場所は、ボウリング場。デパートの五階にあるという表示を見つけて直行した。


 無論、ボウリングなんて見るのも初めてな岡後さんは戸惑っていたが、何とかついてきたようだ。


 ボウリング場って、飲み物もあるしイスもあるし。ゲーム数を決めれば時間が無制限だから、結構居心地がいいんだよね。


 そんな考えと、僕のボウリング好き(下手の横好き)もあってのボウリング場。ボウリングってルール簡単で分かりやすいからいいよね。案外初心者の方がスコアが良かったりするし。


 ………………………………………


 ……………………………………………………


 いや。


 下手の横好きって言ってもガターばっかり出すわけじゃないんだぞ?


 一ゲーム中に一、二回くらいだぞ?


 結論から言えば、岡後さんは、ボウリングが非常にお上手だった。ガターがゼロ。ストライクは1だけどスペアが6回。スコアは150を超えた。上手すぎる。僕のベストスコアは128だけど、初ゲームの9投目で破られた。


 ボールの重さは、軽めの8ポンド。勢いもそんなにつけない投げ方。一見すれば150なんて難しいが、岡後さん、コントロールが以上に上手いのだ。一番ピンに6,7回は当てている。スコアの高さのカラクリだった。


 「ボウリングって楽しいねっ!」


 終えた後の感想がそれ。確かに楽しそうだった。ゲーセンに居た時よりはしゃいでただろう。


 「次はどこ行くのー?」


 僕は今度は右手を岡後さんの頭の上に置いた。西に傾いている夕陽が髪の毛をオレンジ色に染める。そして、手を水平方向に。撫でる。撫でる。サラサラ――。


 「映画館に行こう」


 醜い優越感に浸りながら僕は言った。


 

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