#実神鷹 ―出会い― 2
「おかしり……まいみ?」
「はいっ!岡後舞魅ですっ!」
「はぁ…で、岡後さん、何の用かな?」
僕は完全に拍子抜けしていた。野蛮な男どもが来るような雰囲気も無い。そこにあるのは、のほほん、とか、ほわん、とかそういった空気。多分、この岡後という女の子がオーラを出しているに違いない。
「あ、あの、えっと、手紙、呼んでくれましたか?」
「ん、ああ、読んだよ。読んだからここに来たんだけど……」
「あ、そっか、そうだよね。あははははは――」
僕は笑わない。というか、笑う要素がない。
「あ、あはは………え、えっと、実は、ここに呼び出したのには訳がありまして……」
改めて、といった感じで、彼女は笑顔から少し、真剣な表情になった。
「そりゃ、訳があるんだろうね」
「はい。それで、その訳というのがですね」
「訳というのが……?」
「えっとですね」
「………………」
「………………」
すると彼女は、何か決心したように拳を握り締めた。それがどんな意味を持つかはおおよそ把握していたけど、その後の行動は予想外だった。
突然彼女は俯いて。そして鼻を啜り始めた。それはいじめられた子が泣いているような、そんな光景だった。いや、『ような』ではなく、もう泣いてるかもしれない。
「え、ちょっと――」
「あ、いや、泣いてないですよ。私、泣きませんから」
彼女は顔を上げたが、その顔に涙はなかった。
「実はですね――」
「うん」
ふいに、彼女の目線が外れた。
「私、前からあなたのことが」
「待って!」
僕は彼女の言葉をぎりぎりのところで遮ることができた。
「な、何?」
「岡後さん、さっきの言葉、本心じゃないんだろ?」
「え―――」
彼女は、僕が何を言っているのか分かってないらしい。
「大方、誰かに……言わせられたってとこかな……。でも、いくら嘘でも、好きでもない人に好きなんて言ったらダメだよ」
「……………」
「何か違ってるか?」
「……いや、違ってないです……」
言った途端、彼女はその場に膝をついて泣き崩れてしまった。僕はそんな彼女に近づいて、肩を支えてやった。さすがに、胸の中で泣かせるわけにはいかなかったから。
その後、僕は岡後さんが泣き止むまで、ずっと待っていた。励ますことはできなかったけど、待つことはできた。そうして、岡後さんは泣き止むと、ゆっくりと顔を上げた。
「もう、大丈夫?」
「はい……」
「いじめられてたの?」
「いや……いじめとは、違うかもしれないけど」
そう言うと岡後さんは、こんなことになってしまった理由を語ってくれた。
僕達の出会いは、あまりに劇的だった。