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#実神鷹 ―魔道師― 1


 僕は油断していた。


 木津達は屋上に行ったもんだと思ってたが、それが間違いだった。


 トイレで待ち伏せしていたらしい木津達は、そこから岡後さんを屋上に連れて行った。―――と、思っていたがそれも違った。


 「実神くんっ!岡後さんが、木津さん達にどっかに連れて行かれてたよ!」


 そう教えてくれたのは、クラス内でも僕に話しかけてくれた、夙川しゅくがわさんだった。


 「ごめんね!あたしっ、止められなくて……」と、今にも泣きそうな顔で僕に報告してくれた。僕は「ありがとう」と一言だけ言って、いつも通り屋上へと走った。


 が、予想外なことに屋上には誰も居ない、という状況。僕は焦って学校中を探し回った。そして、体育館裏の立ち入り禁止の場所で木津を発見した。


 「おい木津!岡後さんはどこへ行った!」


 木津は身体を震わせながら「し、知らない……」と言った。「和服を着た、坂上とか言う奴と一緒にどっか行った……。あとは知らない……」


 「本当だろうな!何でお前そんなに苦しそうなんだよ。あ?」


 僕は明らかに動揺している木津に問いかけたが、木津は「あ…あいつが……」と、話にならなかったので、琴乃さんを探すことにした。そして廻り廻って、この茶道部の部室にたどり着いたのだった。


 


 

 以上、回想終了――。


 




 「えっと、それで、岡後さん、あいつらに何されたんだ?」


 まずはそれからだ。木津がどうして怯えていたのかは後回し。


 「……2,3回、蹴られただけだよ……。脇腹とか、さ」


 「ほんまにそれだけなん?木津さん、手ェから火出しよったけど」


 「う、うん。それで前髪燃やすとか言われたんだけど、ホントにぎりぎりのところで、坂上さんが助けてくれたから……」


 「あの時はありがとうございました」と、礼を言う岡後さん。それに「どういたしまして」と笑顔で応える琴乃さん。どうやら女の子同士、仲良くなったようだ。とにかく、岡後さんはそれほど重傷を負ってなかったと分かって僕は安堵する。(それでも少し、悔しい気持ちになったけど)


 「それで、琴乃さんはどうやって岡後さんを助けたんですか?もしかして、空手とか習ってるんですか?あと合気道とか柔道とか」


 茶道と柔道を両方やる人は少ないだろうけど。


 「さっき舞魅ちゃんにも説明したけど、うち、魔道師って言ってね、ちょっと特殊な人間なんよ。要するに、霞とかと同じ種類の人間やと思ってくれたらええよ」


 そして僕は、木津達が怯えてるからくりが分かった。僕はそれを聞いたときに、それはもう感心しっぱなしだった。僕にはそんなアイディア、全くもって思いつけないだろう。


 「でもあいつら、これで懲りてくれたらいいけど……」


 僕が心配事を吐くと、「もう大丈夫やで」と、自信を持って琴乃さんは言う。


 「木津さんには特別なモン『見せといた』から。多分一生いじめはできんやろうね。いじめをしようとしたら、うちのテレパシーがよみがえる様にしといたからね。禁断症状みたいなモンかな?」


 それにしてもあの木津があそこまで怯える姿を、僕は初めて見た。頭を抱えて、地面にうずくまって、すすり泣きをする木津。さらに言えば、岡後さんの行方を簡単に教えてくれたのも驚きだった。あの行動の理由もやはり、琴乃さんのテレパシーなのだろう。


 僕の目の前で、優雅にお茶を飲む琴乃さん。まるで京都にでも来た気分になる。いや、和服にお茶ってだけで京都というのは、京都の人たちに失礼かもしれない。


 第一印象とはまた違った印象だ。あの時、教室で見た琴乃さんより、いくらか美人に見える。


 「実神くん?見蕩れてるの?」岡後さんが僕の顔を覗きこむ。


 「いや、違うよ。何て言うかな。初めて教室で会ったときと印象が違うなぁって。あの時の琴乃さん、もっと子どもっぽい感じだったのに、今はすごく大人に見えるんだ」


 それは、雰囲気だけでなく、喋り方や仕草まで。あの時は何かこう……可愛いと思える何かが、いや、何でもないや。


 「うち、あの時子どもっぽかったんか~。へぇ~確かこんな感じで喋ってたような気がするけど~?どうかな、鷹くん。今うち、子どもっぽい?」


 「あ~いや、うん、はい。多分子ども」っぽいですけど。――と言い切る前に岡後さんに制服の袖を引っ張られる。


 「ちょっ、実神くん、琴乃さん怒ってるよ!子どもっぽいとか言ったらダメだよ」


 琴乃さんに聞こえないような声でそう言われた。


 「何話してんの?鷹くん、どうなん?うち、今子どもっぽい?」


 「全然!子どもっぽくないです!2,3歳年上に見えます!」


 「へぇ。うち、鷹くんと1つしか変わらへんのになぁ」


 言ってすぐに、とんでもないことを言ってしまったと気付いた。それは、滅多に表情を崩さない琴乃さんが、初めて僕に向けて怒りと取れる表情を見せてきたからだ。だが、気付いたところで時既に遅し、だ。


 「先輩に対して、随分失礼な態度やないの。ねぇ鷹くん?ちょっとうちの目見てくれる?」


 言われた通り琴乃さんと目を合わせた。


 途端に、僕の目の前に琴乃さんが現れた。比喩ではなく、本当に目の前に――。但し、今僕の目の前に居る琴乃さんは、今まで見てきた誰よりも美人だった。美しい、とはっきり言える琴乃さんだ。


 「な、何ですかこれ」


 「これがうちのテレパシー。そしてこれが本物のうちの姿や。しばらくうちの美人姿拝んどき。滅多に見れるモンちゃうから」


 「もう琴乃さんしか見えないんですけど……」


 「んー?それは口説いてんの?うちしか見えないって?」


 「いや、ガチで琴乃さんしか見えません」


 「もう、そんなストレートに……。うちそんなん言われたん初めてやわ~」


 琴乃さんは、人生ゲームでボロ儲けした時のようにとても楽しそうだった。


 それはそうと、このテレパシーとやらはいつ消えるんだ?何だこれ。目瞑っても見えるぞ。


 「一晩寝たら消えるから、それまで我慢しといてね」そう言って、ふふっと小悪魔風に笑う琴乃さん。もしかして、木津も僕と会ったときにこういうのが見えていたのだろうか?だからあんなに怯えていた、と考えれば納得のいく判断だ。


 

 「琴乃さん、一つ聞いていいですか?」


 「何や?」


 「木津達にはどんなものを見せたんですか?」


 「人間の間は見んほうがええもんやで」


 

 また不敵に笑う琴乃さんだった。



 僕はいつの日か口にした言葉を再び繰り返す。





 「女ってこええ……」




短くてすいません。

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