#実神鷹 ―助け合い― 2
かすみたん――旭先輩から嫌な情報を聞いてしまった。
木津は超能力者らしい。能力は、パイロキネシス―――発火能力だそうだ。
果たしてそれがどういう風に使われるのかは、僕には分からない。指先から火花を出すなんて一般的かもしれないが。
万が一の時のため、僕は狩口に相談しておくことにした。そういえば、こいつは超能力者だが、その能力については聞かされてなかったな。いい機会だし、聞いておくか。
昼休み、隣のクラスで、狩口を探す――までもなく、扉に一番近い席に座っていた。
「おい、狩口」
「ん、どうした?何か用か?」
「用があるから呼んだんだよ。ちょっと、屋上行こうぜ。ここじゃ話しにくい」
分かった、と言って、狩口は席から立ち上がった。屋上には、意外と誰も居なかった。これなら話しやすい。
「んで?何の用だ?」
「実はさ……」
僕は、岡後さんのいじめについて、木津について、大まかに説明する。それを聞いた狩口は最後に、うんうん、と頷いた。
「俺も、集団でそういうことする奴、嫌いだし、一役買ってやるよ」
「そりゃどうも。で、聞きたいんだけど、狩口。お前の能力って何なんだ?今まで見たこと無いんだけど」
「ああ、まだ高校入ってから誰にも見せてないぜ。まぁ俺のはこんなもんだ」
おもむろに、右ポケットから財布を取り出し、10円玉を見せてきた。そして、10円玉を左手の平に乗せ、右手の人差し指を軽く添えた。
「ほれ」
言った瞬間。10円玉はものすごい速さで飛んでいき、壁にめり込んだ。
「この通り、サイコキネシスだ。こいつが結構応用できたりするんだよ。例えば、野球のボールがこっちに飛んできても、それを俺は止めることができる。家ではそうだな……部屋の電気のスイッチなんかはこれでどうにでもなるぜ」
「成程。便利そうだな」
「ま、学校で使えないのが残念なところだけどな」
「ああ、……え?学校で?」
お前、何で今使えたんだよ。
「あ、知らなかったか?教室とかは無理だけど、学校の敷地内で唯一、屋上だけは能力が使えるんだぜ。何だ、てっきり知っててここに連れてきたのかと思ってたけど」
「そ、そうだったのか。となると、ここって結構危ないんじゃないか。ここでは能力使い放題ってことだろ」
「ま、一般人のお前は危ないだろうな。その、岡後さんも一般人なんだろ?だったら二人では来ないほうがいいな」
何とも物騒な屋上だ。全く……。よく知られてないのは幸いだが、能力者たちの溜まり場になりでもしたら、誰も止められないじゃないか。
「あんまり言いふらさない方が身の為ってところだな。今のところ、知ってる奴は少なそうだし、その木津って奴も知らないんじゃないか?」
「そうだといいんだけどな」
「で、だよ。具体的にお前はどうしたいんだ。いじめ止めさせるのがどれくらい大変か知ってるだろ。まさか先公に言うわけにもいかないだろ」
言いながら、狩口は10円玉を拾いにいく。多分、ケチとかじゃなくて、証拠隠滅とかそんなところだろう。そう信じたい。
狩口が10円玉を拾い上げ、それを財布にしまおうとしたその時、屋上のドアが勢い良く開かれた。
噂をすればなんとやら。何て悠長に言ってられない状況だった。そこには木津とその取り巻き3人、そして岡後さんが、拘束された状態で立っていた。拘束と言っても、両腕を取られているだけだが、それでも言い訳できるレベルじゃない。
「お前ら、何やってんだ?」
僕達の姿を見て驚いているそいつらに向かって、僕は真っ先に質問をする。すると、岡後さんを拘束していた取り巻き二人が、岡後さんの腕を離した。どうやら岡後さんはまだ何もされてないようだった。勿論、両腕の件を除けばの話だが。
「は、別に何もやってないけど?行こ行こ」
リーダーである木津は僕の質問には答えず、取り巻き三人を連れて帰っていった。どうやら引き際、というか、タイミングは心得ているようだ。木津達の姿が完全に見えなくなったところで、僕は岡後さんに駆け寄った。
「大丈夫?岡後さん、何か変なことされなかった?」
「う、うん。大丈夫だよ。ちょっと屋上来いって言われて、そのまま来ただけ。まだ何にもされてないよ」
まだ――何にも、と。
「明らかな未遂だよなこれは」
狩口は肩を竦めながら言った。
「ああ、あいつら、屋上で何かやろうとしてたことは間違いないな。だが、どうだろう。あいつら、ここの特性について気付いてると思うか?」
「さぁ……今の段階では何とも言えないな」
「あ、あの、えっと、何の話を?」
よく分からないという様子でこちらを窺う岡後さん。やはり岡後さんも、この屋上でだけ、能力が使えるということは知らないようだ。少し迷ったが、知っておいた方がいいだろうという判断で、僕は岡後さんに告げる。
「この屋上ね、ここだけ能力が使えるらしいんだ」
「能力って、超能力とか魔法とか?」
「そうとは限らないぜ」
「は?何でだよ。お前さっきの発言は何だったんだよ」
口を挟んできた狩口に対して僕は問う。さっき僕はこの事実を狩口に聞いたばかりだというのに、狩口は『そうでもないぜ』と言う。一体どういうことだ。実際、能力が使えたじゃないか。10円玉が高速で移動するところを僕は確かに見たというのに。
「俺だって、実際にここで能力が使われるところを全部見たわけじゃない。俺は知り合いとここに来た時に、テレパシーは確認できたが、他は分からない。つまり、ここで全ての能力が使えるとは言い切れないって事だよ。もしかしたら、『サイコキネシス』と、『テレパシー』だけが使えるのかもしれないしな」
「ああ、そういうことか。ま、確かに言い切れないが。それにしたってそんなことがあるのか?」
「能力っていうのは、概念は一緒でも、中身は全然違うだろ。だから超能力だって色々あるんだし」
確かに、サイコキネシスも魔法も、概念は一緒かもしれない。だがやってることは全然違う。そう言われればそんな気がした。単純かもしれないけど………。
「んじゃ、俺はもう行くぜ。次、体育だから」
「ああ、僕も行くよ。行こ、岡後さん」
「うん」
「何かお前ら、親子みたいだな」
狩口は僕達の行動をおかしそうに見つめる。指摘されて岡後さんは、やっぱり実神くんが保護者づらしすぎなんだよ、と頬を膨らませていた。
「そういう性格なんだよ。それより、お前ら初対面じゃなかったっけ?」
あれ、そうだっけ?と、首を傾げる二人。
「俺、狩口竜な。超能力使っちゃったり。あ、コイツの友達だよ」
「私、岡後舞魅です。実神くんの友達です」
「へぇ~。舞魅って、珍しい名前だね。いい名前だと思うよ。で、えっと?友達?友達だったんだ。へぇ~。てっきり付き合ってるのかと思ってたけど」
「つ、付き合ってなんか、いませんよ?」
普通に否定してくれた。付き合うっていう概念はお持ちですか……。
「付き合ってないのにここまでするなんてな、ま、お前らしいと言えばお前らしい」
「その言い回しもお前らしいな」
「ふんっ」
僕らは鼻で笑って屋上を後にする。