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#実神鷹 ―確かめ合い― 2

 「おかしい。絶対おかしい。どうしてこうなった?どうしてこうなった?」


 「へ?実神くん、どうしたの?」


 何の気なしに言ってみせる岡後さん。




 

 男女七歳にして席を同じゅうせず。なんて言葉くらいは、僕も聞いたことある。 


 要は、七歳を過ぎたらみだりに異性と交際するなということ。


 だが生憎、というか、残念ながら、というか―――僕の七歳は八年前に終わっている。


 だから勿論、僕はこの言葉に100%当てはまっているのだが………。


 自分でもどうしてか分からない。何故僕の目の前に岡後さんが居るのか。何故、文字通りの意味で、目と鼻の先に岡後さんがいるのか。もっと分かりやすく言えば、何故僕と岡後さんが同じベッドに入っているのか、だが。どこまで分かりやすく言ったところで僕はこういう状況に陥ってしまった理由、原因、その他諸々について、一切理解できない状況だった。


 

 つまるところ、僕と岡後さんは今、同じベッドで寝ている。


 「いや、無いよ。さすがに無いよ。うん。無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い」


 「んと、どうしたの?実神くん。さっきから独り言がチラチラ聞こえてるんだけど。何か困ったこととかあるんなら聞くよ?私も、ちょっとくらいは実神くんの役に立ち、たいなぁ、な、なんて……」


 後半部分、若干の照れ隠しを見せてくれるところは可愛かったけど、残念ながら、僕の悩みは岡後さんに話したところで解決しそうに無い。いや、岡後さんにこそ、話すべき。元々原因は彼女自身にあるのだから。が、しかし、だ。こんなこと、岡後さんに言えるはずも無い。


 

 「岡後さん……」


 吐息が彼女の前髪にかかって、ひらひらと揺れる。


 「この状況、おかしいよね?」


 「え?おかしい?何が?」


 「いや、あのさ、高校生の男女が同じベッドで寝てるんだよ。カップルならまだしも、僕達って友達………だからさ」


 「友達………ふふっ、私達友達だよねっ」


 「あの、岡後さん?食いつくところ違くない?」


 「えっ……私達、友達じゃない、の?」


 「友達だよ。うん。友達。けど、今はそこじゃなくてさ」


 「そこじゃなくて?」


 横になったまま、首を傾げる仕草をする岡後さん。


 「あーあのさ、率直に聞くけどさ」


 うんうん、と、岡後さん。頼むから、それ以上可愛い動作をしないで欲しい。


 「今、ドキドキしてない?」


 「ん、別に?」


 まさかの即答だった。


 つまり岡後さんは、同年齢の異性と同じベッドに入っても興奮しないということか。何という……いやいや、さすがにこれだけで決め付けるのは早計かもしれない。もう少し情報を入手しなければ。


 僕は岡後さんの肩を抱いた。一瞬ビクッとした彼女を見て、本気で危なくなったが、ぐっと堪える。


 「えと、どうしたの?実神くん」


 「岡後さん、将来が相当心配だから言っておくけど、普通こういう状況になれば……」


 「なれば?」


 「いや、何でもない。忘れて」


 「う、うん……」


 知らないままの方がいいこともあるのかもしれない。


 僕はその華奢な肩から手を離した。


 はぁ~~と、大きな溜息。どうやら、岡後さんはそっち側の話にはとことん疎いようだ。記憶喪失のせいなのか、元々こういう性格なのかは分からないけど。とにかく岡後さんがそうである以上、僕が勝手にドキドキする必要は無いだろう。そう思い、僕は上を向き天井を見つめる。


 僕の部屋よりもだいぶ高い天井。これだけで相当部屋が広く感じる。


 「霞さんが一緒に寝ろって行った理由はさ」


 岡後さんもまた、天井を見つめたまま口だけを動かす。


 「二人でゆっくり話をしろってことなのかな」


 「二人で……か、案外そうなのかもな」


 「案外って?」


 「何でもないよ」


 先輩なら、二人でいちゃついてこいとでも言いそうだが。


 「岡後さん、結構考えてるんだね」


 「私だって考えるよ。子どもじゃないんだから」


 「そうだよな。そういえば、僕はずっと岡後さんのことを子ども扱いしてたかもしれない」


 「そうだよ。保護者づらもいいとこだよ」


 「おわっ、きっついな。まさか岡後さんからそんな事を言われるなんて」


 僕がそう言うと、岡後さんは急に表情を曇らせた。


 「実神くん、私ね、霞さんから話聞いたとき、正直言ってよく分からなかった」


 「え、あ、ああ。そうか……」


 急に話が変わったので少し焦る。


 「でもね、何故だか分かんないんだけど、怖いとか、嫌だとか、そういう気持ちにはならなかったんだ。へぇ~そうなんだ~って。何だか、当たり前のことを聞かされた、みたいな……。よく分かんないんだけどね」


 「すんなり受け入れられた」


 「うん。そう、そんな感じ」


 「僕もそうだよ。先輩から話を聞いたとき、何となく、緊張感に欠けてたんだ。それこそ岡後さんが言ったように、当たり前のことを言われた気分。最初からこうなることが分かってたみたいな」


 最初からこうなることが決まっていた。


 それは、運命という奴だろうか。


 運命を知っていた―――そういうことなのだろうか。


 「こういうのって、運命って言うのかな?」


 言おうとしたことを先に言われた。しかし岡後さん、運命なんて言葉知ってたのか。何も知らないってわけじゃ、ないんだよな。


 「じゃあ、僕達の出会いも運命?」


 少しの沈黙の後、岡後さんはゆっくりと頷いた。


 僕はまた天井を見つめる。運命―――か。

 

 相変わらず高い位置にある天井。ずっと見ていると、だんだん眠くなってきた。


 

 僕のすぐ隣から、スースーと寝息が聞こえてきた。どうやら岡後さんは寝てしまったようだ。僕は寝息に少しドキッとしながらも、目を閉じる。



 運命って何だろうな―――――



 そんな事を考えていると、自然に意識は遠のいていった。




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