#実神鷹 ―魔術少年― 7
始めのほう、若干のグロ注意。
子束は、僕の足下にうつ伏せで倒れていた。
後頭部から、何やら液体のようなものが流れている。
僕の右手には、鉄パイプ。
「えっと」
僕は何をしてたのだっけ?確か、この鉄パイプを持って二人に向かっていって―――。
僕が、子束を殴った?
記憶がはっきりとしない。でもこの状況、どう考えても僕が子束を殴って気絶させたとしか思えない。
「終わったな」
「はい?」
「終わったよ。実神。おっと、とりあえずこいつの後頭部を何とかしないとな」
朝比奈さんは、倒れている子束のそばにしゃがみ込んで、何やら怪しげな動きをする。一瞬、何かが発光した後、朝比奈さんは立ち上がった。
「すいません。全く状況が分かりません」
「ああ、分かってるよ。今から説明するから、まぁ落ち着けって。とりあえず、事後処理は済んだから、ここから離れよう。変な奴らが集まってくるぞ」
「あの、こいつは……」
「ああ、ちゃんと死なないように魔法掛けといたから、ほっといたら勝手に目覚ますよ」
成程。さっきの発光は魔法を使ったときのものか。
「さ、早く行くぞ。あ、中田も来いよ」
「ふん。言われなくても……」
そんなわけで、午後7時46分。
僕達は、某日本料理店の座敷で食事を摂っていた。
食べながら、先輩は状況の説明を簡単にしてくれた。
小束の目的は、岡後さんの身体の拘束及び拉致だったらしい。よって、岡後さんは全くの無傷。怪我一つしていなかったのは幸いだった。
それから、やはり僕が小束を殴ったらしい。鉄パイプで、後頭部を。普通だったら死んでてもおかしくないが、そこは先輩の魔法でカバーできたそうだ。しかし、どんな魔法を使えばそんな事ができるのだろう。死者蘇生なんて、神の冒涜ではないだろうか。
神がそんなことで怒るわけ無いだろ、と、先輩。
さっきまで『朝比奈』という名を名乗っていた先輩も、今は旭先輩だ。あっち側の人間には『朝比奈
』で通っているのだとか。いわゆる、二つ名と言われるものだと。
「えっと、こちらの――中田さんとの関係は?」
「仕事仲間だ」
中田さんが即答する。
「あ?友達じゃなかったっけか」
「女子高生に友達を持つほど、私は変態じゃない」
「別にいいと思うけどなぁ。普通に健全だし」
なぁ実神、と急に振られたので、僕は、そうですね、と先輩に賛同しておいた。
「ふん。今の高校生はそんなもんなのか」
「ま、そういうこと。あたしが魔女で、中田は魔法使い。お互い使ってるのは魔法だし、ま、根本は一緒だからね。それに、魔女と魔法使いは勢力は違えど、仲は良いんだよ」
「一部の話だがな」
と、中田さんは付け足した。
「あ、あの………」
ずっと話を黙って聞いていた岡後さんが、初めて口を開いた。
「さっきから、魔女とか魔法使いとか、言ってるのは何ですか?」
おどおどしながら、先輩に問いかける。
「おお、ごめんごめん。岡後さんには何にも話してなかったよね」
「はい………」
というか先輩、まだ自己紹介もしてないじゃないか。
「む………」
先輩がこちらを睨んでくる。僕の心を読んだのか。
「自己紹介もしてなかったね。あたし、旭霞。2年1組。魔女だよ」
「あ、はい。えっと、岡後舞魅です。実神くんと同じクラスです。多分、一般人です」
先輩の『魔女』に合わせて、『一般人』と言ったのだろうか。
「うん。95点。100点取れたら、お姉さんとデートしましょうね~」
「採点甘いな!」
「うるさいな!あたしの気分で決まるんだよ!気まぐれって何回言ったら分かるんだよ!」
「じゃあデートの発言でちょっと嬉しそうなのは何でだ!」
「え?何言ってるの?別に、普通だけど。え、何?もしかして期待してるとか思った?」
「明らかにノリノリだったろ!」
「べ、別に女の子とデートしたいとか、そういうんじゃないんだからねっ!」
「キャラ作るな!今時ツンデレなんて皆飽きてるんだよ!」
「お前らいい加減にしないか」
中田さんの冷静な声で、ひとまず僕と先輩の言い争いがおさまった。そして、ついでというように。
「私は中田高丸だ。さっきも言ったように、こいつとは仕事仲間。魔法使いだ」
「あ、はい。どうも」
まぁそんなこんなで。
一連の説明を受けた岡後さんの反応は―――。
「は、はぁ……。そ、そうなんですか……」
こんな感じだった。
あまりに反応が鈍くないか?
ちなみに、何故岡後さんがそんな輩に狙われなければならないのか、そのことについては話されなかった。僕もまだ聞いてなかったので、ほんのり期待していたのだが。
「ま、今日はとりあえず今日はお開きだ。皆早く帰ろう。あたしもちょっと私用があってね」
「9時からドラマが見たいんでしょ」
「私用だって言ってるだろ。魔法で口ふさいでやろうか?」
「結構です」
皆が立ち上がったので、僕も立ち上がり、店を後にした。勿論、岡後さんは僕が送っていくことに。
「あ、そうそう実神」
別れる直前になって、先輩に耳打ちされた。
「お前、明日から舞魅ちゃんの家にお泊りな」
そんなふざけた言葉によって、この大変な一日は幕を閉じた。