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#実神鷹 ―魔術少年― 5


 一度、先輩と一緒に来たことがある、あの公園。


 

 暗くなってくると、そこは人気のない公園となっていた。さらに、植物がうっそうと生い茂っているので、外からでは内側が見えにくい。日曜の昼間にでも来れば、家族連れがたくさん居そうだが、夜のこの状態を見ると―――どう考えても、犯罪が多発しそうな公園。不審者が女子高生を狙うにはうってつけと言わんばかりだ。


 そしてそれは、魔術を使うにも―――多分、うってつけなのだろう。


 だから小束は、ここに岡後さんと一緒に来た。先輩からの情報によると、もうすぐ行動を起こすとの事だ。そして僕らは、それを横入りして阻止する。そんな展開になるはずだ。


 

 前に居た先輩が、携帯電話を取り出した。着信らしい。


 「もしもし。―――はい。はい………。分かりました。それでは」


 指示を受けたのだろうか。向こうが一方的に喋って切ってしまった様子だ。


 「実神―――」


 「はい、先輩」


 さすがに、シリアスな戦闘シーンにおいて、『かすみたん』などというふざけた呼び名を使うのはどうだと、先輩に議論を持ちかけたところ、今回特別に今の呼び方になった。


 「午後6時31分、25秒65。あいつは行動開始する。現在時刻は、午後6時25分22秒ね。つまり、後6分程で乗り込むから」


 名軍師よろしく、親指を立ててくる先輩。頼りがいの塊みたいじゃないか。僕が関与する余地が果たしてどれくらいあるものか………。


 でも、僕は、緊張も何もしない。


 無感情ってわけじゃない。けど、何故か感情が湧いてこない。何と言うか――。


 「どうした?ぼーっとして。やっぱり緊張するのか?」


 「い、いや、その逆で。何か。何だろう。やけに落ち着いてるなぁって。僕は今まで、一般人として人生を過ごしてきた。その中で、超能力やらなんやらに触れる機会は少なからずあったわけだったけど、そのたびに僕はいつも取り乱して。いつも半信半疑だった。こんなことあるわけがない、おかしい、僕の頭がおかしいのか、相手がおかしいのか、どっちかだって……。それなのに、今日は何故か、いつもと違う。すんなり受け入れられるし、それがおかしいことだとは思っていない。それは当たり前なものだって。そう!こういうことが起こることが、前から分かってたような気がした。だから……」


 「黙りな」


 「…………………」

 

 「ごっちゃごちゃ戯言を抜かすな。お前は今日から、こういう体験を飽きるほどやることになる。お前はその度にそんな戯言を並べるのか。ふざけるな。そんなんでこの仕事が務まるか。これはもう勢力争いなんかじゃない」


 戦争だ、と、先輩は言って、軽く笑みを浮かべる。


 「もうこの口調は飽きた。こっからは素でいかしてもらうぜ。だいたい、あたしは高校生なんかじゃない。お前なんかよりだいぶ年上だ」


 もはや僕の知っている先輩の口調ではない。これが本当の『素』の先輩なのか?


 「10、9、8」


 カウントダウンが始まる。


 「7、6、5」

 

 戦争開始までのカウントダウン。


 「4、3、2、1、――」


 「零――」


 僕と先輩は同時に言った。

 

 動き出した時間は、もう止まらない。

 






 

 

 「小束、てめぇ!岡後さんから離れろ!」


 「ふんっ。来ると思っていたぜ。実神鷹!――あ?こいつから離れろって?かっ、一般人が何言いやがる。これは『こっち側の世界の問題だ。』」


 「僕も『こっち側』だ!いいから早く離れろっ!殺されてぇのか!」


 「殺す?こいつの目の前でそんなことできるのかよ?一般人がよぉ」


 小束は、かはははは、と豪快に笑う。僕は構わず、小束を睨みつける。


 「で?手ぶらみたいだけど、どうやって俺を殺るって言うんだ?徒手空拳か?まぁいいけど。お前が動かねぇってんなら、俺から行ってやるぜ」


 こっちも、前の小束とは口調が違う。やはりあれは、『素』の姿ではなかったのだ。


 「実神くんっ!」


 岡後さんは、普通にベンチの前で立っていた。怪我はしていない様子だ。


 「大丈夫だよ」


 「え?…………」


 「僕が、守るから―――」


 「……………………」

  

 少しの沈黙の後。

 

 「もう、泣かせない―――」


 


 言って僕は、小束の方に向き直った。


 「お別れの挨拶は済んだようだな」


 「黙れ。そういう台詞吐く奴に限って、シリーズ序盤で出てきて調子に乗って主人公に倒される雑魚キャラだって相場は決まってんだよ」


 「かっはははっはは。自分が主人公のつもりか」


 「雑談は終わりにしよう。もう喋る気にもなれない」


 そう―――。元々僕はおしゃべりな方ではないのだ。気持ちが高揚したときだけ、少し饒舌になる程度。だから、これ以上この雑魚キャラ相手に語る言葉もない。


 「なら、始めよう」


 そう言って小束は、僕に向かって突進してくる。距離にして約30メートル程。周りを良く見れば、公園の外には闇が広がっている。漫画などでよく見る、空間閉鎖だろうと思うが。


 僕が小束に向かって構えたその瞬間……。


 「おい小僧!」


 小束の背後から声が聞こえた。


 小束は振り返る。


 「誰だあんた!」


 「年上のお姉さんに対して失礼な物言いだね。あたしは『朝比奈』。小僧の名前は?」


 「てめぇになんか名乗る気はねぇ!」


 「そうか、なら……」


 朝比奈さんは拳を構えた。


 そして、小束の顔面を、思い切り殴りつけて体ごと吹っ飛ばした。

 

 「小僧は0点だ。100点になってもお前とはデートしてやらん」


 言って、朝比奈さんは豪快に笑った。




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