#実神鷹 ―魔女― 2
霊長類特有の感覚なのか、そうでないかはともかく、人間には予感という感覚がある。予感――。虫の知らせとも言うのだろうか。特に根拠が無いのに、何となくそう思ってしまう、感じてしまう、という非常に曖昧な感覚だ。
第6感、なんちゃって。
僕が校舎裏まで連れて行かれたときに、ふと、その予感とやらが働いたのだ。この人――普通の人間じゃない?……と。もしかしたら、魔法使いか何かじゃないのか?……と。
で、その予感は見事に的中した。彼女は、自分のことを魔女といった。僕は魔女という概念を詳しく説明することはできないが、それが異端であることは理解している。
あるいは異端なんかではなく、完全に人間という枠から外れた存在かも知れないということも――。
しかし、僕としてはそれを認めるわけにはいかなかった。何故なら、僕には超能力者である友達が居るから。
あいつは紛れもなく人間だ。超能力が使える、ただの人間。あるいは小金井だって同じことが言える。皆、特殊な能力を持った人間なんだ。
「だから何かって?」
要するに、今僕の隣にいるこ旭先輩は、100%人間だということだ。と、そこにまで思考が到達したところで、僕の考え事は終わる。
「あのー旭先輩、今からどこに行くんですか?一応、目的地を教えておいて欲しいんですけど…」
「特に決めてないよ。私が気に入った場所を見つけたら、そこで話をするつもり」
「はぁ……で、旭先輩が気に入るような場所っていうのは………」
「さぁ?言葉じゃ説明できないねー。私は猫みたいに気まぐれな生き物だから。一定じゃない」
猫みたい―――か。
動物に例えると猫、なんて言うと、可愛いキャラのことを言うんだろうが、案外こっちの性格も需要があるかもしれないな。
僕らは、校門から出て左折。それから桜並木の道を15分ほど歩いた。今は一軒家が立ち並ぶ通りに入っている。
ん?
何だあの大きい家は――。何だあの豪邸――。あんなのが学校の近くにあったのか。うわ、近づくとさらにでかい。周りの家屋と比べると、明らかに浮いているレベルだ。
旭先輩は、そんな豪邸を見向きもせず平然と通り過ぎた。まるで、この豪邸があることを最初から知ってたようだった。――いや、知ってたのか。
「ま、いっか、ここで。うん。ここでいいや」
旭先輩がそう言ったのは、その豪邸からさらに5分ほど歩いたところにあった公園だった。いわゆる、子どもが遊ぶような公園じゃない、植物が生い茂り、ベンチが置いてある、そんな公園。そのベンチに腰掛ける。
「ほら、早く座って」
「……………」
言われるがままに座る。すると、旭先輩はやたら体を近づけてきた。
「ちょ、何でそんなに寄ってくるんですか。そんなに狭くないでしょう」
「いいのいいの。私は気まぐれなの。飽きたらやめるから」
それは気まぐれというよりマイペースじゃないですか?先輩。あるいは、自己中……。
「失礼ね。先輩に向かって自己中とは。お仕置きしてあげようか?」
「なっ、何でそれを……」
「私は魔女だよ。これくらいの読心術なんてお手のものだよ」
うわー。
魔女って怖い……。あ、これも読まれてるんじゃ……。
「実神くん、物分りよさそうだし、面倒だから一気に喋るからね」
「どうぞ」
「うん。80点。100点はもうちょっと先かな。あ、ごめんごめん。こっからはシリアスだから」
旭先輩は真面目な顔になった。
「実神くんは知ってるかどうか知らないけど、この世界には一般人が知る由も無い世界が存在してるんだよ。そこでは、色々な力がぶつかりあっているんだ。勢力争い、みたいな。例えば、私が所属しているのは魔女の勢力。私はそこに所属している内の一つの義務として、実神くんを助けることを命じられた。ここまでいいかな?」
「まぁ、何とか………」
「じゃ、次。勢力の中には、少なからず序列みたいなものがある。私たちはできるだけ上へ上へ上って行こうとしている」
「…………………」
「勢力の種類は様々。魔女、魔法使い、魔術、魔道、天使、悪魔、魔神、その他の神々、超能力は、種類ごとに勢力を持っている。それと、全体を統括するものも」
「……それで、旭先輩は魔女なんですね」
「うん。そういうこと。でも、勢力と無関係な人間も居るよ。例えば、狩口竜なんかがそうだね。彼は超能力者だけど、勢力とは無関係の人物だよ」
「へぇ~」
狩口がそういうのとは無縁であると聞いて、少しホッとした。同時に、疑問が一つ。旭先輩は、最終的に何が言いたいのかということ。勿論、これから話すのだろうが、どうも読めない。相手が魔女だからなのか、それとも―――。
「次、これが一番大事なところ」
来た―――。
「…………………………………………………………………………………………………………………」
!!!!!
「―――理由はまだ言えない。けど、そういう事実は知ってて欲しかったから」
「……それは、間違いないんですか?」
「うん」
旭先輩は真顔で答えた。やっぱり本当なんだそうだ。
つまり―――。
岡後さんは、とんでもない人……人だ。
そしてそれは、僕の人生も大きく変えてしまう程の事態に発展してしまう。




