♯岡後舞魅 ―家― 2
私の記憶の中では、生まれて初めて、誰かとお風呂に入った。
まあ、一人で入るにはどう考えても広いと思うし。
自分の部屋と同じくらいの大きさがある浴室を眺めながら、私は思った。
そしてそして。
私の記憶の中では、生まれて初めて、他人の裸を見た。
歩美お姉さんの体。私より身長も大きい。勿論胸とかも……。何か、すごいな。
私はといえば、初めて裸を他人……否、お姉ちゃんに見られたので、ちょっと恥ずかしい。何かうろたえてしまう。お姉ちゃんは、全く気にしてない様子。
まぁそんなこんなで。私たちは髪の毛を洗いあったり、体を洗いあったり、あれこれして、湯船に浸かった。
「ふわぁ~――広いねここ」
「うん。一人じゃ寂しいんだよ」
「そうだよね!よし、お姉ちゃん、毎日一緒に入ってあげるよ!」
「本当に!?」
「うん。そのかわり、舞魅ちゃんはずっと私の妹だよ?」
「いいよっ!約束するっ!」
ん?
ふと、考えてみた。
歩美お姉ちゃん、こんなキャラだったっけ?んー、こんな感じだったような、そうでもなかったような……。何か真面目なメイドさんだったような気がしないでもないけど、私の気のせいかもしれないし、気にすること無いはずだ。うん。
「あ、そうそう。お姉ちゃん」
ちょっとばかり慣れてきたその呼び方で、歩美さん(お姉ちゃん)を呼ぶ。
「どうしたの~?」
ご機嫌そうな顔と声でお姉ちゃんは返してくる。ホント、ご機嫌だ。鼻歌まで歌ってる。何の曲かは分かんないけど。
「今日実神くんと、番号とアドレス交換したよ」
「あ……。そっか、よかったね。彼、何か言っていた?」
「特には。あ、でもでも、ワン切りって手法を教えてもらったよ!」
「へぇ~ワン切り教えてもらったんだ。ふ~ん。やっぱり彼は面白いね」
「あ、それからっ、何か私と話がしたいって男の子がいてね、その人と話をしたんだ」
私がそういうと、お姉ちゃんは少し真面目な顔へと戻った。
「男の子に何かされなかった?」
「ううん。何も。ってお姉ちゃん、実神くんと同じこと言ってるよ。皆何でそんな事聞くの?」
「今度彼に聞いてみなさい」
お姉さん口調でそう言われた。妹だから、従わなければいけないっぽい、のかな?
お風呂から上がって部屋に戻ると、携帯電話が点滅していた。何事かと、開いて確認すると、”新着メール1件”の表示。ということは―――。
「実神くん」
しかいないよね。他の人にアドレス教えてないし。
『試しにメール送ってみた。返信ちょうだい』
最後に絵文字みたいなのがついてる。やっぱり実神くんだった。私は携帯を操作して、メールを打ち始める。打ち方は分かるけど、さすがにこれは慣れないうちは難しい。
『返信できてる?多分できてると思うけど…』
返信した。
何だか全く中身の無い文章だったけど、こんなのでよかったのかな。
と、思っている内にすぐに携帯電話が鳴った。実神くん返信するの早いな――。
『ちゃんと来たよ。機械に強いのはマジなんだな(笑)何か家に居ても岡後さんと一緒にいるみたいだよ。あ、でもこれは当たり前か』
…………
『私は実神くんと話ができて嬉しいよ。家じゃちょっと寂しいから…』
少し考えて、すぐに送信。
こんな感じで、数回メールを繰り返した。私は改めて携帯電話の偉大さに感心した。こんな優れものだとは思ってなかった。こんな、実神くんと、話ができるなんて――。
何と言うか。
―――――楽しい。
毎日が楽しくなるような気がした。
けど、私のこの予想は外れることになる。
そのことを、私はまだ知らなかった。知る由もなかった。