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#実神鷹 ―魔術少年― 1


 話はとんとんと決まった。


 

 岡後さんは合唱部に入部することに決定したそうだ。僕が見る限り、先輩達も優しそうだったし、問題は無い。ただ一つ、彼女が何も知らない人間だということを除けばの話だが。


 しかし、そんなことは僕の心配することじゃない。岡後さんだって子どもじゃないんだ。やばくなったら、先輩方に事情を説明するだろう。


 

 「実神くんは?部活決めたの?」


 「ああ……、僕は入らないよ。家の事情とか、色々あるから」


 「はぁ……そうなんですか――。何か――残念です」


 「ん?何か言った?」


 よく聞こえなかった僕が聞き返すと、岡後さんは「いや、何でも……」と口を噤んでしまった。


 

 まぁ。


 僕の場合は本気で家の事情だから、仕方ない。仕方ない。仕方ない……。


 仕方ない、のか。



 世の中は理不尽なものだ。


 どうせ僕には希望する部活なんて無いのだから、理不尽も何もあったもんじゃないが、希望がある人にとっては別の話。


 同情の余地は無いが、賛同の余地はある。



 「また怖い顔してますよ?」


 「ん、……ああ、何だろうな。癖なのかな」


 今だって、普通に岡後さんと歩いてただけなのに、僕は難しいことを頭の中で並べて。


 「実神くんて、色んなこと考えてそうな感じだね」


 「……色んなこと、って聞くと、何かいい意味に聞こえないなぁ。いいことも悪いことも考えてるみたいな感じで」


 「ほら、色んなこと考えてるからそう聞こえるんだよ、きっと。私が言ったのは、何ていうか、深いとこまで考えててすごいねって意味だよ」


 確かに冷静になって考えてみれば、岡後さんの言うとおりだ。やっぱり僕は考えすぎ。考えすぎ。考えすぎる病気とかじゃないかな。


 「あ、じゃあ僕はここで。頑張れよ」


 「うん!」


 今日は部活初日。岡後さんは合唱部へ。そして僕は……。


 「狩口はまだか――」


 狩口の下駄箱を見て確認する。まだ狩口は帰ってない。どうせ帰っても暇(いや、暇ではないんだけど)だし、狩口と軽くつるんで行こうと思った。


 が、狩口は出てこない。玄関前で、何人もの生徒達が通り過ぎていく。


 「実神……だな?」


 ???


 男の声。その声が聞こえた方を振り返ってみた。そこには、同じ制服を着た生徒がいた。僕より少し身長が高いか。どう見ても普通の高校生だが、ちょっと、ほんのちょっと、イケメンなのが小憎たらしい……なんて、僕はそんなこと考えたりはしないぞ。うん。


 で。で、だよ。こいつは誰だって話。


 「俺、4組の小束本識こづかもとしき。お前、実神だよな?」


 「そうだけど。えっと、1年4組――だよな?」


 「もち。同学年」


 小束は、右手の親指を立てて言う。テンションの高い奴だ。見るからに、教室ではっちゃけてそうな奴。あんまり好意的に見れないタイプ。


 「で、小束くん?僕に何か用かな?」


 「もっちろん!用があるから呼んだわけだ。で、早速なんだけど」


 そこまで言って、小束は少し躊躇った様子を見せた後、喋りだした。


 「お前、岡後さんと仲いいだろ?俺、岡後さんと友達になりたいんだけど、何とか呼び出してくれないか?一回話をしてみたいんだ。タダでとは言わないから」


 「ふーん…………」


 友達になりたい、ねぇ。どうも嘘臭いな。どうせ狙ってるんだろ。あ、いや、初対面の相手にこんなこと言うのは失礼か。仮に友達になりたいというのが本当だとしても、あんまり気が進まない。こんな、どう考えてもちゃらちゃらしてる男を紹介して、岡後さんが家にでも招いたりしたら、危ないことになりかねない。


 ん?……危ないことになりかねない……?


 

 『何だ、どうするつもりだ?って。』


 『僕は一体何を言ってるんだ。』


 『何で僕が保護者づらしてるんだ』


 あの時と一緒だ……。


 何で僕が岡後さんのことをそこまで心配してるんだ。


 「おーい、聞いてるかー?」


 「ん、ああ。えっと、別に、僕に頼まなくても直接会いに行けばいいだろ。岡後さん、合唱部だから、終わるまで待ってれば?」


 「いや、俺が直接行ったらあれじゃん。何か気まずいじゃん。だから、お前に俺のこと紹介して欲しいんだよ。ワンクッション置く感じで」


 「ああ、そういう事。成程。分かったよ。じゃあ、明日の朝に話してみるよ。それで、昼休みに4組行くから、それでいいだろ?」


 すると、小束は目を輝かせた。


 「OKOK!じゃあそういうことで!よろしく!えっと、お礼の方は」


 「明日、学食のあんぱん1個おごってくれ」


 正直どうでもよかったので、手軽なものにしておいた。昼飯の足しにもなるしな。


 「分かった!あんぱんだな!」

 

 よしよし、とガッツポーズを作る小束。そんなに嬉しかったのか。やっぱり何か気になるなぁ。

 

 「んじゃ、明日、よろしく頼むぜ!」


 最後まで『!』マークをつけたままのテンションで、小束は行ってしまった。


 悪い奴には……見えないか。一応タダじゃなかったし(あんぱん1個だけど)。しかしまぁ、約束したからには、ちゃんと話をつけないとな。僕は忘れっぽいから、どうにかして覚えておかないと。


 にしてもあいつ、どこで僕の名前を聞いたんだ。


 今度聞いておいたほうがいいかもしれない。素性を明かす意味でも。



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