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#実神鷹 ―話し合い― 2


 それは、6時間目が終わった後。まだ誰も下校してない時間のこと。


 

 「えー1年1組の実神と、1年3組の小金井。1年1組の実神と、1年3組の小金井。生徒指導室まで来なさい」


 嫌な予感しかしなかった。そして、僕の嫌な予感というのは的中率100%なのだ。


 いや、予感はいいとして、別の問題がある。


 僕は放課後、岡後さんと合唱部を見に行く約束があるのだ。正直、行きたくない。話が長くなったら困る。


 「実神くん、行ったほうがいいよ」


 「でもさ、長引いたらどうするつもりだ?」


 あれ?


 どうするつもりだ?


 

 何だ、どうするつもりだ?って。


 僕は一体何を言ってるんだ。そんなもの、岡後さんが一人で行けば済む話じゃないか。何で僕が保護者づらしてるんだ。何で一緒に行くのが当たり前みたいなことを言ってるんだ。バカじゃないのか。睡眠不足で頭がおかしくなってるんじゃないだろうか。


 「実神くん?」


 岡後さんの声でフッと我に返る。


 「ん、ああ……、えと、分かったよ。行くよ。で、岡後さんはどうするつもり?」


 「待ってる」


 「……………………」


 ごめん、それ、どういう意味?


 「その『待ってる』っていうのは、僕を、待ってるって、そういうことかな?」


 「う、うん」


 「そう……か。岡後さんがそうしたいって言うならそれでいいよ」


 僕はさっさと帰る支度をして、教室から出て生徒指導室に向かおうとした。その時。


 「ちょっと、どういうこと!何であんたとあたしが一緒に呼ばれるのよ!」


 廊下の向こうの方から、叫びながら走ってくる女が約一名。どこをどう見ても、小金井文香だった。彼女は朝と全く同じ空気を身に纏って、こちらに近づいてくる。


 「廊下ででかい声出すな!」


 「あんた、ちゃんと言い訳したの?どうせあんたがしくじったんでしょ!」


 小金井は顔を近づけてくる。近い。10センチくらいの距離だ。これ以上大声を出したら、このまま頭突きをお見舞いしてやろう。


 すると、小金井は顔を離して、普通の距離に戻った。まさか僕の心を読んだんじゃないだろうな。


 「とにかく、行くぞ……」


 「ふんっ!」


 朝のあの時みたいに、小金井はそっぽ向いて、僕とともに歩き出した。


 


 

 生徒指導室に入ると、1年の学年主任と、生活指導の先生が座っていた。


 「そこに座りなさい」


 学年主任が、自分達の向かいのイスを指さす。僕と小金井は二人、隣同士で座った。


 「おまえら、今日二人とも遅刻してきただろ?」


 「はい、それが何か?」


 僕が口を開く前に、小金井が挑戦的に返答する。


 「何か、じゃないだろ。何で二人一緒にいたんだ」


 「たまたまです。こいつ……小金井とは、今日が初対面です」


 今度は僕が口出しさせてもらった。これなら話が乱れることも無い。事実、今日初めて名前を知ったのだから。

 

 「今日、警察から連絡があった。今日の朝8時20分ごろ、近くの住宅街で、高校生の男女が痴漢を捕まえたが、警察が来る前に走っていってしまったそうだ。これはお前らじゃないのか?」


 「そんな事件、知りません」


 小金井が即答した。生徒指導の先生がこちらを睨む。


 「僕も、知りません。というか、何で高校生って分かってるんですか?」


 「制服を着てたからだろ」

 

 「制服なら、中学生だって着るじゃないですか」


 「今はそんな話はしてない!」


 学年主任は怒声を上げた。全く、これだから大人は嫌いだ。都合が悪くなるとすぐ怒鳴りつける。コミュニケーション力が欠如してるんじゃないか?


 「とにかく!私は寝坊して遅刻しただけです!」


 ここで僕はいい言い訳を思いついた。


 「僕も、寝坊しました。目の下に隈がありますよね。昨日はちょっと、遅くまで起きてたんで……」


 「……そうか……どうします?」


 学年主任と生徒指導の先生は、僕達に聞こえないような声でこそこそ話している。ちらちら聞こえてくる単語から想像するに、何とかなりそうな感じだ。


 「……今日のところは注意だけにしておきましょう。ただし、今度またこういうことがあったら、よく考えねばならんからな」


 学年主任はそう言った。


 「そういうことだ、以後、気をつけるように」


 と、学年主任が締めくくって、この指導はお開きになった。が、僕が部屋から出るときになって、生徒指導の先生に止められた。


 「実神、夜更かしも程ほどにしろよ。隈がすごいぞ」


 呆れるように言われた。


 まぁ、仕方ないだろう。この隈のおかげで助かったと思えばいい。まさか、こんなところで寝不足の影響が出てくるとは、世の中何が起こるか分からないものである。


 

 

 生徒指導室を出ると、そこに岡後さんが居た。


 「あ、ごめん、待っててくれたんだ」


 「い、いや、今来たところだよ」


 「いや、そのやり取りはこんなところですべきじゃないと思うが――」

 

 「へ?やり取り?」


 あれ?違ったか。もしかして、マジで今来たところだったのか。そもそも、こんな恋人同士のやり取りを岡後さんは知っているのか?


 

 「あのーお取り込み中悪いんだけどー」


 小金井が所在無さそうにこちらを見ている。小金井から見れば、僕と岡後さんは恋人同士に見えるかもしれない。というか、もうそんな目で見ている。


 「ん、どうした?」


 「そっちの女の子、誰?」


 岡後さんを指さして言う。そっちの女の子、とは相変わらず失礼な奴だ。


 「クラスメイトだよ。席が後ろの。名前は、岡後舞魅」


 「おかしり、さん。ね。私は」


 「小金井文香さんですよね」


 岡後さんは、小金井の言葉を遮って名前を発表した。


 「あれ、知ってたの?」


 「僕が教えたんだよ」


 「あ、そ、そうなんだ……」


 僕が面倒臭そうに言った言葉に、小金井はそんな返事だった。なんだか、ちょっぴり嬉しそうな、そうでもないような。いや、これは何というか、岡後さんに小金井のことを話した時の岡後さんの反応と似通っている。女子は皆こんな反応をするのか?


 「そ、それじゃ、あたしはこれで。またね」


 そう言うと、小金井は手を振りながら行ってしまった。


 ――そういえばあいつ、1回目に別れた時も『またね』って言ってたな。癖か、あるいは、自分のルール、ポリシーか何かだと考えるのが妥当か。


 「行こうか、岡後さん」


 「う、うん」


 二人並んで、合唱部の活動場所へと足を向けた。


 やっぱり、僕の眠気は吹き飛んでいた。



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