#実神鷹 ―エスパー少女― 2
住宅街を抜けたところで、8時半になった。これで完全に遅刻決定だ。
「はぁ……遅刻だよ。もぅ」
不満そうな小金井さん。
「あ、そうだ、僕の名前、実神鷹だから。1年1組」
「みのかみ…たか?」
「ああ、好きなように呼んでくれ」
「じゃあ……」
うんうん。わくわく。
「実神……」
――呼び捨てかよ。
「でさ、小金井さん」
「小金井でいい。さん付けは嫌いだから」
ああ。
何かそんなオーラ出してるもんね。お互い呼び捨てでいこうっていう。
「……小金井」
「何?」
「この手、そろそろ離してくれないか?」
「ふぇ?」
自分の右手を見る小金井。3秒ほど経ってから、慌てて繋いでいた手を振り解いた。
にしても、さっきの『ふぇ?』って何だ。どう考えてもそういうキャラじゃないだろうに。もしかして、あれが素なのか?
今は頬を赤らめている。
こんな街中で手を繋いでたもんな。正直、こちらも少し恥ずかしかった。
「あ、あのさ、小金井、色々と聞きたいことがあるんだけど……」
「そうだろうと思ってた」
「あっそ。で、さっき言いかけたナイフのことなんだけど」
「あれはテレポート」
テレポート。
物体の空間移動?とかそんな感じか?原理はよく分からない。
小金井はすごくあっさりしていた。
「あたし、レベル2の超能力者だから。で、能力がテレポート。つまりあたしはテレポーター」
つまり彼女は、男性の持っていたナイフをテレポートさせ、自分で使ったということか。そう思えば成程納得である。
「あ、もしかして、僕の鞄もテレポートさせる感じなのか?」
「そのつもりよ。ちょっと待ってね」
言うと、彼女は目を閉じて、右手をあの時と同じ形にして――。
「はい」
という声と同時に、僕の鞄が目の前に現れた。本当に、出現したって感じ。
「お、おお……すごいな」
「別に、大したことじゃないわよ」
「そうか……」
普通の奴が言えば謙虚に聞こえるが、コイツの場合どうしても嫌味に聞こえてしまうのは僕だけだろうか?
「それじゃ、もう一つ、何で警官見た瞬間逃げ出したんだ?」
「そ、それは、別に。いいじゃない!あたしは警察が嫌いなの!」
「ちゃんと職質、っていうか、事情聴取受けてれば、遅刻も免除されたかもしれないのに」
「うるさいわね!嫌いなものは嫌いなの!」
小金井はそう声を荒げると、ぷいと前を向いてしまった。
やれやれ、面倒な女だ。
にしても、レベル2か……。レベル1なら学校にかなりいるけど、レベル2はすくないんじゃないだろうか?
「なぁ小金井、お前テレポーターなら自分もテレポートできるんじゃないのか?」
ふと、疑問に思ったのだ。自分が移動できないなんて不自然じゃないか。むしろ自分以外の物体を動かす方が数倍難しそうに思える。
「レベル2以下は、自分の身体の質量より小さいものしかテレポートできないの。だから自分は無理。逆に言うと、自分をテレポートできる人は、レベル3以上だってこと」
「へぇ~、超能力の中にもそんな決まりがあるんだな」
何しろ、僕はノーマルだから、こと魔術だ超能力だに関しては、大した知識を持っていない。これを機会に今度勉強してみようか。
桜並木の道でそんな事を考えていると、学校の門が見えてきた。
「これからどうするんだ?」
「頑張って言い訳する」
「そっか。じゃあ、俺も言い訳してみるよ」
「そう。せいぜい頑張りなさい」
「お前もな」
そう言って、1年のフロアの廊下で別れた。
「またね……実神……」
僕は軽く手を挙げて返事した。