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#実神鷹 ―家― 1


 哲学を哲学で説く。


 論理を理論で壊す。


 

 人の行動にはすべて理由がある。「ある他人のために自分を犠牲にするのは、自分のために過ぎない。」なんて宗教じみたことを言う心理学者もいるくらいだ。しかし、僕はこの意見には賛成する。他人のために行動することは、巡り巡って返ってくる見返りのためなのだ。


 だからどうしたと言ってしまえば、有耶無耶になるような不確定な要素だ。



 「ふんっ――」


 僕は鼻で笑って、思考をするのをやめた。


 自分の家の鍵を取り出し、ロックを解除した。いや、普通に鍵開けただけだけど。

 

 鍵はちゃんと掛かっていた。当たり前だ。この時代に開けっ放しにするなど、空き巣ほいほいにも程があるってモンだ。


 マンションの7階、その一室が僕の家。昔、4人で住んでた時期があったけど、今は2人になってしまっている。僕と、6歳上の姉と二人だ。


 ドアを開けた。


 がちゃり――


 「お、お帰り~」


 下着姿の姉が出迎えてくれた。


 「そんな格好で出てくんなよ!」


 「いいじゃん。もう過ぎたことは」


 「過ぎてないだろ。今現在、下着姿だろうが。『下着姿の姉』だけ聞いたら、どういう状況か分からないだろ!ものすごく危ないだろ!」


 そう言いながら僕は靴を脱いで、姉の手を引っ張る。風呂上りらしい、姉の濡れた長い髪が僕の顔に当たる。


 「ほら、早く服着て」


 「分かった分かった。もー、鷹はうるさいなぁ。思春期か~?」


 「思春期だったら絶対グレるぞ。いまは反抗期だ」


 言って、姉を部屋に連れて行き、タンスを指さして、「はい、服を着る!」と言って、ドアを閉めた。廊下に出た瞬間、溜息が漏れた。


 まったく――、あんな格好をして玄関に出るなんて……。最近酷くなってないか?暖かくなると変な奴が出てくるって言うけど、これもその類なのか?


 僕は実の姉を変態呼ばわりしながら、自分の部屋に向かう。ドアを開くと、6畳の部屋。入って左手にベッド、正面にはクローゼット、左奥に机が並ぶ。


 鞄を床に置き、制服のブレザーをクローゼットに掛け、僕は脱衣所に向かった。


 「姉ちゃん、先に風呂入るから」


 僕が部屋の外から言うと、丁度姉が部屋から出てきた。今度はさすがにまともな格好をしている。健全なパジャマだ。


 「ん、じゃあ、晩御飯作っとくから」


 「へーい」  


 返事をして、脱衣所に向かった。制服を脱いで、かごに入れる。姉は気にしないのか、自分の下着をごく普通にかごに入れている。いや、まぁこんなこと気にしてたら姉弟なんてやってられないんだけど……。僕にしたって、もう何回も見ていて飽きてるくらいだ。


 シャワーを浴び、頭を洗い、体を洗い、顔を洗う。そして、湯船に浸かった。


 「なんだこれ?」


 お湯がぬるい。ただそれだけだったが、僕は神経質だからそういうところは気になった。まぁ、大方、熱いお湯が嫌いな姉が水でも入れたんだろう、という思考に至り、そこで考えるのをやめた。


 「あー……今日は色んなことがあったなー…」


 心の中でそう呟く。だが、実際色んなことがあったような気がするだけで、それほどでもないのかもしれない。『かもしれない。』僕の口癖かもしれない、と思った。


 風呂から上がって着替えると、もう晩御飯ができていた。


 「あれ、早いね。……カレー?」


 「そ、カレー。お風呂入る前に作っといたんだよ。カレーって一回冷ますとコクが出るじゃん。で、今が二回目の温め中」


 「成る程ね。だから今日は風呂が早かったんだ」


 姉は、普段風呂に入る時間は10時以降なのだ。


 「そゆこと。じゃ、食べよ。お皿出して」


 「へーい」


 姉は皿を受け取り、二人のカレーを皿に盛った。何だか僕のカレーの量がハンパなく多いんだけども……ま、食べられない量ではない。


 いただきます―――。


 「鷹、今日何かいいことあったの?」


 食べ初めてすぐに質問された。


 「ん、別に?」


 「帰ってきたとき顔笑ってたでしょ。あれ何なの?」


 「いや、自分では笑ってたつもりは無いんだけど………」


 「無意識かよ……。でも、絶対笑ってたよ」


 真剣な表情を作る姉。そこまで言うなら、多分本当なのだろう。けど、僕は一体なんで笑ってたんだ?


 「まぁいいじゃん。それより、下着姿で玄関まで出てくるの止めろよ。誰かに見られたらどうするんだよ」


 「私は見られてもいいんだけど」


 「こっちがよくない」


 「こっちはいいの!」


 むむむ……。21歳にもなって全く頑固な。つーか見られていいってどういうことだよ。


 「ちょっとは気にしろよ。マジで。ほんと心配になってくるよ……」


 「童貞に心配されたくないね」


 こうして、二人でも賑やかな食事がそこでは行われていた。


 

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