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救国の魔女とその娘  作者: 成若小意
本編

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9/14

神様の落とし物/抜け出せなくなった人間達

よろしくお願いします。

『救国の魔女とその娘は、前人未到の地を横断した』と後の人は言う。しかしそれは娘の暮らす国で言われているだけで、人が全く住んでいないわけではなかった。


 二人の行く道の途中、所々に集落が点在していた。そこに暮らすのは人外の者のこともあったが、普通の人間が住んでいることもままあった。


 二人はある時、普通の人間の村に滞在した。

 有名な大魔法使いがやってきたと、村を上げて歓待してくれた。しかし、カサンドラのぞんざいな性格を知ると、皆苦笑いしながらの対応となった。


 ちなみに『救国の魔女』という呼び名は娘の暮らす国でだけよばれる名で、他所では基本的に大魔法使いカサンドラとよばれていた。


 彼らは『抜け出せなくなった人間』だと、母は言った。


「抜け出せなくなった人間?」

「そうさ。その時のことを覚えているヤツはもう生きていないだろうけど、ある時を境に、ここら周辺から出ることができなくなってしまうという現象がおきた。それから奴らはずっとこの地で生きているのさ。

 まあ、私達は好きな時に好きな所に行けるから関係ないけどね。」


 そして母はこう言った。


「旅の終着地点はそろそろだ。」






『抜け出せなくなった人間』の村で、母とアレクサンドリアは最後の荷造りをしていた。


「これから行く場所は荷物を持っていけないからね。」


 母はそう言って、数少ない荷物を仕分けしていっていた。何でも作れる母はもともと荷物を必要としない。それでも持ち運んでいた数少ない荷物を、村に置いていくと言った。


「アレクサンドリアは留守番しておくかい?」


 母が、かつて旅に出るときに聞いたように、またアレクサンドリアに聞いてきた。


「行く。」


 そうアレクサンドリアは答えた。


「…そうかい。まあ、その方がいいだろうね。」


 そう言って、荷造りを続けた。






 荷造りを終え、村を離れて向かった先にあったものは、茨でできた森であった。


 そこは、空間が歪んでいるようだった。


 たとえば、山一つ入るほどの巨大な箱があって、その側面に絵を書き、箱の上を踏み潰すとこう見えるだろう、というように、茨でできた森が中心に向かって湾曲していた。


「行くよ。」


 そう言われて、躊躇なく茨の森に入っていく母。


 茨と言っても普通のものではなく、蔦一つをとっても人間の何倍もありそうな太さであった。


 そしてその茨の森に言いようのない不安を感じるアレクサンドリア。

 しかし、そんなアレクサンドリアを置いてずんずん進んでいってしまう母。


 今まで、最強の魔法使いの母といたので、危険というものを感じたことはなかった。

 しかし、ここは危険だと本能的に感じる。


「危険だと感じたら、全速力でにげるんだよ。」

 母はそう言いながらも、振り返ることなく進んでいく。


 後ろでべそをかき始めるアレクサンドリア。


「アレクサンドリア、泣いてはいけないよ。水分が無駄になる。泣くのは安全な所に行ってからだ。今泣くと、前が見えなくなる。泣く声で音も聞きづらくなる。匂いもしなくなる。いいことはない。」


 母はそう言うが、つまりここは安全な所ではないと母も認識しているということだ。そんな所で母は一体何をしようとしているのか。


 茨の中で不気味さが極限に達しそうな場所で、母はようやく振り向いた。


「アレクサンドリア、ここには『神様の落とし物』があるんだ。」


「神様の落とし物?」


「そうさ。これがあればきっと、あの人は死ななかった。」


 そう言いながら、母はポケットからなんの変哲も無いペンダントを取り出した。


「それを今からあの穴に取りに行って、このペンダントに入れる。ちゃんと受け取るんだよ。そしてずっと身に着けておくんだ。」


 そう言ってから、母はアレクサンドリアに近づき、娘の両頬を母の両手ではさみ、この旅で初めてまともにアレクサンドリアの瞳を見つめた。


「アレクサンドリア、あなたは生きるんだよ。」


 そう言って次の瞬間の、目の前の穴に飛び込む母。


 そして、すぐに穴からペンダント()()飛んで来た。



読んでいただきありがとうございます。

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