閑話 アレクサンドリアと鏡
よろしくお願いします。
アレクサンドリアはとても美しい娘だった。
その父親も、とても美しい人間だった。
アレクサンドリアの容姿は父親にとても良く似ていた。
水色がかった銀髪。透けるような白い肌。小さな顔。丁寧に作られた目鼻。薄っすらと朱の覗く小さな口。
父親は人間離れした容姿にあわせたかのように、性格もどこか人間というよりかは妖精じみていた。ふわふわといつもどこかへ行ってしまうので、アレクサンドリアはよく父親の手を掴んでいた。
その父親の、少し冷たく柔かな手が好きだった。
父親が亡くなってから、アレクサンドリアがよくする遊びがあった。
鏡に向かって、父の真似をするのだ。
自分の名を少し低めの声で呼んでみる。そうすると、顔も声もよく似ているので、父に話しかけられているような気がする。色々な呼び方で呼んでみる。幼いアレクサンドリアはそれがなんだかおかしくて、一人でクスクスと笑う。
何度か真似をしてから、やがて、逆に鏡の中の父親に『お父ーさん』と声をかける。しかし、鏡の中の父親は返事をしない。
静けさがこだまする一人の部屋。
何度話しかけても返事をしない、鏡の中の父親。
アレクサンドリアはまぶたに涙を少しためながら、眠りにつく。
そのうち、様子を見にきた母親がアレクサンドリアを抱えて布団に入れ、共に眠りにつく。
小さな痛みを胸に抱えながら、二人の旅は続く。
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