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救国の魔女とその娘  作者: 成若小意
エピローグ

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12/14

卒業旅行のお土産

よろしくお願いします。

 母親の思い出話を語ったあと、妻のアレクサンドリアが単身卒業旅行にさっさと出かけてから、二週間。


 遠征で二週間会えないこともたまにあるが、今回は国内に妻がいないということで、ことほか、会えない時間が長く感じた。




 旅から帰ってきた妻は、一層美しくなっているようだった。


「おかえり、アレクサンドリア。」


 そう言って抱き寄せると、


「ただ今帰りました。」


 と微笑んで見上げてくれる。その顔の可愛いこと可愛いこと。


 今回の卒業旅行で、彼女はきっと成長したのだろう。だから美しさに磨きがかかったのだ。いや、会えない期間がただただ夫の目を曇らせたのか?



 とりあえず妻が愛おしいことには変わりがない。抱きしめて、幼子おさなごのように玄関ホールでぐるりと一回ししてやると、楽しそうに腕の内で笑った。


「無事に帰ってきてくれて嬉しい。君が喜びそうなものを色々と準備したんだ。でも、君の口からも直接聞きたいな。卒業祝いに何が欲しい?」


「そうですね。もう一度、抱き締めて欲しいです。」

 そう言うので、なかなか玄関から離れられない二人であった。





 この日は夫が用意した食事を二人で食べた。

 その後いつもの居間に移動し、お気に入りの暖炉の前で、ソファに寛ぎながら話をする二人。


 アレクサンドリアは旅で手に入れたお土産を、ソファの前のローテーブルに並べた。


 木の葉、小石、木の実。

 なんの変哲もないものに見えるが、きっと素晴らしい物なのだろう。


「二週間もかけてようやくたどり着いたんだね。」

「はい。途中知り合いのところに寄りながら行ったので。」


 並べていくお土産の中に、くたびれた革表紙のノートがあった。


「これは?」


 夫は不用意に妻のものに手を触れない。これは魔法使いと共に暮らす上でとても大切なこと。

 そのため、目線でノートを示す。

 別に手で指し示してもいいのだが、あいにく妻を包み込んでいて手が塞がっているのだ。


「これはお母さんの手記です。」

「…お師匠様の。」


 夫はアレクサンドリアの母を師匠と呼ぶ。

 そしてその性格も熟知しているので、手を触れなくて良かったと安堵する。



 アレクサンドリアはそれをおもむろに手に取ると、中身を読み始めた。


「読んでいいの?」

「はい。これはお母さんの日記ではなく、旅の記録なので、読んでいいと言われています。」


 そして、夫の腕の中で、アレクサンドリアはゆっくりと母親の手記を読んでいく。


 長い時間をかけて読み終わったあと、あまり泣かないアレクサンドリアが目に涙を浮かべていた。


「あなたも読んでください。」


 曰く有りげな手記をほんの少し躊躇してから受け取り、夫も中身を読んだ。


 アレクサンドリアよりかは早めに、しかし、じっくりと読む。


 読み終えて、一息つく。分厚いものではなかったのだが、長編の小説を読んでいるような読後感があった。


 夫は腕の中でまどろみ始める妻の額に口づけをした。


「良かったね、アレクサンドリア。」


 手記には、長年アレクサンドリアが抱いていた母親への疑問の、その答えが書いてあった。


 その答えとは。




 母カサンドラが死なせたくなかったのは父ではなかった。

 母が死なせたくなかったのは、娘アレクサンドリアだった。

読んでいただきありがとうございます。

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