卒業旅行
よろしくお願いします。
アレクサンドリアは、有名な魔法使いの母と勇者の父を両親にもつ。しかし、そんな両親ももういない。
彼女は仕事をしながら、魔法学園に通い、先日無事に卒業した。
今は、久しぶりに遠征から帰ってきた夫と一緒にソファに座り、お茶を飲みながらくつろいでいるところである。
「そういえば、学園を無事卒業できたお祝をあげようと思っていたんだ。何がいいかな?」夫がそう言う。
夫はいつでも妻が喜ぶところを見たい。
魔法で何でもできてしまう彼女にしてあげられることは限られているので、機会があればここぞとばかりに頑張りたい。
「そうですね。欲しい物…と言うよりも、行きたいところがあります。」
彼女が顔を上げると、美しい髪の毛が揺れる。
「そうか。それなら、卒業旅行だね。どこに行きたいの?」
「母の手帳を取りにいきたいのです。」
夫は嫌な予感がして、妻の髪を撫でようとした手を止める。
「…それは、どこにあるのかな?」
「母と一緒に出掛けた最後の旅行先です。おそらくそこに置いてきてしまったのだと思います。」
アレクサンドリアと彼女の母親は、国の地図にも載っていない、未知の領域の横断を達成している。
最後の旅行先というのも、常人の観光旅行とは違い、訳のわからないところなのだろう。
「遠いだろう?」
彼はそっと妻の髪の毛を撫でる。
「前に行ったときは私も幼かったのですが、いまなら一人で行けば2週間で帰ってこられます。」
「一人でか。寂しいな。」
彼は魔法が使えない。一緒に行くとなると余計な時間がかかってしまう。
「呼んでくださればいつでも帰れますので。」
道中用事があるから2週間かかるのであって、飛んで行けば一瞬で行けるし帰れる。
お祝いに二人でなにかしようと思っていたのに、思いがけないお願いをされてしまった。しかし滅多にお願い事をしない妻のお願いなので、止めるのも可哀想だ。
帰ってきたら何か喜ぶものを用意しておいてあげよう。そう思いながらも、少し寂しい夫であった。
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