見守ることしかできない状況が辛いんだ
愛する彼女の横顔を見つめる。
けれど、恋人である僕が近くにいても、彼女は無反応。
それは当然だろう。
数日前、歩道に突っ込んできた車から彼女をかばって、それが原因で僕は命を落としたのだから。
死んだ人間が幽霊になって近くにいるとは思わないはず。
彼女はそういうのを信じない人だったから尚更だ。
もどかしい。
見守ることしかできない。
だってもう、俺はこの世にはいないから。
生きている人に触れたり、声をかけたりすることができない。
目の前の、僕の死を嘆き、悲しんでいる彼女の涙をぬぐったり、肩を抱いたり、不意にいなくなったことを謝ったり、これまでの感謝を伝えることはできない。
なんてもどかしいのだろう。
僕という存在はここにあるのに、確かにいるのに。
幽霊である自分には見守ることしかできないだなんて。
これならいないほうがましじゃ、ないだろうか。
けれど成仏することもできなかった。
だって、彼女から目を離すのが怖い。
知らない間に最悪の出来事が起きていたらと思うと。
後を追ってきてしまったらと思うと。
怖くてたまらない。
こんなもの、なんてひどい状況なのだろう。
無力感を抱くだけの時間を過ごさなければならないなんて。
いつまでこうしていなければならない?
僕が成仏するか、彼女が壊れるまで?
幽霊にできること。
そんなことなんて、なにもないのに。
おふざけで、死んだ後に人の魂がどこに行くのか、なんて彼女と話したことがあるけど。
成仏する前に地獄みたいな状況になるなんて思わなかった。






