第8話 スライム
「召喚獣にレベルはあるのに、僕にはレベル表記がないんだね」
『はい。人は召喚獣と違い、レベルの概念はありません。その代わり力を鍛えれば直接腕力が上がり、知識を得ればそれだけダイレクトに知識量が増していきます』
なるほど……自分の戦い方、鍛え方でどの能力が上昇するのかが決まるってことか。
僕は周囲にいるスライムの方に視線を向ける。
「……一度戦ってみるか。ベビーナイトなら勝てる見込みがあるかも知れない」
『問題ありません。スライム相手なら現在のベビーナイトでも勝利することは可能です』
「そうか。じゃあやってみよう」
ベビーナイトは語りかける必要もないようで、僕の意思を感じ取り、前へ歩き出す。
僕もベビーナイトと共にスライムへ向かって草原の中進む。
「行け、ベビーナイト!」
「ビー!」
ベビーナイトは僕の命令に従い走り出す。
命令も必要ないんだけど……雰囲気って大事だよね。
スライムは近づくベビーナイトの姿に感づき、臨戦態勢へと入る。
飛び跳ね、ベビーナイトとの距離を自身から縮め出した。
ある程度距離が縮まると、スライムの身体がピタリと動きを止める。
そこからプルプルと体を震わせ――
飛翔。
緩慢な動きから素早い動きへ切り替わり、その距離を一瞬でゼロにする。
ベビーナイトは飛んで来るスライムを避けることができず、その体当たりに直撃した。
よろめくベビーナイト。
スライムは再び体を震わせ、攻撃に転じようとしていた。
「ベビーナイト、今だ!」
「ビー!」
先ほどよりもベビーナイトとスライムの距離は近く、相手は剣は届く場所にいる。
ベビーナイトは僕の命令通り、剣を振り上げ、そしてスライムを切りつけた。
ザクッという音と共にスライムが後方に後ずさりする。
攻撃は通用するようだが、どうも浅かったようだ。
「もう一度だ、ベビーナイト!」
ベビーナイトはもう一度剣を振り上げ、そしてスライムの体に叩き込む。
絶命。
スライムはピクリとも動かなくなってしまい、ジュワーッと炭酸のように消え去ってしまう。
気が付けば握り締めた手の中は汗だらけになっていた。
戦いに興奮していたのだ。
僕は深呼吸し、自身の気を落ち着かせ、ベビーナイトに笑顔を向ける。
「お疲れ。よく頑張ったね」
「ビー!」
ベビーナイトが兜の内側から笑顔を見せる。
「…………」
やわらかい風が僕の肌を撫でた。
スライムに勝てたことに僕は喜びを感じつつ、【アドバイザー】に訊ねてみる。
「レベルがあるってことは、モンスターと戦っていたらベビーナイトも強くなるんだよね?」
『はい。戦闘を繰り返せばレベルが上昇していきます』
ってことは、戦えば戦うほどレベルが上がり戦闘が楽になるってことか。
ベビーナイトは僕の召喚獣。
僕の力だ。
それは僕の力が上昇していくのと同意義であろう。
僕はさきほど以上に興奮し、戦いを続けることを決める。
そんな時、丁度足元に木の棒が落ちており、僕はそれを拾う。
これを使って僕も戦うんだ。
ベビーナイトを強くするのと同時に、僕自身も強くなる。
「【アドバイザー】なんかこう、効率よく強くなる方法ってないかな?」
『師を迎え入れるのが一番効率よく成長できでしょう』
「師匠か……【アドバイザー】が師匠になることはできないの?」
『それも可能です。しかし私が教えることができるのは技術のみ。人間の師匠を探すのも大事なことでしょう』
「そうか……師匠はまた探すとして、今は僕に合った戦い方を教えてくれないか?」
『了解しました。では、【同調モード】を発動します』
頭の中に電子音のような物が聞こえ、【アドバイザー】と同調した感覚がくる。
なるほど……どういう風に体を動かせばいいのか、どういう風に棒を振るえばいいのか、それが理解できる。
僕は与えられた知識のままに棒を振るう。
すると【アドバイザー】が口を挟む。
『知識と実際の動きの誤差が酷いです』
「あはは……知識は完全なのに動きは不完全か」
どこかで自分の動きを確認しながら訓練を積まないといけないか。
なるほど、こういうことも含めて、師匠がいた方がいいってことなんだな。
だが武器の扱い方は少し把握できた。
付け焼刃かも知れないが、それでも何もないよりマシだろう。
そこで僕は近くにいるスライムを見据え、ベビーナイトと共に走り出す。
「ベビーナイト、一緒にモンスターを倒そう!」
「ビー!」
ベビーナイトが僕の前を行き、スライムと正面からぶつかり合う。
今度は相手の攻撃より速くベビーナイトが一撃を食らわせる。
攻撃を食らい、瀕死のスライム。
僕は緊張に心臓が爆発しそうになっていたが、それを抑え込むように叫ぶ。
「うわぁああああああ!」
僕は【同調モード】のまま木の棒を振り下ろす。
その一撃はスライムに直撃し、相手は絶命に至った。
大きく息を切らせながら、満足感と達成感を味わう。
僕でも勝てる……きっと僕たちはまだまだ強くなれるんだ!