第7話 ジョブ
【ジョブ】――
蓄積された戦闘経験によって習得できる、能力の方向性と言うか補助というか……
剣を扱い続ければ【剣士』という【ジョブ】を習得することができ、【ジョブ】が発現した後は、これまで以上に能力が伸びやすくなる。
【剣士】の場合は主に力や素早さなど接近戦を戦うための能力と、剣の扱いが上昇しやすくなり、言わばブースターのようなものであろう。
これも【ユニークスキル】と同じく、奴隷の身分の人たちには発現しない。
そもそもが能力に低い人間が戦いをする機会もないからだろうが……
だがこれで一つ新たな事実が判明してしまった。
【ユニークスキル】もそうであったが、【ジョブ】も僕に発現したのだ。
奴隷には【ユニークスキル】も【ジョブ】も習得できないという常識が、根底から覆ってしまった。
常識は正しくなかったのだ。
この世界の常識は全く正しくないのだ。
だったら……奴隷である僕も強くある可能性がある……?
希望を持ってもいい?
僕は定められた運命から抜け出すことができるのか?
感情を抑えきれない。
ワクワクと興奮、そしてほんの少しの恐怖心。
できるわけないと思っている負の部分もまだあるが、それ以上にできるかも知れないという気持ちの方が圧倒的に勝っている。
常識を疑え……そんな言葉を思い出す。
前世で何度も聞いた言葉だ。
偉人たちはそう言い続けていたはず……
その言葉の意味が少し分かったような気がする。
この世界の常識は間違っている。
だから僕は、自分の信じる正しい道をこれから歩みんだ。
そのために……強くなるためにはどうするべきか。
まずは【ジョブ】だ。
「【召喚戦士】ってどんな【ジョブ】なんだろうか……?」
僕がポツリと一言漏らすと、間髪入れず【アドバイザー】が説明を始める。
『【召喚戦士】――召喚術によって召喚獣を使役し、そしてその者と共に戦う戦士のことです』
「召喚獣か……」
召喚士なんて職業は耳にしたことがあるが……そうか、【召喚戦士】は、召喚した召喚獣と共に戦う【ジョブ】のことなのか。
「僕が扱える召喚獣は?」
『現在は一体だけです。しかし、あなたの成長と共に扱える召喚獣の数も増えてきます』
「そうか……じゃあ早速試してみるか」
召喚の使い方は分からない。
だがそこで、【アドバイザー】がまるで僕と一体になったかのような感覚を覚える。
それは【同調モード】と呼ばれるスキルで、【アドバイザー】から聞くことなく、直接知識を共有できるという物のようだ。
それも【同調モード】によって今知った知識。
僕は右手を前に突き出す。
「我が呼びかけに答え、顕現せよ、『ベビーナイト』!」
魔術を扱うための魔力、【マナ】の操作方法とその技術を【アドバイザー】の持つ知識で召喚を発動する。
ごく自然に、扱いなれた技能を使用するかのように召喚魔術を使うことができた。
そこで【同調モード】は解除されたらしく、一体感は薄れていく。
だが召喚の扱い方はこれで理解した。
次は【アドバイザー】の同調も必要なく発動できるであろう。
本当に【アドバイザー】は便利なユニークスキルだ。
まさにチートじみたスキルだ。
僕が突き出した右手の先――地面に光輝く魔法陣が出現する。
そしてその光の中からうっすらと小さな生物が現れた。
「ビー!」
それは大人の頭ほどの大きさほどの二頭身の生き物。
騎士の鎧と兜をかぶり、右手には剣を抱えた魔獣、『ベビーナイト』。
「……なんだか頼りないな」
『現在の彼の能力を確認いたしますか?』
「え? そんなことできるの?」
『はい。可能です。私には【鑑定】のスキルを初期設定されていますので』
「どこまで便利なんだ【アドバイザー】……じゃあ、その【【鑑定】】を頼む」
「では、【鑑定】、発動』
【アドバイザー】のスキルが発動し、その情報が僕の目の前に映し出される。
半透明の板状の物……そこに『ベビーナイト』の名前と情報が表示されていた。
ベビーナイト
LV 1/20
HP 5 MP 2
STR 5 VIT 4
DEX 2 AGI 3
MAG 1 RES 1
INT 1 LUC 11
スキル
――
『ベビーナイト』のステータスは把握した。
だけど確認しておいてこれが強いのか弱いのか分からない。
他人のステータスなど見たことがないからだ。
「ちなみに、僕のステータスも確認できる?」
『はい。あなたのステータスは【鑑定】を使用することなく常時確認することが可能となっております』
「そうなんだ……じゃあ折角だから見せてくれないか?」
『はい』
レイン
召喚戦士
HP (F)2 MP(F) 1
STR(F) 1 VIT (F) 1[
DEX (F) 1 AGI (F) 1
MAG(F) 1 RES(F) 1
INT(F) 5 LUC 20
ユニークスキル
アドバイザーⅠ 召喚Ⅰ
スキル
――
ひ、酷い……
分かっていたけど弱すぎる……
全てのステータスがF……
あれ、でも運だけは才能が表記されていないな……
「運には才能表記されていなけれど、どういうことだろう?」
『運はレベルとは関係なく、常日頃の生き方によって左右されるものです』
「そうか……そうなんだ」
僕のステータスは最底辺。
眺めているだけで憂鬱になりそう。
でもここから始めるんだ。
僕はこの状態から這い上がる。
配られたカードで勝負するしかないのだから。