第6話 召喚戦士
町の西側には草原が広がっており、周囲には小さく飛び跳ねるモンスターの姿がある。
それはスライムと呼ばれるモンスターで、強さ的には大したことないらしいが……今の僕では勝てる相手ではないだろう。
大きさも大したことないしどうにでもなりそうなのだけれど、それでも子供が殺されたなんて話は何度も聞いたことがある。
近づくのは危険だ。
僕はスライムを避けつつ、西の方角へと走って行く。
「一体何があるっていうんだ……」
少しずつ少しずつ、盗賊の住処へと近づいて行く。
え、まさかそこに侵入しろって話じゃないよね?
住処に近づいていくのに比例するかのよう、僕の心拍数は上昇していく。
町の西の先には森があり……そこに盗賊の住処があると言われている。
貴族と平民の戦士たちがこれまでに何度も盗賊を退治するために行動に移してきたのだがが……その度に危険を察知した盗賊団が住処を捨てて別の場所に移るらしく、いたちごっこのようだ。
今は西の森にいるという情報は間違いないのだろうが、町の者たちが動くとなれば、また奴らはどこかに避難するはず。
奴隷認定されている僕が盗賊に見つかったらどうなるのだろうか?
ほとんどの場合が見逃してくれるという話を聞いたことがあるが……それでも数人は酷い目に遭わさせれている。
何事もなければいいのだけれど……
危険を感じながら走っていると、ポツンと動かなくなった馬車が視界に入る。
何かあったのだろうか……
「あの、どうかしたんですか?」
「ああ? 奴隷の子供か……」
御者の人が僕を見るなり不機嫌な顔をする。
馬車の中には一人初老の男性がおり、彼もまた僕を見て嫌そうに顔を歪めていた。
その男性は豪華な身だしなみをしており、左手小指には金色の指輪がはめられている。
銀色の指輪は平民の証。
そして金色の指輪は貴族の証である。
御者の人は僕の問いかけに答えることもなく、困った顔で馬車の車輪を見下ろしている。
どうやら車輪が深みにはまり動けないなっていたようだ。
彼らの態度に少々腹を立てるが……このまま放っておいたらこの人たちは死ぬこととなるだろう。
だって盗賊の住処が近いのだから。
こんな態度の悪い人たちなんて放っておいてもかまわないとは思うけれど、そうなったら後味悪い思いをするんだろうな……
「この辺りには盗賊が出るのをご存じありませんか?」
「何っ!? 俺たちはアークバランから来たのでな……それは知らなかった。奴隷、手伝え」
「あ、はぁ……」
御者の人の小指には銀色の指輪がある。
彼から見ても僕はこき使える存在。
手伝いをさせるのなんてごく当然のことなのだ。
馬車を動かすため、僕は彼に指図されるままに馬車の後ろに回る。
そして二人で一緒に力の限り馬車を押し始めた。
「もっと力を出せ! せーの!」
「んん!」
力を出せなんて言われても僕は子供だし、それに能力の低い身分だ。
馬車一つ動かすのなんて大変なことで、それはそれは重労働となってしまった。
と言うか貴族のあなた、馬車から下りてくれたらもう少し楽になると思うんですけど。
するとそこでようやく空気を読み始めたのか、貴族の人は馬車から下り、手伝いはしないものの僕たちを監視するかのように作業を眺めていた。
そして僕らは力の限り馬車を押し――とうとう車輪が動いたのである。
「よし、これで町に向かえますぞ」
貴族の人はとくに反応を示さないまま馬車に乗ってしまう。
御者の人も僕に何も言わずに馬車の操作を始めてしまった。
僕は息を切らせて、馬車を見送ることに。
これが当たり前なんだろうけど、お礼の一つぐらい言えないものかな。
そんな風に思い、苛立っていた時だった。
「おい」
「はい?」
「世話になったな。これは礼だ、受け取っておけ」
貴族の人が窓からこちらに球体の物を放り投げてくる。
「それの用途は知らん。だが売れば少しは金になるだろう」
「あ、ありがとうございます」
馬車はそのままグルーゼルの町へと走り去ってしまった。
僕は与えられた球体をボーっと眺める。
それは水晶のような物であった。
だが中央には何やら黒い炎のようなものがゆらゆら揺れめいており、眺めていても飽きない楽しさを覚える。
「あ――」
馬車を動かすのに力を使い手に力が入らなかったのか、その球体を落としてしまった。
それは地面でパリンと割れ、中から闇の炎が立ち上がる。
「うわっ!?」
その炎は僕の身体を包み込み――そして消えてしまった。
「? 何だったんだ?」
『ジョブ、【召喚戦士】に覚醒しました』
「え……ジョブ? ……ジョブぅ!?」
『はい。先ほどの球体は特殊ジョブを内包したアイテムで、それを使用したあなたはジョブに覚醒しました』
「な……なんだって……」
僕は突然のことに唖然としつつも、新しい能力が手に入ったことに密かに胸を熱くさせていた。
【アドバイザー】の言う通りにしてこんなことが起きるなんて……
もしかして、これって大当たりのユニークスキルなんじゃないか!?