第16話 師匠との出会い
「こ、このお金はどうしたの……それにその指輪は!?」
スライムを倒して手に入れた魔石。
平民になったことにより公平な取引をできるようになったからそれを換金し、ベルナデッドに手渡したのだが……彼女は大きなその目を真ん丸にして僕に詰め寄る。
「まさか、泥棒をしたの!?」
「そんなことするわけないだろ。平民になったんだよ」
「へ、平民になったって……どういうこと!?」
「ユニークスキルに目覚めたんだ。だから平民として認められた。ただそれだけだよ。誓っても、ベルナデッドを困らせるような真似はしていない」
「そんな……私困っているわ」
「え……?」
ベルナデッドの瞳に涙がにじむ。
何故彼女が泣くのだろう。
僕は焦り、ベルナデッドにどう声をかけていいのか頭をフル回転させていた。
「ねえレイン。こんな嬉しい時、どんな顔をしたらいいの?」
「え……嬉しい?」
「嬉しいに決まっているわ。だって私が面倒を見ている子供の中から、過酷な運命から抜け出せる子が現れるなんて! こんな嬉しいことはないわよ!」
ベルナデットはそう言い、僕の体をギュッと抱きしめる。
彼女の母のような温かさと無垢な優しさが身体の中に沁み込んでいく。
そんな感覚とときめきを僕は得ていた。
本当にどこまでも優しくて、僕たちのことを本気で思ってくれている。
だからどこまでも僕たちもベルナデットのことが好きなんだ。
彼女が喜んでくれているのがとても嬉しくて、僕は彼女の背中に手を回す。
「ベルナデット……ベルナデットが僕のママでよかった」
「私だって、レインたちのママでよかったわ」
その言葉を聞いて、リオラたちがベルナデッドに駆け寄る。
「オレだってベルナデットがママでよかったと思ってるよ!」
「リオラ……ありがとう」
ウェイブだけが遠くから満面の笑みを浮かべながらこちらを見つめている。
それ以外の子供たちは全員、ベルナデットに抱きついており、その中心にいる僕は皆の温かさと蒸し暑さを感じていた。
確かに蒸し暑いのだけれど、不快感は一切ない。
とても心地いい暑さだ。
「レイン、これからあなたはどうするつもり? 平民の地区で生活をできるはずよ」
「え……レイン、ここから出て行くのか?」
リオラが真っ青な顔をして僕の顔を覗き込んできた。
何がそんなに心配なんだ?
僕が平民として生きて行けるのか心配してくれてるのかな?
僕はそんなリオラの顔を見ながら考えていることを言葉にする。
「僕はこれからもここで生活しようと思ってる。今の僕なら少しは稼げるし、ベルナデットと皆の助けになりたいんだ。だからこれからもここにいる。皆とはずっと一緒だ」
「でもレイン、あなたはもっと楽な生活と環境が与えられるはずよ」
「ここより楽しい生活はないし、環境なんて慣れればどうってことないよ。何も問題ない。僕はベルナデットの子供でいたいんだ」
するとリオラたちがワッと声を上げる。
「やった! まだレインと一緒に生活できるんだ!」
「兄弟が減るのは楽しくないもんな! 俺たちは皆、ずっとベルナデットの子供だ!」
大騒ぎする子供たち。
僕とウェイブは顔を見合わえクスクスと笑っていた。
ベルナデットは子供たちの笑顔を見て、聖母のように微笑んでいる。
◇◇◇◇◇◇◇
平民になってもやることは同じで、午前中はウェイブと共にスライムと戦い、実力を高めることに。
だが午後からは新しいことを学ぶため、僕は平民の町へとやって来ていた。
アドに従い、ある目的を果たすために町をうろつく。
彼女が言うことに間違いはない。
彼女のアドバイスのおかげで運命は変わったのだ。
こうなったらとことんまで信用し、信じてみようと思う。
そんなアドが僕に言ったのは……師匠を探すこと。
これからさらに強くなるためには、師匠が必要だとは分かっていたが、そんな簡単に見つかるものか?
なんて考えが頭に一瞬過るが、アドが間違ったことを教えることはないだろう。
今さっき信じると決めたとこだろ。
信じるならとことんまでだ。
アドが言うには、町の北部……北の奴隷地域に面した場所で師匠と出逢えるとのことだった。
平民地区の北には来たこと無いけれど、別段変わったところはない。
普通にただ平民の住んでいる場所だなという印象だった。
だけどここらで出会えるような師匠ってどんな人なんだろう。
もっとも実力があるのは貴族の人なんだろうけど……やっぱりこの辺りで出会うというなら平民の人だよな。
悪い人じゃなかったらいいんだけど……
そんなことを考えている時であった。
大きな広場を考え事をして歩いていた僕。
目の前に人が接近していることに気づかず、僕は大人の男性にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
男の人はじーっと無言で僕を見下ろしていた。
だがその表情は明るく、次の瞬間にはニヤリと笑う。
「あんまり見たことない子供だな……よそ見してたら危ないぞ」
「はぁ……」
男の人は僕の頭にポンと手を置き、そしてゆっくりと歩き出す。
中年の彼は少しぎこちない歩き方をしており……足元を見ると、右足が無いようだ。
「…………」
彼に頭を撫でられた瞬間、僕の体内に稲妻が走った。
直感が僕に叫び伝える。
彼こそが……僕の師匠となる人だ、と。