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第14話 仕返し

 僕を取り囲み、子供とは思えないようは邪悪な笑顔を浮かべるヨワキムたち。

 彼らはどうやって僕を痛めつけてやろうかと楽しんでいるようだが……

 果たして痛めつけられるのはどちらだろうな。


「お前が悪いんだぜ? お前が平民様の敷地に侵入する不届き者だから痛い目に遭うんだ。それは理解してるよな?」


「うん。君たちみたいな愚民ががいることぐらいはよくよく理解しているよ」


「なっ!?」


 僕の言葉にヨワキムは驚き、そして怒りを露わにする。

 眼前にヨワキムの顔が迫り、僕はため息をつきながら彼の顔を押しのけようとした。


「奴隷が平民に何してるんだよ! 触れんじゃねえ!」


「触れられたくなかったら、家の中にでもこもって自分の顔を大事にしなよ。怪我したら大変でしょ?」


「怪我? 怪我すんのは俺じゃねえ……お前の方だ!」


 怒りを爆発させ、感情のままヨワキムが拳を振り上げる。

 動きは速くない。

 若干ではあるが、こちらはモンスターと戦い戦闘力が向上している。


 何もしていない平民の子供と比べれば――もう僕の方が上だ。

 それに相手は頭に血が上っており、冷静な判断も、冷静な行動もできない。

 僕が負ける要素は、ゼロに等しい。


 ヨワキムの拳が届く前に【身体強化】を発動。

 発動と共に僕は拳を全力で突き出す。


「ぶふっ!!」


 ヨワキムの頭が弾け、後方へと吹き飛んでいく。

 ゴロゴロ地面を転がり、鼻血を出して瞳には涙を浮かべていた。


「な、ななな、何するんだお前! 奴隷が……奴隷が平民に手を出すのは犯罪なんだぞ!」


「平民が奴隷をいたぶるのは犯罪じゃないのだろうけど、僕はそれを許せない。今日は僕が君を裁く」


「さ、さばく……? お前頭がおかしくなっちまったんじゃねえのか!? お前ら、こいつをぶっ殺せ! 大丈夫だ! 奴隷を殺したところで犯罪にならねえ!」


「犯罪にならなければ何やってもいいわけじゃないんだよ」


 少年たちが一斉に僕に飛び掛かって来る。

 二人一緒にいた少女は、大人を呼びに行くのだろうか、この場を走り去っていく。


「この奴隷が!」


「平民様は偉いんだぞ!」


 子供のくせに腐った事ばかり口にする。

 子供はもっと子供らしく、可愛らしいことを言いなさいよ。


 僕は子供たちではなく、この子供たちを腐らせている世界に怒りを感じつつ反撃に出る。

 と言っても、世界にだけではなくヨワキムたちに怒りを覚えているのも間違いはないのだけれど。


 これまで好き勝手やられてきた痛みとリオラの怪我の分、等倍ぐらいで返してやる。


 人数はヨワキムを含めて七人。

 勝てない相手じゃない。


 【身体強化】が途切れないように身体の中のマナに集中しながら素早く動く。

 迫る少年の横っ面に拳を叩き込み、次の奴の腹に蹴りを入れてやる。

 それだけで二人は倒れ、泣き出してしまう。


 残りは四人。

 倒れた二人を見てたじろぐ四人に次々に攻撃を仕掛ける。


 頭突き、肘打ち、膝蹴り、そしてもう一度頭突き。

 それだけで全員怪我を負い、大泣きをする。


「お、おま、お前……なんでそんなに強いんだ……」


「君たちに仕返しをするためさ」


「く……だけど平民である俺が、奴隷のお前に負けるわけにはいかないんだよ!」


 どこまでも平民であることにプライドを持っているようだ。

 こいつも貴族相手にはヘコヘコするだろうに……

 だったら自分より立場の強い相手に対する弱者の気持ちは分るだろ。

 なのにヨワキムは自分より身分の低い僕に憤慨するばかり。


 結局人は、自分より弱い立場の人間を見つけて自分はそれよりマシだと安堵するのだろう。

 それが心の支えとなり、そしてその地位にしがみ付く。


 この世界の常識はやはり根っこから腐っているんだ。

 こんな世界は、誰かが正さないといけない。


「このっ!」


 平民としてのプライド、そして奴隷より強いはずだと自分の置かれた身分を信じているのか、ヨワキムは僕に再度殴りかかって来た。

 だが結果は同じ。


 【身体強化】を使用している僕に敵うわけがない。

 そして奇跡的に僕に勝てたとしても――僕には【召喚】があるんだ。

 奇跡を連続で起こさないと僕には勝てないぞ。

 

 迫るヨワキムの拳。

 僕はそれに合わせて同じように拳を突き出す。

 拳は交差し、ヨワキムの顔面に僕の拳が突き刺さる。


 衝撃。

 ヨワキムは自身の歯を数本その場に置き去りにし、また背後へと吹き飛んで行く。

 僕の拳により折れたヨワキムの歯は、重力に従い地面に落ちる。

 それはカラカラと音を立てて転がるはずであったが――その音をヨワキムの叫びがかき消してしまった。


「痛い痛い痛い! 痛いよぉ!!」


 ジタバタもがいて泣き叫ぶヨワキム。

 僕は彼を見下ろし、冷たく言い放つ。


「リオラの顔を腫らしたバツだ。そして傲慢な君へのバツでもあるんだよ」


「おいお前! 奴隷が平民に何してる!」


 少女たちが大人を呼んで来たらしく、僕の姿を見た男性が声を荒げて近づいて来ていた。


「言い訳なんて聞かないぞ! 奴隷が平民に手を出したら死刑なんだ! たとえそれが子供でも――」


「誰が奴隷ですか、誰が」


「……えっ?」


 僕が小指にはめてある指輪を男性に見せると、ヨワキムたちは素っ頓狂な声を上げて呆然と固まっていた。

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