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第12話 能力鑑定所

「ちょっと出かけて来るよ」


「レイン」


「どうしたの、ベルナデッド?」


 昼食を終え……食事と言うにはあまりにも質素なものであるが、しかしベルナデッドが愛情を込めて作ってくれた物を食した僕は家を出ようとした。


 そんな僕をベルナデッドが呼び止め、乱れた服を整えてくれる。


「たとえどんな身分であろうと、キチンとした方がいいわ。服装もだけど、人に対する態度もね」


「分かってるよ。じゃあ行ってきます」


 ベルナデッドに笑顔を向けながら玄関の扉を開く。

 彼女の向こう側にウェイブの真剣な表情があり、そちらの方にも僕は笑顔を浮かべておいた。


 心配することはないさ。

 僕は大丈夫。

 きっと大丈夫。

 目的は問題なく遂行できるはずだ。


 そう考えながらも僕は緊張した足取りで平民地区へと入って行く。

 ほどほどに舗装された道を、質の悪い平民を警戒しながら進む。


 物陰に隠れつつ、目的地へと向かう僕。

 こんな時にヨワキムと出逢いたくない。

 出逢うのは目的が終わってからだ。


 僕は祈るような気持ちで、焦りつつ慎重に先に進む。

 そしてとうとう目的地に到着する。


 周囲よりも大きな建物。

 清掃もよく行き届いており、清潔な印象を受ける。

 レンガ造りの三階建てで、赤い屋根。

 人の出入りはまだら。

 ここに用事がある人は少ないであろう。

 だがしかし、重要な施設でもある。


 ここは『能力鑑定所』よ呼ばれる施設で……平民が貴族になるために、能力を鑑定してもらい、そして新しい身分を頂戴する場所である。


 僕はゴクリと息を呑み込みながら『能力鑑定所』を見上げていた。

 もし上手く行かなかったらどうしよう……

 そんな不安を抱きつつ、だが自分を信じて足を前に出す。


 大きめの扉を開き、中へと入る僕。


「すみません……」


 中はまるで図書館のような雰囲気。

 真面目そうな平民が働いており、書物が沢山彼らの背後に並べられている。


「どういたしましたか……って、奴隷のガキかよ」


 カウンターから穏やかな表情を浮かべていた男性であったが……僕の服装と指輪の有無を確認して不機嫌な表情になる。


 どこに行っても似たような態度ばかりだな……


「で、奴隷がどんな用事だ。こんな所に用なんてないだろ」


「あの、鑑定をお願いしたいんですけど……」


「鑑定? 奴隷が?」


 ぶっと噴き出す男性。

 笑う気持ちはよく分かる。

 これまでそんなことを言う奴隷なんていなかっただろうしね。


 でも僕はどうしても能力を確認してもらいたかった。

 きっとそうすれば、僕に対する態度を改め、そして新しい道を開けるはずだから。


 だが目の前にいる男性は冷たいものであった。

 まるで氷の置物が置いてあるようにしか感じられかったのだ。


「帰れ」


「いや……どうしても鑑定してもらいたいんです」


「仕事増やすんじゃないよ……奴隷の鑑定何て意味ないし、面倒なんだよ」


「そこをなんとか……ここは例外なく、公平に人を扱うはずですよね?」


 それがここのルール。

 そのはずだ。

 そう僕は聞いている。


 すると男性はまた笑い出す。


「確かに公平に人を扱う。でも、奴隷が人かよ」


「え?」


「お前らは人以下の家畜なんだよ。だから公平に扱ってもらえるなんて希望を抱くんじゃない」


「な……僕だって……僕らだって人間ですよ!」


「いいや違う。豚だ。人様のために糧となる豚にしか過ぎないんだよ。そんな豚のために無駄な仕事なんてしたくない。だから帰れ」


「…………」


 悔しくて悔しくて、怒りと悲しみが同時に胸に襲い掛かる。

 相手を殴りつけたい衝動に駆られるが……彼を殴れば犯罪となり、即刻死刑。

 よくて片腕を斬り落とされるだろう。


 くそっ……悔しいのに何も言い返せないし、何も出来ない。

 

 僕は血がにじむほど拳を握り締めながら、踵を返す。


「お前……昨日の子供か」


「え?」


 まさに施設を出ようとしたその時であった。


 突然の声の方に振り向くと、そこには一人の男性がいた。

 彼は書物を手に持ち、無感情で僕を見下ろしている。

 その人は、先日あった貴族であった。

 草原で馬車に乗っていた人だ。


「え……貴方が何故ここに?」


「ここの所長を任命されたからな。で、何故お前がここにいる?」


「あの、鑑定をしてもらおうかと思いまして……」


「…………」


 男の人は肩眉をくいっと上げながら、僕を見る。


 無言。


 何も口にしないまま数秒が過ぎた。


「おい、こいつを鑑定してやれ」


「え? ですが……」


「規則であろう。ここでは人を公平に扱えとな」


「……かしこまりました」


 先ほど僕を追い返した男性は、僕を睨みつけながら仕事に取り掛かり始めた。


 まさかこんなことになるなんて……

 昨日助けた人が僕の助けになってくれるなんて……


 貴族の男性――所長は何事も無かったかのように階段を上がって行き、僕の前から姿を消してしまった。


 僕は彼が見えなくなるまで、彼の背中に頭を下げた。


『人の縁とは不思議な物です。あなたが正しい道を進めば、人の縁はあなたをこれからも助けてくれるでしょう』


 頭に響くアドの声。

 僕は彼女が言う『人の縁』に感謝しながら、笑顔で顔をあげた。

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