第9話 リオラの怪我
スライムと戦っていると、気が付けば夕方となっていた。
草原がオレンジ色に染まり、幻想的なその景色に僕はため息をつく。
ベビーナイトが強くなったのか、スライムとの戦いは徐々に楽になっていた。
僕は筋肉痛と疲労感に、なんとも言えない喜びを感じながら、【アドバイザー】に訊ねる。
「【アドバイザー】……って、いちいち長いな……これからアドって呼んでもいいかい?」
『了解しました』
「じゃあアド。僕とベビーナイトのステータスを表示してくれ」
レイン
召喚戦士
HP (F)4 MP(F) 2
STR(F) 3 VIT (F) 1
DEX (F) 1 AGI (F) 2
MAG(F) 1 RES(F) 1
INT(F) 5 LUC 20
スキル
アドバイザーⅠ 召喚Ⅰ
ベビーナイト
LV 3/20
HP 15 MP 3
STR 7 VIT 6
DEX 3 AGI 4
MAG 1 RES 1
INT 1 LUC 11
スキル
基礎剣術 1
僕はあまり成長していないことにガックリし、両手を地面につく。
分かってけど! 分かってたけど、あんまり伸びてない!
伸びなさ過ぎだろ、これ。
でも、【召喚戦士】の補正込みでこれなんだよな……
まだこれでマシなのか?
一気に心が折れそうになるが、僕はやると決めたのだ。
強くなりたい。
込み上げる絶望よりも、その意欲の方が勝っていた。
「ベビーナイトは順調に強くなってるな……とりあえず今日は帰るとしよう。あまり遅くなったらベルナデットが心配するしな」
僕は最後に倒したスライムの跡に手を伸ばす。
そこには小指の先ほどの石のような物がおちており、それを拾って腰に付けた袋に放り込む。
これは【魔石】と言って、モンスターの体内に内包されているものだ。
この程度のサイズじゃしれているけれど、でもそれでもほんの少しの金に監禁することができる。
ないよりマシ。
いや、家計の事を考えると大助かりだろう。
「おつかれ、ベビーナイト」
「ビー!」
ベビーナイトに向かって右手を突き出すと、ベビーナイトは光の泡となって消える。
僕は力を使い過ぎて震えていた手をギュッと握り、本日の戦果を噛みしめながら帰路についた。
◇◇◇◇◇◇◇
「おいリオラ……その顔どうしたんだ?」
「ヨワキムに殴られたんだよ」
リオラ。
緑色の髪に強気な青い瞳。
服装はボロボロの服で、僕と同じく七歳。
家に帰ると、そのリオラの左頬が腫れ上がった顔があった。
それを見た瞬間頭に血が上る。
自分が暴力を振るわれた以上に腹が立った。
リオラはここで僕たちと同じように暮らしているが……実は男のフリをした女なのだ。
以前は北の教会で住んでいたのだが、そこの暮らしに嫌気がさし逃げ出してきたらしい。
女だとバレると教会に連れ戻されるので、髪を短く切り、男としてここで生活しているというわけだ。
そんな彼女の……女に暴力を振るったヨワキムに対して怒りを覚える僕。
女だと知らなかったとしても女に手を出したことを許せない。
「大丈夫? 痛くないか?」
「大丈夫だって。これぐらいどうってことないよ」
「……いや、大丈夫じゃない! 今から明日まで横になってなさい!」
「大袈裟すぎ! 心配してくれるのは嬉しいけどさ、レインは騒ぎすぎなんだよ」
リオラは苦笑いをして言う。
「これは――奴隷として生まれた自分が悪いんだから」
「っ……」
リオラだけではない。
この地域に住む人たちは全員が人生を諦めているのだ。
そのことがとても寂しくて悲しくて……僕もそうだったけど、僕も同じ考えだったのだけれど、そんな言葉を聞いて胸が苦しくなる。
「その通りだ、レイン。俺たちにはどうしようもないんだ。それが奴隷としての俺たちの運命だ」
僕にそう言ったのはアルバート。
短く刈り込んだ黒髪に、気難しそうな顔をしている、彼もまた僕と同い年である。
「アルバートは真面目だな」
「レインだってずっと同じ考えだったろ? でも――」
アルバートは部屋にいるウェイブのことを見てクスリと笑う。
「ウェイブに影響でもされたか?」
「そうかも知れないな……うん。そうだと思う」
「リ、リオラ! どうしたんだよその顔は!?」
家に帰ってくるなり大騒ぎをする少年、エッジ。
赤い髪に可愛らしい顔立ち。
そんなエッジはリオラの腫れた顔を見て真っ青な表情をしていた。
彼は一言で言えば、そう、女好きなのだ。
女性を見れば鼻の下を伸ばし、女性の前では恰好をつける。
まだ七歳だというのに、もうそんなことに目覚めている……ちょっと困った男の子。
「ああ。ヨワキムにやられたんだ」
「ヨワキムだと……クソッ! そんなのどうすることもできないじゃないか! あいつが平民じゃなかったら、町中を引きずり回してそのままモンスターの餌にしてやるのに!」
「それはやりすぎだ! オレはちょっと怪我しただけだぞ。レインにしてもエッジにしても騒ぎ過ぎなんだよ!」
「騒いで何が悪いんだよ! 俺たちは兄弟だぞ! 皆ベルナデッドの子供なんだ!」
エッジの言葉に、その場にいる全員がうんと頷く。
もちろん僕も同じ気持ちだ。
女の子であるリオラが怪我をしたことだけではなく、兄弟である彼女を傷つけたことが許せない。
これまでだったらそれだけで終わりだった。
許せない。だけど仕方がない。
思考停止で我慢して終わり。
実際エッジの熱も徐々に冷めだしていた。
彼もまた分かっているのだ。
どれだけ腹を立てても同じだということを。
だが今の僕にはアドがいる。
【アドバイザー】のスキルがあるんだ。
僕は静かな怒りを胸に抱きつつ、小声でアドに訊ねる。
「アド。ヨワキムに仕返しがしたい。何かいい方法はないか?」
『あります』
「そうか……じゃあその方法を聞かせてくれ」
対処法があることに僕は小さくガッツポーズを取りながら、それを決行することを決意していた。
本日はここまでとなります。
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