プロローグ
本日プロローグ合わせて10話ほど投稿します。
よろしくおねがいします。
この美しい世界は、どうしようもないほど醜い地獄だと理解したのは、物心ついた瞬間だった。
『能力至上主義』。
これがこの世界、バルムルンでの常識である。
生後間もなく子供たちは、『潜在能力』を鑑定されるのだが――
この能力はS、A、B、C、D、E、Fの七段階に評価される。
鑑定されるステータスは、力、生命力、魔力、速さ、器用さ、知識の六つだ。
この中のステータスのうちに、一つでも高い潜在能力があればそれだけで人生勝ち組だと言われている。
S,A,Bの潜在能力を持つ者は貴族。
C,Dの能力を持つ者は平民。
そしてE,Fの能力しかない持たない者はそれ以下の――奴隷である。
例え貴族の生まれであろうとも、低い潜在能力しか持たない者は平民、または奴隷としての人生を歩むこととなり、逆に奴隷同士の子供であろうとも、高い潜在能力を持って生まれれば貴族に成り上がることも可能なのだ。
なんて馬鹿な世界。
なんてふざけた世界。
なんて理不尽な世界。
だけど、それがバルムルンの常識なのである。
俺は生前の記憶――現在の俺より以前の記憶があるのだが……
まぁなんというか、パッとしない、誇れることなど一つもない、堕落したくだらない人生だった。
何かを成し遂げたわけでもない、ただ生きていただけの人生。
仕事をして飯を食って少し遊んで……いつまでこんな生活が続くのだろう。
そんな風に考えながら漠然と毎日を過ごしていた。
だけどそんなある日、俺は事故に巻き込まれ前触れもなく突然その人生に終わりを告げる。
よそ見運転で俺に突っ込んできた自転車。
倒れている俺たちをタイミング悪く、トラックが跳ねてしまったのだ。
本当に何も無い人生だった。
次こそは華やかで輝かしい人生が送れますように……
そう願ったはずなのに、俺が生まれた世界は地獄。
人によっては天国なのかも知れないが、俺から見ればまさに地獄でしかなかった。
そう。
俺は鑑定の結果、全てにおいて低い能力値――奴隷としての人生が定められていたのだ。
現世の名はレイン。
雨の日に引き取られたからレインという名前らしい。
親から名前を付けられる間もなく、俺は捨てられたのだ。
生まれた時の記憶は一切なく、俺にあるのは最悪の記憶のみ。
この世の最底辺から、俺の記憶は始まった。