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「変身!」


「悪は絶体に許さない!」


 ドカ~~~ン!!



「はい!カ~~ット!!」





「お疲れ様でーす」


 俺の名前は赤城省吾。

 職業はヒーローだ。

 いや、すまない。正確にはヒーローの中の人だ。

 子供の頃から戦隊ヒーローが好きで運動も得意だった俺は、気付けばスーツアクターになっていた。

 しばらくは戦闘員なんかでくすぶっていたが、数年後に初めてレッドに選ばれた時は嬉しかった。

 それから10年。


「はあぁ~~……」


「どうしたの?

深い溜め息なんて吐いて」


「マネージャー……

いや、年々アクションがしんどくなってきましてね。

もう首肩腰が悲鳴を上げてますよ」


 俺は右手で首を、左手で腰を抑える。

 おまけに給料も低いし、とはさすがに言えない。

 俺も大人になったからな。


「頼むわよ~。

うちの事務所でヒーロー戦隊の中身をやってるのはあなただけなんだから。

戦隊と他とじゃ、ギャラが段違いなのよ!」


 こういう生々しい話を最初に聞かされた時は夢を壊された気分だったな。

 でもそれも、今となっては慣れっこだ。


「分かってますよ。

無理せず、無理します」


 俺はそう言って、はははと力なく笑ってみせた。








「えっ?

こ、こっからですか?」


「そう!

この崖からスパーッ!と駆け降りて、下で苦戦してる仲間を助けに行くシーンを撮りたいんだ!」


 また始まった。

 この監督は毎回、どこかで無茶な要求をしてくる。

 この前なんか、火の手の上がる車を運転して、爆発する前に敵の元に到着して、車から転がり降りろとか言われたし。

 それはもう、それ系専門のスタントマンの仕事なんだよ。


「あの、監督?

そういうのって、今はCGとかで処理したりするんじゃあ」


 そう。

 もはや戦隊ヒーローモノの戦闘シーンは、そのほとんどがグリーンバックでの撮影だ。

 なんなら、戦闘員とのお決まりの肉弾戦以外はほぼ全てと言ってもいいぐらいだ。

 中にはそれさえCGで、最初から最後まで、スタジオで5人の仲間だけで剣を振り回してるなんてこともある。


「だからこそだよ!

やっぱりあんなのに頼ってるようじゃ、リアリティは生まれない!

生の表情があってこそ、生まれる感動があるんだよ!」


 いや、俺レッドの仮面被ってるから表情ないんだけど……








 いや、無理だろ!


 結局、いつもよりギャラを弾むからと言われ、マネージャーが目の色を変えたことで、俺はめでたく崖の上に立っている。

 しかし高い。

 20メートルはあるんじゃないか?

 マンションの7階分ぐらいか。

 え?これ、俺ほんとに駆け降りるの?


「ほら~、さっさと命綱つけて~。

天気が良いから、今のうちにさくっと撮っちゃうよ~!」


「……命綱は見えちゃってもいいんですか?」


「そんなのCGでちょちょいのちょいよ~。

赤城くん、そんなことも知らないの~」


 ……あ、そうっすか。


 ドン!


「いてっ!」


「あ~すんませ~ん」


 こいつは、たしか新人のADか。

 ぼ~っとしやがって。

 危ないだろ!


「ほら~!しんじーん!

さっさと準備する~」


「は~い」


 大丈夫か、こいつ。

 俺はだいぶ不安感を募らせながらも、撮影が始まった。





「よ~い、スタート!」




「はぁはぁ、みんなはこの下かっ!」


 ちなみに俺はスーツアクターとして演じているから、本来ならセリフはいらない。

 しかし、この方が良い演技ができるからと、セリフをしゃべらせてもらっている。


「みんなっ!

いま助けに行くからなっ!」


 俺は覚悟を決めた。


「とうっ!」


 そして、俺は勢いよく崖から飛び降りた。

 その刹那、


「あ~、まだ命綱結び終わってないっすよ~」


 あの新人の声がスローモーションで聞こえた。


「……はい?」


 そして俺は、命綱のない素の状態で崖から落ちていった。



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