8.討伐参加
翌日、俺とエルは難なく、討伐に参加する冒険者を決定するための選抜に合格した。
エルいわく、剣士の受験者は400人ほどいたが、合格者はエル含めて20人らしいから、倍率はなんと20倍。
一昨日のオーク討伐の影響で、専守防衛の引き付け役というイメージしかないから、エルが対人だとこんなに強いとは意外だ。
いや、気絶さえしなければ引き付け役としては優秀だったんだけどね。
――なんてエルと話していると、偉そうな人が討伐について説明し始めた。
「今回の討伐対象は、南のエラニア森林地帯で発生しているキラーエイプだ。
ただし、討伐は必ずパーティで行うものとする。誰と組んでも構わないが、必ず3人以上のパーティを組むように」
3人以上でパーティを組め、か。
俺のパーティのメンバーは俺とエルで2人はいるが、あと1人はどうしよう?
今回は報酬の支払いが個人ごとだから、メンバー加入による報酬の取り分減少を気にする必要はない。
しかし、討伐に参加する冒険者たちは見ず知らずの者ばかり。中には不届きな輩もいないとは限らない。
パーティメンバーとは2週間ずっと寝食を共にするわけだし、正直言って赤の他人をパーティに加えたくはない。
雇用主が3人以上のパーティを要求している以上そうもいかないんだけど。
「エルは、どんな奴をパーティに加えたらいいと思う」
いくら不逞な輩は罰せられるとは言え、困窮している冒険者にとってそんなことは二の次。
他の冒険者の所持品を盗むのはまだ良い方で、パーティメンバーを皆殺しにして身ぐるみを剥ぎ、手柄も独り占めする輩すらいるらしい。最も、さすがにそんなことしようものなら、発覚した瞬間に処刑されるらしいけど。
「そうねえ……火力はフレイだけで十分そうだから、ジョブより信用重視の方がいいわね」
「だけど、信用できる人間の見分け方なんてあるのか」
「顔だけで見分けるのは厳しいわね。だから、身なりや仕草にも注目するの。
小型の刃物を隠せそうなポケットはないかとか、やたら周りを気にしていないか、とかね。
あとは装備が傷んでいないか、とかも」
なるほど。
「傷んだ装備をそのままにしている冒険者は、お金に困っている可能性が高いわ。
戦士系ジョブの冒険者にとって、装備は命を預ける物なの。
冒険者は装備を真っ先に修理するものよ」
「そうか、参考になるな」
刃物を隠し持ってそうな冒険者は危ない。
やたら周りを気にするのは犯罪者の性。
金のない冒険者は非行に走る可能性が高い。
エルの教えてくれた見分け方は、どれもごもっともだ。
俺はエルの話を頭の片隅に入れ、周囲の冒険者達をまじまじと見た。
うん。誰が良いのかわからん。そもそも、武器の状態についてとか俺は知らんし。
てわけで、エルにパーティメンバーを見つけてもらおう。と、したのだが……
「あ、スライム姫だ!」
パーティを組まないかと話しかけようとしたエルを見て、冒険者の一人が叫んだ。
エルの知名度、恐るべし。徒歩1日もの距離があるエランにまで、エルの存在は知れ渡っているのかよ!
――と思ったらコイツ、何回かギルドで見たことある奴じゃん。
確かギルドに数人しかいない、とってもお強い中級冒険者様だったっけか。
掲示板前で偉そうにふんぞり返り、俺がギルドの顔役だ!って態度を取ってた奴だよな。
で、たしか俺たちがオークを狩ったって聞いてえらく悔しがってたような。
まあ彼が何を思おうがどうでもいい。
だがどうでもよくないことに、彼に呼応し、周囲が騒然とし始めた。
さすがにギルドの顔役ヅラしてるだけあって、彼は顔が広いようだ。
「スライム姫? なんそれ」
「なんだオンム、知らないのか。
対人は無駄に強いくせに魔物を見ると倒れる、伝説の姫だぜ」
「何言ってんだ。そんな奴が討伐に参加しててたまるかよ。
冗談キツイぜ」
「それが本当なんだよ。前のパーティを1日で追い出されてから、まともにクエスト受けずにいたんだけどよ」
エルがたった1日でパーティを追放されたって。そりゃ初耳。
だけどまあ、食うや食わずの冒険者社会ではそれが普通なんだろう。
「嘘だろ? そんな奴がなんでここに来てるんだよ」
「ところがどっこい、姫が突然パーティに入ったんだぜ。
で、どうやったか知らんが、一昨日なんかオークを倒したんだぜ」
「ろくにクエストも受けてない奴が、いきなりオークだと。一体どんな奴と組んだってんだよ」
「相手は最近俺のギルドに現れたフレイて奴だぜ。そいつ、かなりヒョロいけど、魔力がギルドで2番目なんだとよ」
「うわ、ヤバッ! そんなのと組んだら俺ら、獲物全部持ってかれるじゃん。聞いといて助かったぜ」
俺と組んだら、手柄を持っていかれる?
ああ、そうか。
俺は遠距離攻撃持ちだから、近接戦闘を行う剣士よりも攻撃が早い。
そんな俺が一撃必殺の高火力を持っているとなれば、剣士が攻撃する前に獲物はすべて消し炭だ。
そうなれば、俺と組んだ剣士はろくに獲物を狩れない。
しかし、この流れはまずい。
誰も俺たちと組もうとする人がいなくなれば、3人パーティが組めないじゃないか!
いや、俺たちと組んでくれそうな冒険者が、1人だけいた。
そう、選抜会場で見かけた、白魔導士の少女である。
パーティにおける回復役には手柄という概念はないから、もしかしたら俺たちと組んでくれるのではないだろうか。
少女に話しかけると日本では不審者呼ばわりされるか、良くてロリコン扱いだから心理的なハードルは高い。だがここは異世界だと俺は意を決し、冒険者の輪に混じっている彼女に話しかけた。
「すまん、そこの君。たしか、君は選抜で回復魔法を使ってた人だよな」
「そうだけど。ボクに何か用?」
「君は、俺のパーティに入る気はないか」
「入ってもいいけど」
「なら入ってくれると助かるのだが」
「わかった。じゃあボク、パーティに入るよ」
――リアル・ボクっ娘かあ。
おまけに髪はエメラルドグリーン、顔立ちもGOOD!
もし中学の友達の多部がこの場にいたら、完璧なボクっ娘に会えた!!とか感激して、ここは天国だ~~!!とか言いながら号泣するに違いない。
おっといかんいかん、こんなことを考えてると、俺までロリコン・アニヲタ・ゲーヲタという、多部同様の救いようのない変態紳士になってしまう。
以後気を付けねば。
ともかく、ボクっ娘ヒーラーが二つ返事でパーティに入ってくれて助かった。
入ってもらえなかったら、学級活動の班分けの時みたいな面倒なことに……
いや何でもない。何でもないから!
基本学校では浮いてた俺だって、友達ぐらい居るんだから。ほら、さっきの多部とか。
え、高校の友達はって? そりゃ奥さん、受験勉強に打ち込んでたんだからいるわけないでしょ、そんなん!
「ところで君の名前は何ていうんだ」
「ボクはエニネア。ネアでいいよ」
「そうか、ネアか。俺はフレイだ。これからは、よろしく頼む」
だが俺たちは知らなかった。
理想のボクっ娘、じゃなくてネアのとある秘密を……
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