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【完結】ケチ高校生の異世界転生  作者: けちにーと
1章 初クエスト~ギルド追放
4/29

4.初クエスト

「おい、そこの新顔。お前、噂の新入りだろ!!

 俺らと組まねえか?」


 クエスト掲示板の前にやって来た俺は、数分と経たないうちに、アイアンの四角い札を付けた男4人に声を掛けられた。札と装備から見て、4人とも初級の剣士であることは間違いない。


「俺って噂になってるのか?」

「なんだ、知らないのか。先週来た新米冒険者がギルドナンバー2の魔力だったって、有名になってるぜ」

「そうなのか」


 噂については、実害がない限りは問題ないとして、問題はこいつらとパーティを組んだらどれだけ稼げるかだ。


「どのクエストを受けるつもりなんだ?」

「俺らは明日、南の草原のホーンラビット狩りの依頼を受けるつもりだ」


 ホーンラビットは、先刻まで俺の同僚だったドブさらいの冒険者によれば、額に角が生えた大型のウサギらしい。木の棒で一撃殴れば倒せるほど脆いが、角のおかげで攻撃力は高く、かつ素早いとか。


「ホーンラビット? ウサギならお前ら4人で十分じゃないのか」

「やつら素早いから、逃したラビットを狩るために遠距離攻撃が使える仲間が欲しい。

 報酬は160G山分けだ」


 報酬160G。ドブさらいの10倍か。

 しかし、俺を含めた5人で山分けすると、1人わずか32G=3200円だ。

 命を危険にさらす仕事な上、クエスト失敗のリスクもあるのに、報酬がドブさらいのたった2倍なんて割に合わなくないか?

 元同僚の冒険者連中が口々に、クエストに比べたらドブの方がマシだと言うのも頷ける。


「あの、もう少し報酬の高いクエストはないのか」

「これ以上のクエストなんていくらでもあるが、俺らには無理だな。このラビット狩りですら、ギリなんだぜ」


 3200円でもギリなんて。初級冒険者というのは厳しいんだな。


「で、どうする」

「少し考えさせてくれ」


 人は、金のこととなると、途端にその本性を現す。そのことは、前世でさんざん学習した。

 彼らとて、本当に善意で俺に近づいてきているとは断定できない。嘘をついているようには見えなかったが、報酬をごまかしている可能性だってないとはいえないのだ。


 そこで俺は、クエスト掲示板でホーンラビットの討伐依頼を確認した。

 結果、報酬額は正しかったので、俺は彼らと組むことにした。




********




「おうフレ、今日はよろしくな!」

「こちらこそよろしく頼む」


 翌朝。

 俺たちは、朝日が昇ると同時に街を発ち、南の草原に向かった。

 俺が参加することになったパーティのリーダー・ヨーグは、昨日の今日なのに、出会って間もない俺をいつのまにやらフレ呼ばわりしている。

 随分と人懐っこい人だ。


「ホーンラビットは、普段は魔物化してないウサギ同様に大人しいが、相手が敵意を見せると突進してくる。

 できる限りそっと近づき、剣の間合いに入るまで決して斬るな。フレは草むらに隠れて、俺らが逃がしたラビットを倒してくれ」

「わかった。でもなんで、普段大人しいホーンラビットを狩る必要があるんだ?」

「奴ら、他のウサギと違って食欲旺盛でな。

 この時期になると繁殖期に備えて畑の野菜を食い荒らすんだ。奴らは急いで狩り尽くさないと、あっという間に畑を更地にされてしまうんだ」

「なるほど」

「ま、依頼主が農家だから報酬は高くないんだけどな。

 それでも、俺ら初級にとってはありがたい。緊急性が高い分、他のクエストよりは報酬が良いからな」


 ヨーグは何も知らない俺に、クエストについて丁寧に説明してくれる。

 昨日、疑心暗鬼になってあれこれ詮索していたのがなんか申し訳ない。


「そろそろ奴らの発生地帯だ。気を引き締めていけ。

 奴らは鈍感だが素早いから、気づかれたら厄介だ。いいか、見つけたら小声で報告するんだぞ。

 いいか、絶対に大声出すなよ!!」

「リーダー、一番気を付けるべきはお前だろ」

「ガハハ、ドラは手厳しいな!!」

「だから声でかいってんだよ」


 その時ヨーグの仲間の1人が、前方の畑にラビットを3匹発見した。


「リーダー、あそこに3匹いるぜ」

「農家の人が活動しているこの時間に、堂々と畑を食い荒らしてるのは間違いない。

 奴だ。

 よし、慎重に近づくぞ」

「リーダーこそ、気を付けろっての」


 俺たちは、足音を殺してじりじりと近づく。

 でも、音を立てなかったとしても、さすがに人が目の前で近づいてきていたら気づくんじゃ。ヨーグに小声で質問してみる。


「ヨーグさんよ、本当にこれで気づかれずに近づけるのか」

「ああ、今の時期の奴らには、食い物以外は見えてないからな。大きな音を出さない限りは、まず気づかれはしねえよ」


 本当に大丈夫なんだろうな。ヨーグたちの重い剣と鎧が、ガチャガチャと盛大に鳴ってますけど。

 まあ鎧の音はどうしようもないか。



「今だ!!」


 ラビットの背後に迫ったヨーグの仲間3人が同時に、ラビットに素早く打撃を加えた。

 すると、次の瞬間、あっけなく3匹のラビットの背中が青く染まった。マジかよ。本当に攻撃されるまで気づかないのかよ。

 てか、こんな雑魚相手ならわざわざ5人パーティで来る必要なかったんじゃ。



「よし、まず3匹。よし、このまま次行くぞ、次」

「随分弱いな。このクエスト、本当に5人パーティで来る必要あったのか?」

「弱いのは防御だけさ。あいつらの突撃は半端ない威力だ。ヒットすれば中級冒険者ですらただじゃすまない。

 俺らが食らったら一発で戦闘不能だな」

「ほう」

「おまけに素早いから、奴らに戦闘態勢に入られたら、囲い込まないことには攻撃を当てることすらままならねえ。だから大人数で来る必要があるんだ」



 その後、一行はラビットの角だけもぎ取ると、そのまま行軍を再開した。しかし、何か違和感がある。

 ――そうだ、ゲームやアニメで魔物討伐といえば、撃破後に死骸から素材や食材を採取するのがセットだったよな。なんでヨーグたちはラビットの死骸に見向きもしないんだ?


「ヨーグ、ラビットの死骸は放っておいてよかったのか?

 毛皮とか肉とか取れるんじゃ」

「今回収したところで、持っていったら邪魔だ。手が塞がっても問題ない帰り際まで、放置だ」


 考えてみれば、確かに邪魔だ。

 ホーンラビットは見た目こそウサギと同じだが、普通のウサギに比べてかなりでかい。人間の3歳児ぐらいの大きさがある。こんなのから素材を剥ぎ取って持ち歩いてたら、戦闘時に邪魔になるだろう。


「でもその間に他の人に回収されちゃうんじゃ」

「多分討伐を終えるころにはここらの農家に回収されてるだろうな。

 だが、クエストは時間との闘いだ。報酬をもらうには、今日中にラビットを30匹狩らなきゃなんねえ。

 俺らには、ラビットからチマチマ素材を回収している時間はないんだ」

「そんなに時間がかかるのか」

「血抜きから内臓の処分までするとなると、20分ぐらいは見ないといけないな」


 そうか。ここは、ゲームの世界ではない。素材回収には、相応の時間がかかるわけだ。

 それにしても、1匹20分か。クエストの規定数である30匹全部から、素材を回収するとなると、5人で分担しても2~3時間持ってかれる計算だ。

 そうなると、タイムリミットのあるクエスト中は、どうしても素材採取を諦めざるを得ないだろう。



「向こうにいるぞ。2匹だ」

「さっき3匹倒したばかりというのに、もう次が見つかったのか。

 今日は調子がいいな。この調子でとっとと終わらせちまおうぜ!!」

「リーダー、調子に乗りすぎて気づかれないようにしろよ。リーダーはすぐ調子乗るんだから」

「んなことわかってるさ!!」


 ヨーグたちは、さっきと同じ具合に忍び寄り、ラビット2匹を一撃で仕留めた。

 ラビットらはさっきと同様、あっけないほど早く息絶えた。この調子だと、俺の出番はないんじゃないか?



 ――しかし、俺のそんな心配は杞憂に終わった。

 クエストも後半に差し掛かった、昼頃。


「リーダー、ヤバいですぜ。向こうに7匹いる」

「な、7匹だと?

 弱ったな……フレを入れても俺らが奇襲して同時に倒せるのは5匹。

 1匹なら対処できるが、同時に2匹残るとな」

「リーダー、諦めるんすか」

「うむ、戦力不足ではやむを得んな」

「でもリーダー、あれを倒せばクエストの成功率は一気に上がりまっせ。クエスト規定の30匹のうち、7匹でっせ」

「リーダー、ここはやるしかないっスよ。今日のクエスト失敗したら俺たち食いっぱぐれるっス」

「うん……よし、行くか!!」


 どうやらヨーグらの考えはまとまったようである。

 多少のリスクを冒してでも、ラビット集団に挑むようだ。


「フレ、お前は俺らが仕掛けた時にまずファイアボールで一匹仕留めろ。で、奴らが戦闘態勢になったら、俺らが引き付けるからもう一匹仕留めてくれ。いいな」

「了解」

「よし、3,2,1で一斉にかかるぞ。

 いいか、しくじるなよ?

 ラビット3匹相手とかマジで死ぬぞ!

 しくじるなよ! 絶対、しくじるなよ! 絶対ッ!」


 って、ヨーグさん、それはいかんでしょ。ダメ押しの繰り返しは死亡フラグ、日本ではこれ常識ね。まあここ、異世界だけど。


「いくぞ。さん、にい、いち……」


「とぉりゃあああああっ」「ファイアボール!!!!」「えいっ」「はっ」「ああああああっっッ!!!!!!」


 勇ましい声に混じって、情けない声が聞こえる。どうやら1人やらかしたな。



「や、やべえ。やりやがったな。

 ぶっ壊れ攻撃性能のラビット3匹相手は無理だ。

 に、逃げるぞ!!!!」


 さっきの勇ましさはどこへやら、ヨーグら4人はすかさずバラバラの方向へ一目散に逃げだした。

 さすが底辺……おっと失礼、さすが初級冒険者。逃げの判断の早さは一流だ。

 あっという間に遠くへと消えてしまった。



 ――って、俺も逃げねえと。

 むしろ俺の方が、鎧を着てない分あいつらより脆いんだから!

 って……あ、これ……手遅れなやつだ…………


 ラビットたちは、脱兎の如き逃げ足を披露したヨーグらではなく、逃げ遅れた俺をターゲットに設定したようだ。

 3匹束になり、俺に向かって猛ダッシュで突進してくる。

 スピードはチーター並みとはいわないが、馬ぐらいには速いんじゃないか?

 俺の鈍足では、到底逃げられそうにない。もはや、これまでか?


 いや、まだだ。

 最大の防御策、それは攻撃なのである。

 敵の攻撃が自身に届く前に、敵の息の根を止めてしまえば何の問題もない。


「食らえ、ファイアボール!!」


 シュボッ!!


 一瞬にして、勇ましいラビット3匹は、あっけなく焼きウサギになってしまった。

 ラビットがファイアボールをかわそうとしなかったところを見るに、どうやら突進中のラビットは、攻撃をかわす余裕がないようだ。

 だとするとこのクエスト、ヨーグたちがいなくても、俺一人で向かってくるラビットにファイアボール連打するだけで、クリアできるんじゃ?


 それにしても、全身真っ黒に焦げちゃって、なかなか良い焼け具合。我ながら上出来だ。

 まあ、こちとらラビット肉を持ち帰る余裕はないから、近所の農民が美味しくお召し上がりになるんでしょうけど。


 ――ところで、ヨーグたちはどこへ行ったのだろう?

 今の段階での討伐数は26匹。こんな感じでラビットを倒せるなら、あいつら抜きでもあと4匹ぐらい問題なく狩れそうだ。

 でも問題はそこじゃない。

 あいつらがいないと、報酬受け取れないんだよ!



****



 散り散りになって隠れていたヨーグらを全員回収したのは、あれから体感で2,3時間ほど経ってからのことだった。

 ったく!! 勝手に逃げるのみならず、変なところに隠れやがって!!

 土に埋まったり、全身に蔦を絡ませて蔦人間になったりするか、普通!!

 しかも俺やヨーグ(すぐ見つかった)が呼んでも、俺らがラビットに追われて助けを求めているものと思い込んで、返事しないどころか微動だにしないし。

 真っ先に死んだフリしていたヨーグを見つけてなかったら、今日中にメンバー全員回収できてなかったぞ!!


 それにしても、メンバー回収中にヨーグが語ってくれた、数々の修羅場を潜り抜けたときの身の隠し方は面白かった。この面白さに免じて、パーティメンバー共にブチ切れるのは勘弁してやろうではないか。

 ……いや、本音を言うと剣士4人とケンカしたら、無事でいられる保証はないので大目に見ただけです、ハイ。クエストの時間内に全員見つからなかったら、ドブの日給2日分がパー、と心配し続けていたので、精神的疲労が半端ない。いつか強くなったら慰謝料を請求するので、覚悟の準備をしておいて下さいね?



****



「お疲れさまでした。クエスト達成です。こちら、報酬になります」


 パーティ合流からまもなく、俺らはクエストを無事達成し、ギルドで報酬を受け取った。

 報酬は約束通り5人で山分けとなったが、納得できない。

 ヨーグら4人の倒したラビットは合計21匹。

 対して、俺が倒したラビットは、パーティメンバー回収中に倒した分も合わせて9匹。

 俺以外のメンバーが倒したのは一人当たり約5匹なのに、その倍近くの数倒した俺と報酬は変わらないのだ。

 しかも勝手に逃げたし。

 そのうえ回収に骨を折らされたし!!


 明日からは、他パーティに参加するんじゃなくて一人で行こう。

 絶対一人で行こう。うん、絶対に。

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