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3.一週間後

 その後の1週間、俺はドブさらいを終えた後、夕食を取ってから魔法の練習をし、眠気が限界に達したら不法侵入した人ん家のくっさい馬小屋で寝る、という生活を送った。

 なかなかのハードスケジュールだが、こんなの、受験の追い込みに比べれば生ぬるい。……と最初は思っていたが、思った以上に体力を消耗し、なかなかに疲れた。水吸ってるとはいえ、泥って重すぎだろ!

 いやそれ以前に、泥は糞尿混じりで、とてつもなくク・サ・イ! 臭すぎる!!


 そして夕食はいつも、

 『口に入れれば、もれなくウ〇コに変換されるだけの食べ物なんかに、金を掛けることはない。食費は最小限に!』

 という完璧な節約理論に基づき、塩でもんだキャベツだ。俺が調査した限りでは、これのコスパが最も高い。



 それにしても、キャベツがこの世界に存在するという事実には驚いた。

 俺はてっきり、ここは異世界なのだから、食べ物も地球ではお目にかかれないような奇抜な動植物ばかりだろうと思っていた。


 しかし、この世界の生態系は地球に近く、キャベツのみならず人参やカブといった見慣れた野菜や、米や麦、さらに豚や牛の肉まであった。

 ただ地球と決定的に異なるのは、魔物由来の食材が売られていることだ。



 他にも驚かされたことはある。

 塩の値段が、日本に比べて滅茶苦茶高いということだ。

 塩1キロが、なんと10G=1000円相当もする。


 1キロ4Gで売られていた米より高いじゃん!どゆこと?と突っ込みたくなるが、どうやら塩には税が掛けられているようだ。

 世界史でも塩は専売制で税が課されていたと習った気がするし、代替が効かない塩から国が税収を得ようとするのは納得だ。


 とはいっても、さすがに塩分を取らずにいると倒れそうだから、仕方なく1キロ買った。

 言うまでもなく、俺が今まで使った塩の中で一番高額だ。




 さて、ここ1週間で何よりも重要なのは、火の魔法であるファイアボールの練習を続けた結果、1発で木をなぎ倒す程度にまで上達したということだ。


 さすがに、世界の上位0.1%に位置するレベルの魔力というだけある。

 転生初日には線香ぐらいの火力しか出せなかったが、わずか1週間でここまで威力が上がったのだ。この状態で日本に帰ったら、バケモノ扱い間違いなしだろう。我ながら惚れ惚れする。


 でも何よりうれしいのは、そろそろ討伐クエストが受けられそうだという事実。

 これでもう、臭い・クソ賃金・クタクタの3K労働の、忌まわしきドブさらいとはおさらばだ!



 というわけで、転生してから8日目の夕方、俺はギルドの受付嬢に討伐クエストを受けられるか訊ねた。


「そうですね……そろそろ、初級のクエストを受けてもいいでしょう」


 そうか、それは良かった。忌まわしきドブよ、さようなら。永遠に。


「ところで、カネウ様は冒険者名は決まっていますか?」

「冒険者名?」

「はい。冒険者様の身元が割れて危険が及ぶことのないよう、当ギルドではクエスト受注の際に冒険者名を使っていただいています。クエストを通じて、有力者間の対立などに巻き込まれる場合もありますので」

「なるほど」

「まあ、そういった重要な依頼は滅多にないですし、冒険者同士では本名を使うことが多いですけどね。で、カネウさんはどんな名前にします?」

「うーん」


 冒険者名、か。元来ネーミングセンス皆無の俺に、人前で名乗っても恥をかかない名を、即興で考えろと?


「名前にお悩みなら、カネウ様の信念や目標を冒険者名にしてみてはどうでしょう?

 そうされる方が多いですよ」


 なるほど。信念や願望か。

 俺の目標は、前世の失敗を繰り返さず、理想の勝ち組人生を手にすること。その為には、徹底的に倹約し、貯金せねば。


 となれば、『ケンヤク』とでも名乗るか? いや、それはダサすぎる。野菜か薬草の名前にしか聞こえんわ。

 なら、英語にしてみたらどうだろう。倹約、って英語でなんて言うんだっけ。


 そうだ、たしか"fragul"だっけ。読みは『フレイガル』か?

 間違ってるかもしれないが、異世界で英語の誤りを指摘される事なんてないだろうから、まあいいや。


 フレイガル。

 いや、フレイガルって少しダサイような。ならば、ここは……


「決めた。冒険者名はフレイにする」

「フレイ、ですね。では、こちらにご記入ください」

「わかった」

「ありがとうございます」

「じゃあさっそくクエストを……」

「そう言いたいところですが、フレイガル様は討伐クエストは初めてですよね。

 ですので、自らパーティを組んでクエストに挑む前に、まずは他のパーティに参加して、討伐に慣れたほうがいいと思いますよ」

「たしかにそうだな」

「クエスト掲示板の辺りには、パーティメンバーを探している人も多いですから、あのあたりで待っていれば声を掛けられますよ」

「どうも。では、行ってみる」


 ついに、初めての魔物討伐。その行方はいかに……

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