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2.転生

 ここは、木造の建物とレンガ造りの建物が入り混じって並ぶ異世界の街・マルス(らしい)。


 どうやら俺は死んだらしく、いつの間にやら自称“神”とやらと面会し、異世界転生することになった()()()のだ。

 俺は転生する際に、お約束の転生特典として、異言語理解の能力と、この世界の上位0.1%に相当する魔力を貰った。そして服装については、生地の丈夫さと定価の高さを理由に、学ランをチョイスした。


 と、薄っすら記憶している。実を言うと、自称“神”との対話が夢なのか現実なのかは、定かではない。


 しかし、俺が未知の世界に足を踏み入れたというのは、確固たる事実だ。

 黒い学ランに身を包んだ俺は今、異世界の街中に立っている。




 しかし、棒立ちになっていては何も始まらない。

 “神”いわく、この世界の文明は中世レベル。

 中世のどの時代?という突っ込みは置いといて、中世にはセーフティーネットなんてものはないから、このまま何もしなければ野垂れ死ぬだけだろう。


 では、今真っ先に必要な物は?

 ――とりあえず、何をするにもまずは金だ。金がなければ、食べ物を買うことすらできない。というか、金の大切さは前世で嫌というほど学んだではないか。


 つまり、俺が今すべきなのは――つまるところ、仕事探しだ。


 そうと決まれば、仕事を探しに行こう。

 “神”によれば、この世界で最も稼げる職業は、魔物や、場合によっては人間と戦う冒険者とのこと。

 いかにも異世界の定番といった感じではあるが、いざ、冒険者ギルドへ。





 街の人に教わった通りに道を行くと、ほどなくして冒険者ギルドに到着した。

 ギルドはレンガ造りの3階建て。ギルドはこの街で一番立派な建物だというから、冒険者稼業はさぞかし儲かるのだろう。これは実入りに期待できそうだ。


 大勢の冒険者で賑わうギルドに入るとすぐに、建物奥のカウンターが目に入った。

 『受付』という札が下がってるから、あそこで仕事の紹介を受けられるのだろう。まずはあそこで話を聞いてみよう。


「すまん、仕事の紹介をお願いしたい」

「えっと……新規の冒険者様ですか」


 受付嬢の一人の、ほっそりとした美人が、ニッコリと応対した。このギルドの看板娘なのだろうか?

 それにしても、受付嬢は美人ばかり。顔で受付嬢を選ぶなんて、さすがは中世。……いや、それは現代でも普通にやってるか。


「そうだ。ギルドは初めてだ」

「お仕事の紹介に当たっては、ギルドメンバー登録が必要ですがよろしいでしょうか」

「ああ、構わん」

「最初に、お名前をお聞かせ願えますか」

「俺は、金得かねう つとむだ」

「承知しました。カネウ様ですね。

 では、こちらにお越しください」



 俺は、受付嬢に案内されるままに2階に上がった。


「ではまず、能力測定を行います。

 測定結果は、冒険者ランク決定や、お仕事の適性判断に使われます」

「ああ、わかった」

「能力測定とは、冒険者様方の身体能力ステータスを数値化するものです。

 まず最初に、こちらのサンドバッグを殴っていただきます」


 ステータスの測定方法って、意外と単純なのね。

 “神”からは剣と魔法のファンタジー世界と聞いてたから、てっきり能力を数値化できる水晶かなんかに手をかざすのかと思っていた。


 サンドバッグなんて殴ったことはないけど、とにかく殴ってみよう。


 ボカッ!


 ……あれ? このサンドバッグ、随分重くないか? 殴った時、ピクリとしか動かなかったぞ? まあ、サンドバッグ自体触ったことないから、重いのかどうかは分からないけど。


「ありがとうございます。

 えーと……このパンチの強度だと、攻撃力は13といったところですね」


 攻撃力13って、某国民的RPGならレベル1のステータスだな。

 まあ、転生したてだから、そんなもんか?


「ちなみに、普通の冒険者の攻撃力ってどれぐらいだ?」

「当ギルドですと、だいたい100ぐらいですね……」


 ナンダッテ。 俺の攻撃力、低すぎ!?

 いや、それにしたって、冒険者平均の8分の1しかないのかよ!


 いくら「受験に関係ないから~」といって運動してこなかった俺とはいえ、あまりに非力過ぎないか?

 でも、本命は転生特典の付いてる魔力だ。こっちに期待しよう!


「まあ、気を落とさないでください。

 では次に、魔力の測定を行います。

 こちらに座ってください」

「承知した」

「こちらは魔力計です。この横についている目盛りが、あなたの魔力を示します。

 簡単に言えば、魔力を測れる温度計のようなものです」

「なるほど……そんな便利な物があるのか」

「では、魔力計の下の、こちらの銀色の部分をしばらく握っていてください」

「わかった」


 魔力計の見た目は、まるで水銀式体温計の巨大バージョンのようだ。

 小学校の頃に、快適な保健室でサボるために手で体温計を温めた時のような、一種の背徳感がある……が、魔力計の数値はみるみる上がっていく。これは期待できるか!?


「はい。離していいですよ」

「どうだ?」

「素晴らしいですよ。331です。

 このギルドでしたら、ナンバー2ですよ」

「ナンバー2か……」


 このギルドには俺より魔力が高い人が1人いるってことか。

 まあ所詮は上位0.1%だもんなあ。

 この国の人口が仮に1000万人だとしても、俺より強い奴が1万人もいることになる。ギルドに俺より強い奴がいても当然か。


「あ、そうでした。

 大切なことをお尋ねしていませんでした。

 あなたが今使える魔法は何ですか?」


 ――え? 魔法の使い方?

 ゲームみたく、初級魔法は最初から覚えてるとかじゃないの?


「すまん、わからない」

「えっ!? 魔法の使い方がわかんないんですか?」


 え、何それ? 魔法の使用法なんて知ってて当たり前みたいな?

 自称神め、俺をこんなファンタジー世界に転生させるなら、魔法の使い方ぐらい教えておいてくれよ!


「実はそうで……」

「魔法がないなんて、よっぽどの辺境の出身……い、いえ、失礼」


 え、マジかよ。この世界だと、そんなに魔法が普及してるのかよ。


「そうですね。基本的な魔法なら、イメージで発動できます。

 ファイアボールなら炎を投げるイメージ、ウォーターフォールなら水を降らせるイメージ、などですね」

「イメージ……それだけで魔法が使えるのか?」

「はい、慣れないうちは威力が弱いですけれどね。でも、もちろん詠唱を必要とする魔法もありますよ。上位魔法や、広範囲魔法などです」


 詠唱なんてロマンあるなあ。呪文を覚えて、強い魔法を撃ちまくったりしてみたい。

 ……いや、精神年齢は高3なんだから、中二っぽい妄想からは卒業しないと。


「はい、ではこれにて冒険者登録は完了です。こちらが初級冒険者の札になります」

「どうも」

「この札は、色と形によってジョブと冒険者ランクを表しています。冒険者の証ですので、必ず目立つところに常に着けておいてくださいね」

「わかった。ところで仕事の方なんだが……」

「ああ、そうでしたね。魔法が使えず、かつ攻撃力も低いとなると、まだ討伐クエストは無理ですね。

 こちらのお仕事でどうでしょう?」


 受付嬢は、引き出しからおもむろに求人票を取り出した。


「えっと……ドブさらい……?」

「はい。戦闘ができない初心者の方向けに、街から融通していただいている仕事です」

「報酬はいくらだ?」

「朝6時から夕方4時までのお仕事で、16Gとなります」


 “神”情報によれば、たしか1G=100円ぐらいだ。

 ――てことは、10時間働いて報酬1600円!? 桁、一つ間違ってないよね?


「そ、それはいくら単純労働とはいえ、報酬が低すぎないか?」

「そうですね……ですが、戦闘能力ゼロとなると、これぐらいしかご紹介できるお仕事がありませんので」


 10時間ドブさらいして1日1600円。

 時給わずか160円という超絶ブラック求人だ。

 しかし、他に行く当てもない。身元不明の俺を雇ってくれるところはほとんどないだろうし……


 しかし、餓死よりはマシだ。とりあえず魔法を使えるようになるまでは、ドブさらいするしかないだろう。


「わかった。その仕事でいい」

「でしたら、こちらの契約書にサインお願いします」

「ああ」


 今に見てろ。魔法をさっさと習得して、こんな超低賃金労働からはすぐに脱してやる!!

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