8:ヒーロー側【お人形さんの末路】と連動
なんだか…ふわふわする。余りにも見事なエスコートに、やられた感じがする…
街で、十分買い物を楽しんだ。荷物は、うちのメイドにしっかりと手渡されたけれど、帰り際に手の指にキスされて、また。と言われた。
…王都の男の人って、こんな感じなのかな。買い物だって、お店へのエスコートもばっちりだし、お金もすべてラクシュ様持ちだし…しかも、あの時のっ!あの指っ!触れそうなあの絶妙な距離感、なんなの!動いたら、ラクシュ様の指にキスしちゃうと思ったら、かっちこちに身体が固まったわよ!
お昼ごはんも、下町の屋台に連れていかれて、一応屋台の傍に座れる場所があったから、食べ歩きは流石にないけれど…すっごいおいしかった。なんていうか、甘いしょうゆのたれが掛かったお肉とか。串焼きとか。しかも、串焼き…ラクシュ様が、お皿にするすると外してくれたから、かぶりつくなんて事にならなくて助かったし。
でも、そういう屋台とか、慣れてるみたいだったけど、よく利用するのかしら。一応、貴族向けのお店っぽい所にも、カフェとかレストランとかあったみたいなんだけど…
「戻ったか。うん?ケニアは一緒じゃないのか」
思い出に思わず浸っていたら、父が珍しく玄関にまで来たらしい。けれど…そういえば、妹はどうしたのだろう。
「出がけにスウェン様と、」
と、理由を言おうとした所で、玄関のドアが開かれた。振り返れば、妹で…ぽーっとした顔をしてるけど…
「おお、ケニア。戻ったか。…どうした?」
「…私、スウェン様の、妻、に…なり、たい」
「んん?ケニア、スウェン様、というと…」
父に説明するべく、口を開けば、なるほどと納得してもらえたけれど…妹の様子がおかしいんだけれど、大丈夫なの?
と、妹の様子をうかがうけれど…また、玄関のドアが開く。入ってきたのは騎士で、父に耳打ちをしている。
「なに…入っていただこう。おい、私の書斎に酒を用意しろ、ネルア、お前はもう部屋に戻りなさい」
「はい。失礼いたします」
ケニアは…その場に残るみたいだけれど…様子がおかしいし、こんなでも妹だ。でも…父の言いつけに逆らえるはずもないから、部屋に戻るしかない。
なんだろう。幸せから一転して、不安しかないのだけれど…ラクシュ様の話では、スウェン様は紳士だという話だったし…ケニアは、どうしたのかしら。急にスウェン様の妻になりたいだなんて。王都観光を一緒にするうちに、惚れてしまったのかしら。あり得ない話ではないけれど…
第二王子様のルーヴェリア様開催のパーティーでも、好きだからっていう感じではなかったし…ラクシュ様へも、ただ…いい所に嫁げるならっていう感じだったし。名前を呼んでしまったし、ちょっともう無理そうだけれど。だから…そっちにシフトした?けれど、スウェン様が了承するのかしら…
うーん…一体何がどうなっているのかしら。