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χ刀乱魔  作者: 前司レイ
第1章 価値観の巣窟
6/15

絶対零度

 朝のHR(ホームルーム)


「今日はみんなに発表しなければいけないことがある」


 お馴染み、還暦近そうな担任が言う。


「このクラスに今日、転校生が来る」


 その瞬間、クラスが少しざわつく。


 フェリーナが前の扉を開け、教室に入って来る。すると、より一層クラスはうるさくなる。「おー」などと歓声を上げている男子生徒もいる。


 担任はわざとらしく咳払いをし、


「では、自己紹介を」


「フェリーナ・サラーストです。これからよろしくお願いします」


 フェリーナは姿勢を正し、挨拶をした。

 その後、「好きな食べ物は?」などの質疑応答を終え、担任は口を開く。ちなみに、フェリーナの好きな食べ物はジャンバラヤらしい。(異世界っぽい)


「では、北舘の隣が空いているから、取り敢えずそこに座ってもらおう」


 隣の席が空いたときから、美少女転校生がやってきて、とても素晴らしい関係になるということは何度も考えてきたが、まさか実際に起こるとは。「思考は現実化する」とはこのことなのかもしれない。


「系さん。よろしくお願いします」


 このフェリーナの発言には、語尾に♡とかが入っていたように感じるのは、俺の思い込みだろうか。

 周りからは、睨み、舌打ちなどの被害に遭ったような気がするが気にしない。


 朝のHRが終わり、フェリーナの周りにクラスメイトがたくさんやってくるのだろうか、と思っていたが、そんなことはなかった。

 そもそもこの学園に転校してくるような人間は、親のコネを使った権力者などが基本なので、様子を見ているかもしれない。

 あるいは、HRが終わってすぐに平がここへやって来たので、遠慮しているという可能性もある。


「ちょっと話すことがあるので、昼食は3人で食堂で食べませんか」

 平が提案する。おそらく他の生徒にフェリーナを取られる前に急いできたのだろう。それに、フェリーナが他の生徒と話せば、魔法のことについて口を滑らせかねない。


「あぁ、別に俺はいいが。門前はさそわないのか?」


 平は少し沈黙し、口を開く。


「……誘ってみたんですが、断られてしまったんですよ」


 門前には昨日のことを謝らないといけないな、と思った。


「多分、昨日のことで怒っているんだろ。俺が今から謝ってくる」


「いや、それはあまりオススメできません。僕がさっき機嫌を損ねてしまいましたから、おそらく何の成果も得られないかと」


「……そうか」


「じゃあ、とりあえずわたし達3人で行こうよ」


 フェリーナがそう言って会話は終わった。


❇︎❇︎❇︎


 午前の授業が終了し、昼休みが訪れる。俺、平、フェリーナの3人は食堂に来ていた。


「食堂に来るのも、久しぶりだな」


「そうなんですか?」


 俺には一緒に食堂に来るような間柄の人間がいなかったため、あまり食堂を使っていなかった。1人で食堂というのはなんとなくハードルが高い気がするし、俺は一応首席なので、何かと注目を集めてしまう。


 食堂はなかなか賑やかだった。中心に近い大テーブルには、かなり大勢の団体がいた。おそらく『学派』というやつだろう。

 この学園には『学派』という、部活とも委員会とも違う謎の組織がある。各々の『学派』は権力争いしているらしい。まぁ、詳しくはよく分からない。真ん中に近いところを陣取っているものほど、権力があるらしい。



 俺たちは食事を得て、席についていた。俺は端っこの方が良いと思ったのだが、平の「端では品位が疑われてしまいますよ」という謎の発言により、端とも中央とも言えない、中途半端なところに座ることになった。


「そういえば、ケイ。僕のことも裕太郎と呼んでくださいよ」


「なんでだよ」


「なんで、って僕とケイの仲じゃないですか」


「俺とお前にどんな仲があるんだよ」


「……まぁ、色々ですよ。色々」


「まぁ、いいよ。なんか断ってもしつこく言ってきそうな顔してるし」


 まぁ、何故裕太郎がこんなに馴れ馴れしいのかは不明だが、社会を生き抜くには妥協というのも大切だろう。


「じゃあ、裕太郎さん。わたしのことも『サラーストさん』とかじゃなくて、フェリーナって呼んでよ」


「いやぁ……それは僕の主義に反しますので」


「でも、わたしからしたら、家名で呼ぶのは仕事の時だけなんだよ。だから、違和感しかなくて」


「仕事?フェリーナは何か仕事をしていたのか?」


「え?……まぁ色々だよ。色々」


 なんか、また適当にはぐらかされた気がする。まぁ、あまりしつこく聞くのはやめよう。全身を焼かれるかもしれない。「骨すら残りませんよ」なんてこともあるかもしれない。


「……系さん、何考えてるんですか?」


 まずい。フェリーナの目が全然笑っていない。もしかして、心が読めるのか?いや、それは厳しい。


「色々だ。色々」


「まぁ、いいや」


「全然関係ない話しますけど、ケイはカツ丼が好きなんですか?」


 俺はとりあえず安定のカツ丼を食堂で頼んでいた。


「あぁ、まぁな」


「カツ丼だけに『勝つ』ということですか?」


「は?」


「いや、『カツ』丼だから『勝つ』ですよ」


「…………おう」


「はい。では下らないことは割愛して、本題に移りましょう。カツ丼だけに」


「「…………」」


「ちょっと。少しくらいは反応してくださいよ」


「寒すぎて熱運動停止するぞ。これは」


「絶対零度じゃないですか」


「え?どういうことですか?」


 フェリーナは一連の流れを全く理解できなかったようで、不思議そうにしている。健気だ。健気なフェリーナも良いと思う。抱きしめたい。いや、もうこれは抱きしめても良いのではないだろうか。


「はい、では本題に移りますよ」


 そう言った時には、裕太郎はもう真面目な雰囲気を帯びているような気がした。

次話も明日投稿します。

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