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χ刀乱魔  作者: 前司レイ
第1章 価値観の巣窟
5/15

シナリオ

「お帰りなさいませ、ご主人様」


 俺はあれから電車に乗って、家は帰った。そして、家で俺を迎えたのはメイドだった。


「葵さん。俺、ハーレム築けるかもしれません」


 俺を出迎えたのは、メイドの篝葵(かがりあおい)

 俺にはもう両親がいないので、金持ちの祖父から一軒家で住むように言われた。しかし、俺は家事がほとんどできず、それでは家がまわらない。


 そこで、メイドが雇われることになった。メイドである理由は、俺がメイドが好きだからではない。祖父の趣味だ。


「それでハーレムっていうのは?」


 俺と葵さんは今椅子に座り、話している。


「それがーー」


 ???????????


 ハーレム?俺は何を話そうとしていたのだろうか?

 俺はこれから話す内容を忘れることなんて滅多に無い。まだ俺は16歳だ。どういうことだ?


 これにはフェリーナが関わっているようにしか思えない。フェリーナが俺の頭に何かしたというより、『知ってはいけないことを知った人の記憶は消しますよ』みたいな感じかも知れない。


 実際、喫茶店での記憶もあまり鮮明では無い。好きでもない野菜を矢鱈(やたら)と食べたのと、大金を払ったのは覚えている。というか、それは詐欺なんじゃないか?

 それと、門前をかなり怒らせてしまったのも覚えている。


 記憶が曖昧なのと、ぼったくられた(気がする)のは残念だが、意味が分からないことが起こっているのは、正直言って、非日常感があってワクワクしてくる。


「系君。どうしたの?」


 そう言えば、話の途中だった。ちなみに「お帰りなさいませ、ご主人様」という台詞は、『メイド感を出すため』という理由で、普段、葵さんは俺のことを、『ご主人様』などとは呼んでいない。


「……あのですね。話す内容を忘れました」


「ふーん。珍しいね。系君が何かを忘れるなんて」


 葵さんは、じ〜っと俺を観察する。俺が何か隠していると疑っているのだろう。ただ、魔法については、正直に話す訳にはいかない。適当に誤魔化そう。


「ははは。不思議ですね〜」


「そう。まぁ、いいや。夕飯の準備をしないと」


 そう言って葵さんはキッチンへ向かって行った。俺は部屋へ向かった。


 その後、もう少し魔法やら何やらについて考えようとしたが、食事をしたり、本を読んだり、ネットサーフィンをしたりしていたら、いつの間にか就寝時間となっていた。





 翌日。いつも俺は遅刻しがちだが、今日は早く来るようにと平に言われたので、時間通り登校している。


 俺は今、校門から校舎へと続く道を歩いていた。すると、横の道路に高級車が止まり、中から平が降りて来た。


「おはようございます」


「あぁ」


 あ、何だ?

 挨拶するといきなり平に背中を押された。


「は?あいつ意外と腕力あるな」


 押し飛ばされて、少し離れて平の方を見てみると、大量の女子生徒の群れが発生していた。



「何だあれ?」

「すげーな」

「イケメンで文武両道で金持ちって完璧だよな。俺が優ってるのはスコティッシュフォールドの座り方のモノマネぐらいだわ」



 何だか色々聞こえる。どうやら平はあり得ないくらいモテるということらしい。


 ここに止まっていても仕方ないので、俺は校舎へ向かうことにした。


「女子の群れが殺到するのって現実世界にもあるんだな」


 俺が歩いていると、隣に眼鏡をかけた謎の人物がねじり寄って来て、何か言った。不審者か?このまま交番にでも駆け込もうか。


「個人的には、モテるかモテないかは、生まれた時点で8割方決まっていると思う。世の中不平等なもんだ」


 例の奴はまた何か言っている。


「お前、俺に話してんのか?」


「そうだよ、北舘氏に話してんだよ。逆に誰に話してると思ってたんだよ」


「いや、大きめの独り言だと思った。てか、お前誰だ?」


外山(そとやま)だわ。何回その冗談やってんだよ」


「そうか……。俺の辞書に外山の文字はない」


「なんで急にナポレオン風?」


「そういや、お前のモテないという話、生まれるよりも前に決まっていたっていう可能性もあるぞ」


「どういうこと?」


「つまりこの世の出来事には、既に決められたシナリオがあって、俺たちはただそれに従っているっていうだけの話だ」


「でも、俺は今自分の行動を選択することができる。例えば、今このまま学校で授業を受けるか、あるいは家に引き返すことだってできる」


 外山は反論する。


「いや、その選択の結果すら既に決まっている。もし仮に、お前がそのシナリオの裏を突こうとして、授業を受けると見せかけて、直前で帰ったとする。それでも、『外山が授業を受けると見せかけて直前で帰る』がシナリオだとすれば、辻褄は合う。というより、少なくともそれを否定することはできない」


「なるほどな。ということは、今北舘氏がそのシナリオの考察をするということさえも、シナリオとして決まっていたかも知れないってことか」


「もっと言えば、そのシナリオを将来的に知ることができるようになるかも知れない」


「というと?」


 外山は興味深そうに言う。


「世の中の出来事全てには因果というものがあるだろ。つまりその『因』を解明することによって、『果』を知ることができるってことだ。例えば、ビッグバンで生じた原子が地球を形作り、そこから生命が誕生し、それが延々と受け継がれ、お前の両親まで至る。そして、その卵と精子が結合し、また、お前の母親の構成物からお前は形作られる。お前が生まれた後は、お前が食事や呼吸によって取り入れた原子から、脳内の物質が作られていく。そして、それはお前の行動理念や選択に影響している。

 人間の思考も脳内の化学反応だと考えれば、一見複雑に見える動物の行動さえも原子の挙動から予想することができるということになる。つまり、この世界の出来事の全ての原因は原子の反応に帰すると言える。今、俺たちに影響し得る全ての原子の状態を把握することができれば、未来を完全に推定することも可能となる。逆に、それを何度も遡っていくと、ビッグバンが起きたその時から、今現在の状況を予測できたのかも知れない。

 つまり、要約するとお前がモテないのは、ビッグバンが起こった時から決まっていた」


「もう、何だか分からないよ。あと、俺はビッグバンが起こったなんて信じてないっ」


 外山は無駄に声を荒げ、無駄に騒ぐ。


「お前はビッグバン否定派だったか」


 そんなことを話していると、教室に着いた。外山も俺と同じ教室に入っていった。



系はフェリーナにキスされたことを忘れています。

次話も明日投稿しようと思います。

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