パフェ
俺が帰ろうとしていたら、門前が話しかけてきた。その傍にはフェリーナと平がいた。
平裕太郎は学業成績4位の茶髪の男子生徒だ。身長は普通かそれより少し高いくらいだ。
一言で表すと王子という感じ。
「あの話聞いて直ぐ帰ろうとするなんて、あなただけでしょ」
「あぁ、これから何かするのか?まぁ、別に用事は無いから構わないが」
「おーい、さっきのあれ、もっと見せてくれよ」
俺と門前が理事長室の前で話していると、学ラン少年がフェリーナにそう言う。
「えぇ……まぁ、いいよ」
フェリーナはそう言って、右手を構える。
「おい、こんなところであれをするな。他の人もいるんだぞ」
「あぁ、たしかに」
危ない。早速、フェリーナの魔法がバレるところだった。
「はぁ?首席は堅堅の堅だなぁ」
「お前ももっと考えて行動しろよ」
学ランに一応、灸をすえておく。
「まぁ、また今度見せてくれたらいいや。慈悲慈悲の慈悲ってやつだ」
学ランは去っていく。なんなんだ、あいつは。
「それでさ、場所を移さない?」
「駅前のファミレスとかか?」
「いや、僕の家に来ませんか?他の人に聞かれるとまずいことも沢山あるでしょうし」
平はそう提案する。
「そもそも、他人に聞かれたところで、非現実すぎて気にされない気がするが。それと、魔法をもう一度見たいなら、尚更家はやめた方が良いと思うぞ。家が燃やされる覚悟が無い限りは」
燃やさないよー、とフェリーナから反応が返ってくる。
「あなたの言うことも一理あるかもしれませんね。ただ、ファミレスではなく、喫茶店にしませんか?あまりそういったところには慣れていませんので」
「まぁ、別に構わないが」
「別にいいんじゃない?」
「喫茶店とか行ったことないけど、楽しそうだからいいよ」
「では決まりですね」
学園の位置する櫻川市は、それなりに大きい都市であるので、駅周辺には百貨店や商店街など多くの店が立ち並んでいる。
俺たち4人は駅前のとある喫茶店に来ていた。
「お客様、ご注文はお決まりになりましたか」
「チキンステーキで」
「じゃあ、わたしもチキンステーキにしようかな」
「結構ガッツリいくのね。私はパフェで」
「やっぱり、わたしもパフェにしよう」
「では、足並みを揃えるという意味で、僕もパフェをいただきましょう」
3人がじっと俺の方を見てくる。
「なんだか強い圧力を感じるんですが…………。まぁ、パフェの語源はperfectと同じで、フランス語で『完全』という意味。でも俺が完全を求めるのは、あくまで自分だけで外部には求めない」
「なんなのよ、あなたのその美学は」
「それは面白い考え方ですね、ケイ」
「っていうか、いつから俺をケイと呼ぶようになったんだよ、お前は」
「では、何と呼べば良いのですか?」
「…………まぁ、そっちの好きにしてくれて構わない」
「お客様、お飲み物の方は」
苦笑いしたウェイトレスがそう言う。色々と話が白熱してウェイトレスを放置してしまった。
「じゃあ、ソーダ水」
「僕はアイスコーヒーをお願いします」
「わたしはオレンジジュースかな」
門前、平、フェリーナが順に注文する。
「オレンジジュースで」
「系さん、真似しないでよぉ」
俺が注文をすると、斜めの席に座ったフェリーナが、前屈みになってこっちに身を乗り出してくる。
「あ、あぁ」
「ご注文は以上ですか?」
「は、はい」
危ない。危ない。あと少しで選択する権利を侵害されるところだった。恐るべしフェリーナ・サラースト。
でも同時に、心の中の俺の1人が「他人に影響されるのを選択するのも良いかもしれない」と言っているような気がした。
「では、本題に入りましょうか」
平がそう切り出す。
「本題というと?」
「サラーストさん、今までどのような人生を送ってきたのか、聞いて良いですか?」
「んー、難しいなぁ」
フェリーナは首を傾げる。
「転校する前はどこで暮らしていたのか、とかじゃないか。異世界召喚とか」
「異世界とかあるわけないでしょ」
門前がそう反論する。
でも、個人的にはその可能性はあると思う。実際、魔法を使っているわけだし。さらに、今まで魔法が使えることはバレていなかったということになる。フェリーナの性格的に、昔からこの世界にいたら、魔法はバレている可能性が高い。
「うん。わたしはこことは違う世界にいたんだよ」
「はぁ?」
門前がそう反応したところで、ウェイトレスが飲み物を運んできた。
ウェイトレスが去った直後、話が再開された。
「それはどういうことなの?」
「いやぁ、ある日目覚めたら、櫻川駅のベンチに座っていて。それで、訳が分からなくて困ってたら、てっちゃんに話かけられたて感じかな」
フェリーナはそう言った。てっちゃんとは理事長・大西徹雄のことだろう。
「それはいつのことなんですか?」
「10週くらい前のことかな」
「2、3ヶ月程度前ですか」
俺はオレンジジュースを飲みながらそんな話を聞いていた。するとチキンステーキが運ばれてきた。
「じゃあ、お先に」
「よくこんな話してて、普通に食べられるわね」
「食べながらでも、話聞けるから大丈夫だ」
「僕はあまり異世界などに詳しくないので、ケイに任せたいのですが」
でも、俺は付け合わせの野菜を食べ始めてしまっている。好きなものは後に残す派である。でも、前にどこかの科学者が好きなものは先に食べた方が良いと言っていた。お腹が空いている時の方が食べ物を美味しく食べられるかららしい。まあ、結局は好きなものだけ食べるのが1番良いということだと思う。
「俺は食事をしなければいけないんだ。お前に発言を委ねる」
「何しにきたのよ」
門前の質問には答えられないので、俺は野菜を口にかきこむ。
と、そんなところでパフェが3つきた。
「まぁ、取り敢えず食べましょうか」
平がそう提案。うん、それでいい。
三人もパフェを食べ始めた。
「系さん、食べる?」
フェリーナがパフェを食べる用の長いスプーンを俺の方へ向けてくる。本当にいい子だ。
俺は条件反射的にそれを口にする。
「美味い」
「ちょっと、本当に何しにきたのよ。あなた、本当に異常者よ。異常者。不純なのよ、全てが」
何故か、門前にキレられた。なんなんだ?全てが不純って?
「ということは、俺は、不純な目で、不純な鼻で、不純な口で、不純な眉で、不純な額で、不純なみーー」
「うるさいっ」
その瞬間、俺は門前にビンタされた。はぁ、新しい趣味に目覚めてしまいそうだ!!!!!
「何、にやけてんのよ、変態っ」
門前はもういいっ、とテーブルにお札を置いてどこかに行ってしまった。二千円札だ。こんなところで紫式部を見ることになるとは。
「ケイ、追いかけなくていいんですか」
隣に座っている光源氏みたいなやつが、そんなことをほざきやがる。
「今、俺が追いかけだところで何も好転しない。時間をおくべきだ」
「そうですか。僕は紳士として追いかけますよ」
「したいようにすればいい」
「そうさせていただきます」と言って、平も去っていった。
門前の姿はもうすでに見えなかった。
はぁ、と息をつく。
「系さん、怒ってる?」
「怒ってないよ。俺は怒らないって決めているんだ」
へぇ、とフェリーナは呟き、再び前屈みになって、距離を詰めてくる。
「わたしはいつも系さんの味方だよ」
フェリーナは俺の手に触れる。
「わたし系さんのことがーー」
フェリーナは上目遣いで発言していた。
が、いつの間にかフェリーナの唇は俺の唇に重なっていた。とてもいい匂いがする。
は、は?どういうことだ?唐突すぎて意味が分からない。
「…………今日は、、取り敢えず帰らせていただく」
俺はそう言って、テーブルに1万円札を置き店を後にした。
テーブルには、食べかけの皿と、飲みかけのグラスと、不敵な笑みを浮かべた少女が1人残った。
χは「かい」と打てば変換で出てきます。
次話は明日投稿します。