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χ刀乱魔  作者: 前司レイ
第1章 価値観の巣窟
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ジャネー

 あの後、門前は警察署に行き、用が済んで帰ってきて、今は帰りのHR(ホームルーム)


「今日の放課後に十傑は理事長室に来るようにということだ」


 還暦に近いと思われる担任教師が連絡する。


 十傑とはこの学園の成績上位者10名のことであり、俺もそのうちの1人である。


 その後、長々と担任に有難い話を頂いたところで、HRは終了し、理事長室に向かう。


「おい、どうしたんだ?」


 理事長室に向かっていると、門前がしつこく後ろに着いてきたので、問いかける。


「いや、私も十傑なんだけど」


「あ、そうなんだ。知らなかった」


「いや、反応薄過ぎない?もっと驚いたりしない?」


「いや、別に」



 そもそも通り魔を引き連れて来るような人が、今更十傑だったところで驚くだろうか。いや、逆にそれは驚くべきことか。



「ちょっと、話聞いてるの?」


「あ?なんだ?…………やはり門前が十傑だったのは驚くべきことかもしれない」


「何言ってるのよ。もういいわよ」


 おそらく、俺が考え事をしている間に、門前の話を聞き逃してしまい、それで怒らせてしまった。


 会話が無くなってしまったところで、丁度良く理事長室の扉が見えた。豪華そうな茶の木材の観音開きの扉。その前には、十数人が集まっていた。おそらく十傑の付き人であるとかそういった類だろう。


 俺たちを見た瞬間、彼らは扉から離れる。これは俺が尊敬または敬愛されているからではない。道を譲るというより俺を避けるという方が近いだろう。


 首席とかそういったものは尊敬されるはずだが、現実はそう上手くはいかないものだ。


 「人生は思い通りにいくとつまらない」とはよくいうが、思い通りになった方が面白いに決まっている。


 俺は理事長室の扉を開け、門前と俺は理事長室に入る。

 中には、室内なのに日傘を差す女や、『鯖』と背中に書かれたTシャツの男、何故か学ランの男(系の高校の制服は学ランではない)など、いつもの十傑の集まりとなんら変わらない面々がいる。


 十傑は理事長の前に、横一列に並んでいた。俺たちの担任の話が長かったせいか、俺と門前以外の十傑は全員既に集まっていた。


 今日の集まりにはいつもと違うことがあった。理事長の隣には1人の少女が立っていた。女性にしては背が高く、長い金髪を持つ少女だ。その金髪は輝いていて、光を纏っているかのようだ。


 俺たちは自分の立ち位置に急ぐ。俺の立ち位置は1番右だ。


「こんなにも人を待たせるとは、首席はどれだけ偉いんだろうな」


 俺が立ち位置に着いた瞬間、隣の次席がそんなことを言ってきた。返事をしても意味がないので、無視をする。


 次席のこいつは、俺が何をしてもケチをつけてくる野党みたいな奴だ。しかし、生徒会ではなかなかの権力者らしく与党ポジションである。


 俺的には「与党か野党か分からない奴」として面白いのだが、この面白さが理解されたことは未だかつてない。


「全員集まったので本題に移ろうか」


 理事長が口を開く。理事長は気の良いおっちゃんという感じで、一般の理事長のイメージとはかけ離れていると言えるかもしれない。


「えぇ、まずは自己紹介してもらおうかな」


 理事長が隣の金髪少女に話しかける。


「こんにちは。フェリーナ・サラーストです。明日からこの学園に通います。よろしくお願いします。あっ、私のことはフェリーナと呼んでください」


 フェリーナはそう言って軽くお辞儀をした。


「えぇと、フェリーナが所属することになるのは、1年ζ(ゼータ)組だ。だから、北舘、(たいら)、門前は面倒を見てやって欲しい」


 ただの転入生に対してここまでするのはおかしいし、十傑の集まりがこれで終わるわけがない。つまり、このフェリーナには何かがある。


「それで、ここからが重要なんだけどなぁ、ここでのことは口外しないで欲しいんだ」


 十傑はそれにうなずき、それを確認した理事長は再び口を開く。


「実はフェリーナには魔法がつかえるんだ」


「それはどういう意味なんですか?」


 4位の平が質問する。


「見てもらった方が速いかも」


 フェリーナはそう言った直後、右手の掌を上に向けた。掌の上に光が生まれる。その光はすぐに濃くなり、手の上では、様々な色の炎の球のようなものが観覧車のように回っていた。


「何だよそれ、熱々(あつあつ)(あつ)じゃねぇか」


 学ラン熱血少年は楽しそうに言う。


 他に唖然としている者や、顔色ひとつ変えない者や、何故か笑っている者などがいた。


「それ、何処かから投影しているんですか?」


 次席は理事長にそう訊いた。


「それが違うんだよ。まぁ、俺もどうやってこんなことしているのか暫く考えたんだが、よく分からないんだ。本人は魔法と言っているんだが、そのメカニズムを解明して欲しいんだ。魔法使えたらすごいだろ?」


 理事長はそんなことを言う。


「体感的には人間の人生っていうのは19歳くらいで半分に達するらしい。人生半分魔法有りで過ごすか、魔法無しで過ごすか、これは君等にかかっている」


 理事長はそう続けた。これは毎回恒例の理事長の『本気で言っているのか、ふざけているのか分からない話』である。


「もう一度言うが、今の話は口外しないでくれよ。それと、もちろんフェリーナが魔法を使えることを他の生徒にバレないようにしてくれ」


 その理事長の言葉で十傑の集まりは終わった。

 俺は理事長室を出た。


 何故魔法が使えるのか、いつから魔法が使えるのか、今まで何をしてきたのか。フェリーナには沢山の謎がある。

 しかし、急ぐ必要はないだろう。これから嫌なくらい関わることになる気がする。よし、帰ろう。


「ちょっと、なにしれっと帰ろうとしてるのよ」


 後ろから今日何度も聞いた声がした。

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