第89話 試合当日
試合当日の事務所前は警察が交通整理をしなければならないほど人がいた。
俺に恨みがあるんじゃないかと思ってしまうぐらい熱意のあるファンが腹から声を出して俺を応援してくれる。こんなに大層な出来事になっているとは。
「転移で向かいますので。最後に外の皆さんに挨拶を」
「あの!!勝ってきます!!危ないかもしれないんで!家でテレビかなんかで見てください!それじゃあ!」
「「うぉーー!!」」
なんでも良いんだろうな。ここでの発言。
そうした後、アーローさんの転移でそのまま直接闘技場の前まで移動すると、そこで待っていた沢山の観客が俺たちの方を見て、押し寄せてくるんじゃないか?って思うほどの熱意を向けてくる。
「頑張れよー!」
「キングに勝ってー!」
「羽山健人!羽山健人!」
俺はとにかく心配だ。何が心配かっていうと、それは非常にシンプルで、破壊雷とか台風によって、俺たち、キングと俺だけじゃなくてみんなが傷付くのが心配だ。そして、それによって俺が損をするかも?なのも心配。
「アーローさん。みんなも観戦するんですかね」
「おそらくそうなりますので」
「うーん、辞めといた方が良くないですか?だってこの前の戦いの時ですら……」
「それは皆さんが自分で決める事なので」
「そういうもんなんですかね?」
「激しくなったら帰りますよ。死にたいと思ってる人なんていないので」
俺が余計な心配をする必要はない。そうだと思いたいが、俺とキングの戦いは大変な事になる可能性が高い。心配するなと言われても、心配はしてしまうものだ。
人混みを掻き分けながら、闘技場の受付まで向かう。もうヘトヘト……
「ようこそ!羽山健人様ですね!もう既に登録は完了していますのでこちらにサインを」
「はい」
「……それではご健闘をお祈りします!行ってらっしゃいませ!」
控え室までの廊下を歩く。本当にこれから先キングと?
ここは防音性能が高いらしく、さっきまで常に耳に入っていたみんなの歓声が全く聞こえてこない。横を歩いているアーローさんと俺から発せられる音しかここにはないのだ。ガチャ。
「準備はよろしいですか?今日まで色々あったので」
「ちょっと着替えないと……」
「外行きますので」ガチャ。
控え室に入った直後だったが、アーローさんは一時的に外へと出て行く。俺は買ってきた防寒具系の下着や、撥水性の高い手袋などを身に付けて、その上にさらに鎧を装備する。いつもより動きにくいような気が……まぁ、慣れるか。
扉の向こうにいるアーローさんに少し話しかけてみた。
「俺が勝ったら、召喚獣が人間みたいに生きられる社会を作るって約束してくれます?」
「約束ですか?」
「そうです。結局、俺はこの約束……召喚獣のみんなとしたこの約束が守れれば後はなんでも良いので」
「…………」
沈黙の後、扉が開かれた。そこにいるアーローさんは俺の瞳を真っ直ぐ見てくる。
「その約束はしないので」
「……」
「ただ、貴方が勝ったら、私にローズさん達とお話しさせてください。よろしいですか?」
「良いの?」
「……私は良いよ」
「だってさ。みんなも良いよね?」
「「「もちろん!」」」
「ありがとうございます。私はその上で決めます。まだ皆さんの事全然知らないので」
人間として見てくれているような気がした。
自分でちゃんと物事を判断しようとしてるんだ。そこまで近くに来てくれたなら、もうそれだけで俺は十分だ。
「準備は完了ですか?」
「今から暖かくなるドリンクを死ぬほど飲みます」
「何杯飲んでも効果は変わらないので。一杯だけにしておいてください」
ゴクゴクと暖かくなると言われているドリンクを飲むと、今から全身がそーホットになってきた。戦う前にちょうど良い。これぐらいじゃないとやってられん!
「オイ!お前」
いきなりオイと呼ばれたので、誰だろうと思い振り返ってみると、そこにはハットが居た。近くには身長2メートルぐらいありそうな用心棒が6人。
別に俺ならそれぐらい倒せるけどね。なんで来たんだろ。
「キングに勝てると思うな。後、お前の家族の情報も調べたぞ。言いたい事は分かるな」
「分かります。ただ、俺は約束守らないといけないので」
「ははは!家族を犠牲にするのか!?お前も俺たち同様に命を粗末に扱うんだろう!ははははは!」
「最初っから一緒ですよ。貴方はそういう運命を歩むって事になっているってだけだし、俺は俺の運命を歩んでいるってだけでやってる事はずっと一緒です」
「ほざけ!ふん!」
人間ってなんだろう?
最近人間とは何かに付いて考える事が多かった。精神を持って人間とするなら、目の前の人は人間とは言えない。肉体を持って人間とするなら、召喚獣は人間とは言えない。
精神も肉体も人間らしさじゃないなら、人間とはなんだろうと考えた時に、結局はそういう分類であるという気がしてきた。つまりは人間だと決まっているから人間であるというシンプルな人間らしさ。
その中でどうしてこんなに差が生まれるのか、それはきっと、ハットみたいな性格の人がいた方が人類にとって良かったからだろう。多分。
俺は殺してやりたいけど、まだ殺すのは辞めておく。ちゃんとみんなに軽蔑されてから、みんなの心に残るような失敗をしてからちゃんと死ぬべきだ。
「ハットさん。ここって貴方の闘技場なんですよね?」
「そうだ!俺の場所だ!俺の土地だ!」
「……ブッ壊すんで覚悟しておいてください。あと、これから先の貴方には最低限の人間らしさしか与えられないって事も覚悟しておいてください」
「俺には警察にもコネがあるんだ!刑務所だって楽園にしてやるさ!」
「これから先の貴方にあるのは人間としての権利だけです。俺とお前が共通して持ってる物」
召喚獣に色んな事をする権利があったら、それは人間と言えるのかもしれない。今の俺たちと同じような人間。正確には人間じゃないから、人間みたいな人。
それがあったら召喚獣も人間だ。必要なのは世論とか自由とかじゃない。シンプルに人間と同じように生きる権利が必要だ。
「……ふん!まずもってお前がキングに勝つ事もない。そして、その後俺が不幸になる事もなく幸せに生きるんだ!!残念だったな!」
「誰にだって幸せに生きる権利はあるので勝手に幸せになってください。それで?何しに来たんですか?」
「処刑宣告をする為に来たんだ。もう時間だよ。死ぬ時間だ」
「ありがとうございます。それじゃあ」
俺は用心棒の中にいた1人に誘導される形で、闘技場のステージへと向かう。近付くと割れるほどの歓声が聞こえてくる。
みんなは大丈夫かい?俺は死ぬ覚悟出来てるけど、みんなは出来てそう?
最後の最後まで隣にいたアーロー。みんなから見える場所に出る前に少し話そうと思った。
「まぁ、アーローさんは俺が勝っても負けても大変だと思うんで、後は頑張ってください」
右手の親指を突き立ててグーサインを作る。いつもはこんな事しないんだけど今日はちょっといつもと違う。
「ホントに大変ですね。貴方が死んだら色々と無駄になるので頑張ってください。それに、良い案も思い付いたので」
「良い案?S級の?」
「そうです。さっき貴方が言っていた事が全てですので」
「ハットとのやり取りですよね?」
「そうです。もしかすると、1番大事なのは考え方なのかもしれないですね」
そう言ってアーローさんは、俺たちが歩いてきた道を戻っていく。さてと、後は俺がマジで頑張ってキングをボコボコにするだけだ!やるぞー!
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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