第86話 ハカイ
「おい!バカ!どうして殺さなかった!」
「申し訳ありません。我の未熟さ故です」
「頭を下げるならしっかり下げろ!擦り付けるんだな!アイツにやったみたいに!ほら!」
我の肉体。そして精神。それを御しきれない事に対する怒り。全ては己の未熟さ故だ。
何を良しとするのか、感情を船首にした先にあるのは堕落だ。理屈を船首にした先にあった道は不自由だ。
善悪の価値観に付いて考える必要があると考えてからどれだけの時間が経ってしまっただろう。
「《金蜘蛛の心臓》の集め方がバレたんだぞ?他にも様々なグリッチがバレる事になるんだ。それだけじゃない、生贄の儀式も表に出るというなら……俺の立場はどうなるんだ!!」
「ハット様……一つ提案がございます」
「なんだ!!もし下らない事を言うようならお前の秘密もバラすぞ!」
「もう一度ハット様の権威を取り戻す為には、羽山健人を徹底的に潰す必要があります」
「その為に根回しをしてるんじゃないか!!なのに!アイツらときたら俺たちに不信感を抱きやがって!秘密を共有している癖に!生贄の儀式を黙認していた癖に!!今更正義振りやがってェ!!!」
「ハット様」
「バカな国民はどこまでもバカだ!!俺たちが今まで社会を作って来たんだぞ!?その感謝もなしに羽山健人とかいう怪しげな男に騙されおって!!あの男の何が良いんだ!ただの会社員だろ!?」
このお方の権力を回復する為には、力を見せ付ける以外に道はない。その時に、我は剣となる事が出来る。
そして、羽山健人ともう一度戦い、預けた試合の決着を付ける事が出来る。
「我に戦わせてください。もう一度、闘技場で彼と真剣勝負をし、英雄視されている彼の無様な姿を皆に晒して見せます」
「それをしてなんになるんだ!?え?」
「彼の力は民の力です。不当に勾留されていると多くの人が考える中で、彼を解放させる為の力は増すばかりです。いつかは革命的な出来事が起こる事でしょう。警察署が襲撃される前に、その力の源を断たせてください」
「……頭を上げろ」
「はは!」
このお方がここまで尊大になられたのは、我の未熟さのせいだ。しかし、それでもこの世界は素晴らしく見事に回っている。
ダンジョンという異質な物があるこの世界で、我は自分の生き方に迷っていた。ただ、力というのは正直だ。
今回もそれに縋らざるおえない己の未熟さに呆れて何も言えないが、我は我がやるべき事を……
○○
試合が決まってしまった。正直、どういう風に戦えば良いのかの見当も付いてなかったので、1人で『始まりの大地』に来ていた。
噂に聞いていた通り、多くの冒険者がここには集まっている。まだ例の作戦は決行されていないのか、みんなは行儀良く列に並んで金蜘蛛が復活するのを待っていた。
もしかしたらみんなに迷惑かかるかもしれんけど、試したい事全部試すか。
まずは、この前使いたくても使えなかった【破壊雷】だ。トールの100レベかなんかで手に入れたスキルだから、絶対に強いはずなんだけど、嵐の状態じゃないといけないらしい。ストームを呼ぼう。
「ストーム。今召喚して良い?」
「良いよー!バッチコイー!」
「ありがとう。【召喚】」
空に雨雲がやってくる。こんなに晴れた場所にも雨が降る。ここって今まで晴れ以外だった事あるのかな?
列に並んでいた冒険者達も困惑しながら俺を見てくる。そんなに注目するもんでもないお。てか、戦法がキングにバレたりする?
相手が寒さ対策してきたらどうしよう。台風対策……まぁ、でもストームを呼んで自分達が戦いやすい場所を作るっていうのはもう確定か。
雨が激しくなっていき、もはや嵐と言っても差し支えなくなった頃合いで、俺は例のスキルを発動してみる。
「【破壊雷】」
空にある暗雲が雷によってゴロゴロゴロゴロと唸り始め、ずっとピカピカと光続けている。まるで空に蛍光灯が吊るされているみたいにずっと明るい。雷の点のような閃光が線のように連続して、周囲をとにかく明るくする。
この間、俺は自由に動く事が出来た。中々珍しいスキルだな。普通は発動したらもう自分の意思では動けなくなるのに。
……使い勝手の良いスキルだけど、これいつ攻撃してくれるんだろう?後は勝手に雷が落ちてくるだけな気がするけど、発動してからもう数分経ってる気がする。なんだか目もチカチカしてきた。
列になっていた冒険者も転移で帰宅し始める。明らかに異常な事が起こってるしな。
「ねねねぇ!これすっごいねぇ!」
「そうだね。てか、流石に眩しいかも」
「サングラスでも買うか!せっかくだ!」
「それホントに有りだね。帰りにお店寄ろう」
それからもしばらく雷は鳴り続け、耳すらもおかしくなってきた頃に、空で起こっている全ての活動がピタッと止まった。
地面に落ちてくる雫は、一つの面を見せながら落下してくる。雨すらも止まった。来るのか?【破壊雷】
俺の身体も止まる。そして、右手を上空にグッと突き上げ、全身の骨がどこまでも、突き上げた右手に引っ張られ伸びている感覚がある。裂けてしまいそうなほどに全力で手を伸ばす。
さっきまで雷が鳴り続けていた暗雲が降りてきて、俺の右手の先辺りでハンマーの形を作り出す。あぁ、なんかマジで神様みたいだ。
ドガンッ!!!!!と鼓膜が破れて耳から血が出るほどの、完全に音がなくなるほどの轟音が鳴り、いきなり眼球に真っ白で強烈な光が当てられ、目の前が白に染まって何も見えなくなる。それでも自分の身体は勝手に動く。
本当に何にも見えない。何も聞こえない。まるで死んでしまったようだ。
突き上げていた右手が雲を確かに掴み、肩甲骨が肩を後ろに動かして、ボールを振りかぶる直前のような姿勢になる。
何秒かそれが続いた後に、千切れるほどの勢いで右手が振られる。
雲が地面に衝突した瞬間、そこで発生した強風に思いっきり身体を投げ飛ばされた。あり得ないぐらい吹き飛ばされている気がする。そして、落下する。
草が生えた地面を自分の意思で撫で、今どうなっているのかを確かめる。身体は自由になる。スキルの発動は終わった。え?終わった?え?でも、視界は真っ白で視力は回復してないし、音も聞こえない。
まさか、そういうスキルなのか?え?俺はこのまま何にも見えない、真っ白な視界の中で生きていくのか?、と不安に思っていると、やがて視力は回復してきて、隕石が衝突したみたいに窪んだ大地と、晴れた空にかかった虹が見えた。
雨も止んでいる。微かな風の音が耳を掠める……なんだこのスキル……本当に神様が力を貸してくれたみたいだ。
「……なんだこれ」
「健人!!大丈夫だったの!?」
「え?……あぁ、俺はもう大丈夫」
ローズが俺に思いっきり叫ぶように話しかけてきた。もしかしてそこそこ長い時間こうしてたのかな?
心配させるほどの時間ずっと突っ立っていたのかもしれない。時間感覚なくなっちゃってて自覚は全くないけど。
「良かった……話しかけても答えてくれなかったから」
「あぁ、ごめん。めちゃくちゃ心配かけた。みんなもごめん」
「キッシシ!神様でも見た気分だぜ!良いもん見れたな!」
「そうだ!我らには到底成せないような技だった!」
「凄いねー!やっぱりトールは神様だ!」
目の前の穴は、2トントラックで言うなら100個ぐらいは入るだろうか。マジで街中で使わなくて良かったなぁ……でも、これから街中で使うんだよなぁ。
勝ち目が見えてきた。明確な決定打のある勝ち目。これなら、キングにもきっと勝てるだろう。向こうが王なら俺は神だ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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