第83話 キング
「はぁ、やっと戻ってこれたよ。警察は用心深いね」
「お勤めお疲れ様です」
「バカ言うんじゃないよ。せっかく良い話も持ってきたのに」
ずっと警察署で勾留されていたブラックさんがようやく戻ってきたと聞いて、俺はカジノの事務所までやってきていた。
数日間もどんな事を聞かれていたんだろう。そもそもこの件に進展はあるのだろうか。
「まずは残念なお知らせだ。ハットはまだ生きているらしいぞ」
「え?まぁ、ただの殴打だったので。それはそうかもしれないですね」
「当たり前のように復讐されるだろうな。気を付けろよ」
「気を付けます。良い話というのは?」
「アイツらがどうやって《金蜘蛛の心臓》を集めていたのか、そして、もっと言えばどうやって権力を保ち続けていたのかが分かった」
「へ?警察から?」
「警察がそんな事を教えてくれる訳がないだろ。その話は丹羽からだ」
あれから全く姿を見せていない丹羽さんだが、ブラックさんとの繋がりはまだあるらしい。迷惑かけてごめんなさいって感じだ。完全に嫌われた可能性がある。
まぁ、それはそれとして、ハットがどうやって権力を保ってきたのかは気になるな。
「何をしてたんですか?ハットは」
「お前は知ってるか?ここにあるダンジョンは全て、元々ゲームのサービスだったという事」
「あぁ、聞いたことある気がしますね」
「ゲームには穴がある。ハットはその穴を見つける事に長けていたんだ。元々ゲーム制作者らしくてな」
「穴?」
その話で言うと、ジャックさん達との冒険で似たような事を思った記憶がある。この世界には穴があるから、そこを突けば簡単に上まで行けるみたいな、そんな記憶だ。
それみたいな感じで、簡単にレベルが上がる場所を知っていたり、簡単にお金を稼げる方法を知っていたりするのだろうか。
「沢山の方法がデータに残っていたよ。例えば、『始まりの大地』にいる金蜘蛛をデカゴブリンが生息する洞窟の特定の場所で倒すと、必ず川の中流に再出現するとかな」
「え?」
「他にもアイテムを無限に増殖させる方法や、一部の称号を不正なやり方で簡単に取得する方法など様々な事が書いてあった」
「なるほど……それは確かに」
「金蜘蛛が彼らの悪事の象徴だ。不具合を発見出来た事が嬉しくてしょうがないんだろう」
そういう方向性か。つまりシステムのバグみたいなのを利用して色々と得をしたって事なのかな?
でも、それ自体はそこまで悪い事でもないような気がしないでもない。いや、悪いのか?
それが良いか悪いかは分からんが、生贄の儀式は間違いなく悪事だろう。それ自体の問題とごっちゃにするとよく分からなくなりそうだ。
「警察にも提出してきたよ。その情報」
「良いんですか?知らせちゃっても」
「そして金蜘蛛の情報だけはネットにも載せておいた。だから今頃、『始まりの大地』は大パニックになっているはずだな」
「《金蜘蛛の心臓》の取り方教えちゃったんですか?え?誰でも出来るじゃないですか、それ」
「そこからの展開はまだ不明だが、私が考えるに金蜘蛛を国などの機関が保護する事になると思うんだ。幸いにも金蜘蛛はダンジョンに一匹しか存在できないモンスターだからな。つまりはその一匹さえ守ってあげれば、心臓の乱獲が起こる事はない」
「でも国がやってくれますかね?」
「ハハハ……ゴーパーだと色々と面倒なんだ。本物の金蜘蛛がここに住み着いてくれれば、あらゆる問題が解決し!我々はカジノオーナーの立場を絶対的な物にする事が出来る!あとは根回しだ、ここからが私の本当の仕事なんだ!!国に私たちが働きかければ絶対に可能だ!」
いつもはクールなブラックさんが相当ホットになっている。ここからが本番って感じだろうか。俺的にもブラックさんが権力を持ってくれれば、自分が望む社会を近付ける事が出来るのだ。
「協力出来る事があったら言ってください。俺も手伝います」
「そうか。なら、ゴーパーをまたここに住まわせてくれないか?」
「あぁ、ゴーパー的には?どう?」
「俺は一向に構わないぜ!キシシ」
「それじゃあ【召喚】」
ゴーパーも自由になれて、俺は頑張らないでブラックさんに協力出来てって感じでこれはお互いが得をしている。良い感じだ。
「また機会が有れば君を呼ぶよ。その時までに無罪判決が出ると良いな」
「裁判……はぁ、なんてこった」
「さよなら。後は君の問題だ。作戦に従わなかった罰だと考えてくれれば良いよ」
俺は部屋を出て行く。あの子を助ける事によって背負った罰なら、それはそれで良いだろう。
何もなしで救える訳がないからな。自分の気持ちを優先して、少女を救った。それだけでもう十分だ。
カジノを出ていき、事務所まで戻ってくると、そこには身長が4、5メートルほどある巨人がいた。なんか、知っているような知らないような。知ってるか。
「君が羽山健人君か」
「あ、はい。どちら様……」
「我はキングだ。お前にはクインを殺した容疑が掛かっている。向こうで詳しく話をしようじゃないか」
「なるほど」
目の前にいた馬鹿でかい筋肉ムキムキの男性はキングだった。俺的には最後のS級冒険者だ。
王様みたいな真っ赤なマントを付けていて、全身にはシンプルのデザインの金の鎧を身に付けている。そして俺からしたら大剣サイズの片手剣を腰に挿している。
どうしてこんなに背が高いんだろう?これもまた特別なベーススキルか何かだろうか。
2人で街の中を歩く。キングは身長がある影響でとにかく目立ち、行く先々の人達から手を振られていた。キングはそれに愛想良く振り返す。一応俺も冒険者だし振っておく。
みんなから慕われている雰囲気があり、そんなに悪い奴には思えなかった。クインとか最初っから傲慢だったけど、キングはそうでもない。
「俺に何の用ですか?キングさん」
「……」
「あの、知ってたんですよね?儀式。なんであれを放置してたんですか?」
「……ここはまだ話す場ではない。黙って着いてこい」
話が通じないような相手か?それとも意外と分かってくれる人か?多分この人にも協力してもらわないと俺の願望は叶わないから、出来る限り穏便に良い感じに収めたいところではあるが、戦う事になる可能性は十分にある。
そのまま歩き続け、人気の全くないところまでやってきた。そこにある5階ぐらいのビルに2人で入る。マジで危ない雰囲気。複数人でボコボコにされる可能性が高い。怖い。
階段を登り3階まで行くと、キングが階段近くにある扉をガチャっと開けた。しかし中には誰もいない。
なんでもない、普通のビルの一室だ。窓からは人通りの少ない通りが見える。
2人で話すのか?困惑したままの俺が扉を閉めると、目の前の超大男は俺に対して土下座をしてきた。え?
「え、あ、あの?どうして?」
「まずはありがとう!君が生贄の儀式を終わらせてくれたんだろう!?まずはそれに感謝する!」
「い、いや、頭を上げてください」
地面に擦り付けるほど土下座をしているキング。それを止める為に、俺も片膝を付き、キングの頭を持ち上げようとするが、重たい!筋肉が違う!動く気配がない!
「そしてすまない!!我は君の事を殺さなければならない!」
「え!?今度はなんですか!」
「さぁ、刃を交えるとしよう。【爆独楽】!」
「が、ガード!」
キングは腰に差していた剣を抜いて、その場をグルグルと回転し連続攻撃を浴びせてきた。
ギリギリのところで間に合ったガードと、攻撃を無効化するスキルのお陰で致命傷を負わずには済んだが、この一瞬で5万もダメージを受けてしまった。異常に強い。
はぁ……なるほどな。そっちの方が裁判よりは楽だ。
覚悟を決めた俺は【鉄人化】を発動する。絶対にここで死ぬ訳にはいかない!!
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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後もう少しで完結です!