第81話 みんなも
ブラックさんが言っていた通り、俺が解放されたのは翌朝だった。しかも本来ならもっと拘留される予定だったが、俺が有名な冒険者である事を理由に解放された。
俺にはまだよく分かっていないが、やっぱり冒険者には特権があるようだ。怖い。
だから、ブラックさんはまだ警察署の中にいる。ハットが生贄の儀式を行なっている証拠は揃っていると言っていたので、そっちの心配はしなくても大丈夫そうだ。
クインの件に関してはまだどうなるのか分からない。分からなすぎるから事務所に帰ろう……疲れた、トホホ……
「ただいま帰りましたー……」
事務所に居たのはアーローさんとその他沢山の冒険者達。名前の知らない人から、名前だけは知っている人まで様々いる。本当に捕まっちゃったらここにいるみんなにも迷惑かけちゃうのかなぁ、嫌じゃ。
「お疲れ様ですので。話は色々と聞きましたよ」
「え?誰から?」
「あの、ブラックさんからなので。とにかくクインは倒せたようで何よりです」
「まぁ、一応そうですね」
「貴方にとっては残念なお知らせかもしれませんが、明日選挙がありますので。備えておいてください」
こんな時に選挙。冒険者も色々と大変ですね。
事務所の中はいつもと何にも変わらない。しかし、さっきまで俺が居た場所がおかしすぎたせいか、いつもよりも安心出来る。
「そういえば。昨日の事なんですけど」
「え?何かありました?」
「実はネットではあの事件が広まっていますので。もうすでにおかしなメッセージなども沢山来ていますのでご注意を」
「……殺されるかも?って事ですか?」
「違いますので。貴方の熱狂的な信者が生まれたので。秘密結社の事は都市伝説的に有名だったのでね」
熱狂的な信者なら別に良いのかな?とか思った。そんなに悪い人じゃないだろうし。知らないけど。
「ちょっと、一回家に帰ります。もし何かあったら連絡してください。流石に疲れました」
「お疲れ様なので。ゆっくり休んでください」
「アーローさんもお疲れ様です。これから大変ですよ、多分」
色々と考えてもしょうがないので、ひとまず家に帰る事にする。アルダードもストームも心配している可能性がある。
何にも連絡せずに出発しちゃったな。なんか一言ぐらい言っておけば良かった。
「【転移】」
転移をして大大豪邸へと帰ってくる。自然の中で静かで良い場所だ。空気がきれ
「あぁー!帰ってきたぁー!」
「ぐはぁ!」
豪邸の入り口に居ると、ストームが突風のようにやってきて、思いっきり俺に抱きついてくる。その衝撃で倒れてしまい、コロコロコロコロと坂を転がり落ちそうになった。
「あららー!ごめんねー!」
ストームは俺を風で持ち上げた。このまま山から滑落して最終的に死んでしまうところだった……
もう一度入り口近くに戻り、冷静になったストームと一緒に豪邸の中へと入っていく。
「おぉ!帰ってきたのか羽山健人!」
「連絡してなかったね。申し訳ない」
「何があったのだ!きっとまた無理を言われたのだろう?」
見透かされていた俺は、昨日の出来事を簡潔に2人に説明する。この2人はどっちもリアクションが大きくて話してて面白かったが、生贄の儀式の話をした時にはストームの様子が少し変になった。
いつもは楽しそうな表情をしているストームは眉をひそめるような顔をする。辛そうでもある。
全部を説明し終わった後、その違和感が気になったので、ストームに聞いてみた。
「ストームも知ってる?儀式の事」
「えー、うー、知ってるよ」
「ソルド?」
「そう。マスターと一緒に見た事があったから……マスターはアレ嫌いだったよ。まぁ!ワタシ後から使役された人だから詳しい事は分かんないけどね!」
「そっかぁ」
みんながみんな好きって訳じゃないんだ。ハットが好んでいた儀式に付き合わされていた、っていうだけか?
というか、あの儀式の会場にはソルドもクインも行った事がある?そうなると本当に大きな権力を持っているって事になっちゃう?他にも知ってる事あるかな。
「えっと、他には?ジャックさんとかキングとか居た?」
「居たよー!多分!……メイルちゃんも居たかなぁ?」
「……マジかぁー。え、それって本当に?」
「ホントだよー!」
まさかまさかだ。キングがあの会場に行っていた事、それはまだ俺の想定内だけど、ジャックさんもメイルさんも行った事があるなんて。マジでなんか嫌な気分じゃ。
大人の事情ってやつなのかもしれない。しょうがないのかもしれないけど、ショックである事には間違いないな。
「あれ?コッパーさんは?」
「コッパー?あぁ!彼女は聖職者だから行かないんだって?」
「あぁ良かった」
そういえばコッパーさんって宗教的な人だったな。金蜘蛛を信仰している宗教に踏み入るのは嫌だったんだろう。
色々と複雑だったが、前と変わらない感じで接するように努める事を決めた。ハットの持っている力がなんなのかはよく分からないけど、なんか難しい色々があったんでしょう、そう考えよう。
「お前も大変だな!」
「大変だよぉ。捕まりたくないし……」
「捕まりそうになったら逃げればいい!お前ならダンジョンでも暮らしていけるだろう!」
「ご飯とかどうするのよ。人間はご飯食べないと死んじゃうから」
「お前もなのか!?本当にか?」
「え?多分」
ご飯食べなくても良いなんて事ないよね?俺はリジェネを持っているけど、流石にご飯は食べないと死んじゃうんじゃないかな?
今まで試した事がなかったので、実際のところどうなるのかはよく分からない。ちょっと試してみようかな。
本当に本当にどうしようもなくなったらダンジョンに逃げよう。正直、社会が怖くなってきた。ダメそうなら逃げよ……いやぁ、でも約束が。
色々と落ち込んでしまって、もうダメだー、みたいに思っていたけど約束の事を思い出してモチベーションが上がる。
とにかく俺は約束を守る為に生きれば良いんだ。それ以外の難しい事は何にもいらない。とにかくローズとゴーパーと。あ。そうだ。
「あの、2人に言いたい事があるんだけど大丈夫?」
「なになにー?話の続きー?」
「なんだ!言ってみろ!」
「前はローズさんだけに約束してたけど、アルダードもストームもゴーパーもみんなも、人間みたいに生きられるような社会を作るって事を一回ちゃんと約束しておこうと思って」
「キッシシ!ちゃんと覚えてたか!」
「私も!?やったー!」
「本当なのか?冗談では無かったんだな!」
「約束するよ。みんなが人間みたいに生きられる社会を作るって」
昔と一緒だ。俺は昔っから一つの目標があれば、それを達成する事さえ出来れば、その他の事は割とどうでも良かったのだ。
昔は健康だったけど今は約束だ。きっと問題ないだろう、守れるだろう。
根拠のない自信が湧いてきて、不安やモヤモヤが吹き飛んでいく。俺は俺がやるべき事をやるだけだ。周りなんて関係ない。
俺の近くにいる人がどんな人であってもどうでも良い。やるべき事は約束を守るという事、ただ一つだけだ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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