第80話 終わり良ければすべて良し
息の根が止まったクインの近くにいてもしょうがないので、俺はみんなの後を追いかけようと考えたが、どこにいるのかは分からない。
広いパーティー会場の廊下をちょっと見ていても、そこには誰もおらず、完全にみんなの避難が済んでしまったようだ。避難が済んだという事は、逃げられたという事だろう。
つまりは、俺がやった事はやっぱり間違っていた(?)という事だ。これが俺の運命かぁ。
「はぁ……疲れたぁ……」
身体的には全く疲れていないが、気持ちがもう疲れに疲れた。なーんか、大変な1日だったなぁ、まだ問題は解決してないし、これからもきっと大変なんだろうなぁ。はぁ……
嫌になりながら会場にあったフルーツ盛り合わせをパクパクと食べる。どうしよ?
「驚いたな」
「うわぁ!!?」
「驚いたな」という声に驚いた。声の主はブラックさん。前に会った時と同じように、スパイみたいな格好をして俺の背後に立っている。
「君のお陰で色々な物を取り逃してしまったよ」
「あ、それは、本当に申し訳ない……これからも手伝います……あ、いや、もしかしたら俺なんて必要ないかもしれないのかもしれないですけど」
「ハットも逃げた。裁判で勝つには証拠が不十分だ。君がやった事も悪い解釈されるかもしれないね」
「え?クインを殺した事が?」
俺には警察的な権限があるから、トラブルを起こしている相手だったり、犯罪を犯している相手で有れば最悪殺しても良い、と思っていた。
でも、俺たちの意見が間違っていて、相手の意見が正しいとなってしまったら、俺が犯罪者になるのか?
「いずれハットを捕らえる事は出来るだろう。もう既に様々な証拠を押さえているよ。忌々しい現場の映像だ」
「あぁ、え?でもそれなら」
「残念ながら裁判官の中にもハットに影響されている人間がいる。それに、警察の中にもだ。もっと決定的な証拠が無ければきっと君は有罪だ」
「……えー……」
トリガーラッキーさんに言われたから安心して殺したのに、まさか今回の事が大問題になる可能性があるなんて。
もっともっと深くトリガーラッキーさんを信じるのであれば、今回の事もなんとか解決して、SSS級冒険者とやらになるんだろうけど、そこまで信じ……てみるか。
「ハットってどうしてそんなに権力を持ってるんですか?そんなに大した人じゃなさそうでしたけど」
「君には《金蜘蛛の心臓》を頼んだ事があるよね」
「あぁ、あの。ゴーパーと出会ったキッカケの」
「正確な情報はまだ私たちにも分からないが、彼はそれを複製する事が出来ると言われている」
「えー!あれって数千万グルしますよね?」
「そうだな。調べたのか?」
「まぁ、秘書さんが」
なるほどなぁ。確かにそれは相当な権力を持っててもおかしくないなぁ。
だってそれってお金を生み出せるのと一緒だし、《金蜘蛛の心臓》が欲しいと思う人はハットに従わざるを得ない。
「生贄の儀式をしているのは、《金蜘蛛の心臓》を集めるのにはこれが必要だ、とハットが言い張ってるからなんだ。全員が全員これを楽しんでいる訳ではない」
「……ブラックさんもですか?」
「当たり前だ。バカを言うなよ」
それなら良かった。というか、止めようとしてるんだし当たり前か。
少女は犠牲にならざるを得ない。その話を丹羽さんから聞いた時は、本当に心の底から軽蔑しそうになったが、この2人にもマジで色々あったんだろうし、実際に計画に問題が発生してしまっているしで、何にも言えなくなっちゃった。あと、一応多分女の子も救えたし……救えたよな?
「まぁ……えっと、これからどうするんですか?」
「ひとまずは警察のお世話になる。詳しい事情を聞かれるだろうが、全てに正直に答えてくれれば良い。私も正直に話す」
「そうですか……丹羽さんは?」
「丹羽は逃げたよ。アイツは臆病者だからな。ハハ」
逃げた。ブラックさんは良い人だってアーローさんが言ってたけど、丹羽さんの人格に付いては知らない。
あの人って結局良い人だったのか悪い人だったのかよく分からなかったな。会える事なら会いたいけど、会うキッカケも無さそうだ。
「じゃあ、丹羽さんの事は秘密に?」
「いや、正直に答えてくれて良い。警察に見つかるような男じゃないからな」
「えー、でもそれって」
「分かってる。私たちにとっては不利な情報だ。だから不十分なんだな」
「いやぁ、申し訳ない……」
最終的には俺の感情だったから、やった事が間違いである側面なんてめちゃくちゃあったはず……あぁ!!もういい!十分反省するべきなのは分かったから、とりあえず今はこの現実を受け入れよう。もしかしたら捕まるかもしれない現実を。
「キッシシ!やっぱりここに居たか!」
「あ!ゴーパー!ローズさんも」
聞き馴染みのある笑い声が会場の入り口近くから聞こえたので、そちらの方へと振り向くと、ゴーパーとローズさんの2人がそこにいた。
少女がいない。一体どこに?2人の様子からしてもそんなに悪い事は起こってなさそうだけど。
「あの子は?」
「キシシ。俺たちが怖くて泣いてるぜ?俺らはモンスターだからな?」
「……とりあえずありがとね。それじゃあ戻る?」
「私はもう戻りたい。疲れたから」
「キシシ!俺ももう十分自由になったな!」
「なら、【召喚解除】」
あとはもう警察の人に任せてしまえばいいだろう。
外の空気が吸いたくなった俺は、バルコニー的な場所から外を眺める。月はまだ空に居たが随分と動いてしまっていた。
風が気持ちいい。後悔なんてないけど、俺の背中に今まで背負った事のない重荷があるのは感じる。
捕まりたくないなぁ、やっぱり勢いで行動するのは……でもなぁ、流石に助けるよな。
今まで大事にしてきた価値観に自信がなくなってくる。人が苦しんでいるところなんて誰も見たくないと思っていたし、モンスターが苦しんでいる事を知ったらみんなも分かってくれると思ってたけど、そんな事も無さそうだ。
S級冒険者に俺がなった時、どんな案を政治家達に退出するべきなんだろう。
考えても考えても答えは出ない。そんな中、パトカーのピーポーピーポーという音がここまで聞こえてきた。
なので室内に戻る。お迎えが来ましたね。
「あの、到着したみたいですよ」
「そうだな。今日は長くなるぞ」
「長くなる?」
「警察が調書を作る時には数時間かかる。今からなら当たり前のように朝までだ。眠れないよ」
「俺はそもそも眠らないので。そこはご心配なく」
「不思議な体質だな。羨ましい限りだ」
さっきまでの騒ぎがウソのように静かになっていたパーティー会場に、僅かな喧騒が戻ってくる気配がする。
今日の夜起こった事全てがまるで夢のようで、自分が実際に体験したこの世界の出来事であるという実感が全く湧いてこない。
人の死を、少女の悲鳴を、儀式を、生贄を望んでいたみんなの腹の底から吐き出しているような歓声。
狂気の中で現実と向き合っていたという感覚自体はそこまで悪い物ではなくて、もしかすると自分もその他大勢の悪い奴になっていたのかもしれないという気がしてくる。
終わり良ければすべて良し。祭りの後の感傷に少女の悲鳴が思い浮かび、たまたまだったと自覚する。
俺があの子を救えたのは偶然だ。なぜなら、俺だって少しはこの会を楽しんでいたからだ。
吐きそうな現実を見つめながら、入り口からやってくる警察に頭を下げておいた。俺の印象良くなれ!!
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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