第79話 石化
ハットを殴り飛ばしてしまってから正気を取り戻すには多少の時間がかかったが、なんとか正常(?)な状態に戻り、少女をどうにかしなければ、と思うようになる。
しかし、この少女は泣きじゃくっていて正常じゃない。あぁ、結局俺はどうすれば良かったんだ?
「あの、立てる?歩ける?」
返事はないまま泣き続けている。なら仕方ない、と彼女を持ち上げようとしたが、抵抗されてしまい中々上手くいかない。そんな事をやっている内に玉座の辺りに警備員らしき人達が集まってきた。うわぁ、どうしたら良いんだ。
真っ暗な会場内もパニックで、出口やバルコニー的な場所に人が殺到している。2階から飛び降りてでも逃げ出したい人が沢山だ。高貴だね。
「あの、ゴーパー?この子を守るとか出来る?どう?」
「キシシ。俺がコイツをどうやって守るって言うんだ?」
「そう……なら、ローズ。任せても大丈夫?」
「え?私?」
「そう。【召喚】」
ローズなら人型だし、この子を持ち上げる事も出来るだろうし、ゴーパーよりは守る能力も高そうだし。もう正直やってしまった以上は身内への迷惑とかよりもこの場を収める事を重視するべきだ。
凄い身勝手な人だぁ。ブラックさんも丹羽さんもコレを止めようと頑張ってるのに、ただの個人の感情でトラブルを起こしたりして。はぁ……ダメだぁ……
なんだか冷静になる。冷静になってる場合じゃない。
「どうしたら?」
「とりあえず……その子を安全そうな場所に連れてって?無理そうなら戦闘に巻き込まれないように……ゴーパーも手伝ってあげて」
「キッシシ!それなら良いぜ!」
「おいお前!!自分が何をしているのか分かってるのか!!」
「……知ってるなら教えてくれ。俺にも分かってない」
ローズとゴーパーに怯え切った少女を任せて、俺は警備員達と対峙する。とは言え俺がやる事は至ってシンプルだ。
「【雷脚】!!」
会場にいきなり現れた大きな大きな雷の脚は、その人達を薙ぎ倒して、すぐに無力化してしまう。コレだけならあの子を俺が助けても良かったんだけど、問題はこれからだ。この会場にはクインが居る。
ローズ達はもうすでに玉座の近くから姿を消して、守る為に頑張っている。ここから広い豪華でパーティーが優雅に行われていた場所を見渡すと、おそらくまだ人がいる。そして、その中にはやっぱりクインがいた。会場の真ん中ぐらいで、両手を前に揃えながらお淑やかに光る瞳でこちらを見ていた。
「【石化】」
俺と目が合った暗い中でもキラキラした瞳のクインがスキルを使うと、会場に僅かに残っていた、逃げ遅れた十数名の男女が石になってしまう。その石像は直ぐに砂のようにサラサラと崩れた。
例の能力だ。どんな相手でも一撃で、見ただけで倒せるというなら、それは本当に恐ろしい能力だ。S級に相応しい。
「貴方運が良いのね?石化耐性なんてマイナーなベーススキル持ってるの?」
「そんなの無いですよ。どうせ負けるので、諦めてください」
「は?たまたま一度石化を逃れられたくらいで何?私の能力はぁ、こんなもんじゃないんだよ!!【石化】!!」
またもや相手はそのスキルを発動してきたが、不思議な事に俺には効かな……ん?あれ?もしかしてコレってたまたま?
ゴーパーのベーススキルでたまたま防げてるだけで、その確率を超えるような事があったら、俺は普通に死んでいたのか?もしかして本当に運が良いだけ?
背中にびっしゃりと汗が流れてくる。あ、俺、間一髪生きているだけで、普通に死んでいる未来もあったのか?
「な!なんでよ!本当に運が良いのね貴方!!」
「あ、あぁ、そうかもしれない……いや!話してる場合じゃない!」
「はぁ!?ふざけないで……【石化】!」
また何事もなくその攻撃を躱したが、焦り始めた俺は全力でクインに向かって走っていく。運命的には大丈夫なんだろうけど、こんなに死ぬかもしれないリスクがある行為をするのは流石に怖い。短期決戦だ!
「【雷脚】!!」
ある程度近付いた所で、そのスキルを放つ。マジで便利なスキルだ。今の俺はハンマーも持っていないし、鎧を身に付けてもいないから、これが1番良い攻撃手段だ。手っ取り早い。
「良い加減にしなさいよ!!アンタみたいな運だけの人間に負ける訳には行かないのよ!【石化】!」
しかし、クインは俺が出現させた雷の脚を石化させ、砂のようなサラサラと崩壊させてしまう。なるほど、スキルも石化の対象なのか……これは、接近戦しかないのか?
それなら、と思い、スマホの画面をポチポチ弄り、5億の鎧とハンマーを装備する。相手はS級冒険者だ。油断してはいけない。
「だからなに!?そんなの無駄!!【石化】!」
その言葉の後、俺が持っていたハンマーが石になりサラサラと消え去ってしまった。しかし、鎧は無事だ。あぶねー、5億グルが無駄になる所だった、危なかった。
どうにもこれは肉弾戦しか有り得ないようだ。相手も装備を身に付けていない。俺は鎧しか着ていない。
さっきと全く一緒だ。問題はどっちが早いか、俺が早いはずだが、それでも不安だ。
「なら、これでも喰らえ!【殴打】!」
「【硬化】。そんなの効かねーよ!クソ雑魚!【石化】!」
「クソ!なら【一蹴】!」
「だから効かないって言ってんだろ!!【石化】!」
「俺にも効かねーよ!このやろ!【殴打】!」
明らかに何かがおかしい。なんで俺はこんなに運が良いんだ?これは、間違いなく神様が俺の味方をしてくれているのか?本当に?
こんなスピリチュアルな事を信じるなんて、いや、そもそも《運命》自体が相当スピリチュアルか?
余計な事を考えながらも、なんとなくこの状況を打破する手段を考察する。とりあえずハンマーはもうない。
【殴打】や、【一蹴】も決定打にはなり得ない。それならやっぱりストームの技で蹴りを付けるしかなさそうだ。
「なんで!なんでアンタには私の攻撃が聞かないのよ!【石化】!」
「【雷脚】!」
相手が【石化】を発動したタイミングで、相手の背後に雷の脚を出現させる。すると自然とクインは後ろを向く訳だが、そこにもう一度【雷脚】を発動する。
「【石化】!【石化】!あぁー!もぉ!なんなんだんだよてめーわ!」
「【雷脚】」
「はぁ……【石化】!」
クインから疲れたような雰囲気が出てきた。それが単なる気持ちの問題なのか、それともステータスの問題なのかは俺には分からん。しかし、これ以外に出来る事がホントにないのだ。
いやぁ、本当にジャックさんの所に行っておいて良かった。
「【波紋化】!」
あらゆる手段で敵のスタミナを削るべきだ。俺もMPには限界がある。しかし、俺が持ってるスキルなんてほとんどMPを消費しない物がほとんどだ。なんとかはなるはず。まだまだ残りも沢山ある。
「しつこいんだよ!【石化】」
「【殴打】!喰らえ!【一蹴】!」
【波紋化】と【殴打】と【一蹴】で体制が崩れた相手に向かって、身に付けていた両方の籠手を投げつける。何千万の価値があるはずの籠手だ。
「また……【石化】」
「【雷脚】!」
前と同じく、相手の背後に大きな雷の脚を出現させ、奇襲を狙う。相手もただの冒険者ではない。なので、こんなにグシャグシャの状況であってもしっかり背後を振り向き、俺に背中を向ける。
「良い加減諦めろ!【|石」
「っしゃっ!」
相手が振り向いたその瞬間、【石化】を発動する直前に、クインの両眼を両手で塞ぐ。これで相手のスキルは無効化されるはずだ。
後ろから頭を抱きしめているような状態になっている。南無三!
「【石化】!」
俺が出現させた雷の脚は、その言葉の後にもここに残り続けている。そして、クインと、彼女に抱きついたような体勢になっている俺の2人を思いっきり吹き飛ばした。
後ろから抱きついたような状態の俺は、そのまま首に腕を移動させる。クインは息苦しそうな、声にもならない声を上げていた。
「かぁ……やぁ……て……」
「ごめんな。これが俺とお前の運命なんだ」
しばらくそのまま喉に生き物の感触を感じていたが、それはやがて硬くなり生き物では無くなってしまった。
はぁ……最悪の気分だ。まるで殺人鬼みたいじゃないか、俺は。ソルドの時よりも醜い殺し方で、俺はクインを殺した。
さっきまであんなに賑やかだったのに、さっきまであんなに怒っていたのに、この空間は完全なる落ち着きを取り戻していた。空間が死んでしまったみたいだ。
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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