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第76話 生贄の儀式

 

「それじゃあまた後で合流しよう」

「え?もう?」

「健闘を祈る。羽山健人」


 そう言ったブラックさんは窓から外へと出て行く。そして、まるで蜘蛛のように壁を登っていき、屋根の上まで移動した。アメイジング!

 いつもこんな感じだな。トリガーラッキーさんが関わってなくても振り回されてしまうっていうのは、俺がそういう運命にあるという事だろうか?

 また2人に戻った俺たち。俺はここでずっと待ってるらしいけど、丹羽さんは何するんだろう。


「丹羽さんは?」

「僕もしばらくしたらここを出て行く。君を1人にしてごめんね」

「いやいや、そんな気にしないでください。えっと、俺は指示に従ってればいいんですよね?」

「そう。難しい事は考えなくても良いから。儀式の時、金蜘蛛の近くに居ればそれで良い」


 ニッコリと笑う丹羽さん。ブラックさんもそうだけど、結局良い人なのか悪い人なのかは分かりにくいな。

 さっき広場の混乱を収める事が出来たのは、裏での仕事をする事に慣れているからだと推測する。きっと、色んな物を見てきてるんだろうな。


「……儀式って生贄の儀式ですか?」

「そうだよ……」

「何の目的ですか?誰に捧げるんですか?」

「金蜘蛛に感謝をする為に、金蜘蛛に捧げるんだよ」

「人?」

「人。子供。女の子」


 衝動事故が起こったみたいに頭がクラッシュしそうになったが、それで分かった。俺がやるべき事が分かった。はぁ、なんで……

 ゴーパーを召喚する俺は、きっとその儀式を最前線で見る事になるはずだ。つまり俺には、丹羽さんにも、ブラックさんにも出来ない事が出来るはずだ。その儀式を止める事が出来るはずだ。

 最初っからそう言ってくれ、面倒。


「分かりました。止めれば良いんですね」

「いや、止めなくて良い。儀式が終わったタイミングで僕たちが会場の明かりを全て消す」

「……え?どういう事ですか?」

「言いたい事は分かる。けど、これが作戦だよ。より多くの人を助ける為の作戦だ。無駄な事はしないでくれよ。僕たちも沢山の悲鳴を聞いてきた」


 少し信頼していた丹羽さんとブラックさんのイメージがガラガラと崩れた、特にブラックの方が崩れた。

 言いたい事を全て言い終わった丹羽は、この部屋の扉を開けて、外へと出て行く。物置みたいな部屋に置かれた俺はただただ呆然と、呆れて心が消えてしまった。

 女の子が生贄の儀式に使われるのを黙って見てろって?どういう事だよ。


「健人……」

「俺は止めるよ。だって」

「キッシシ!無駄な事して被害が広がったらどうするつもりだ?ここで全部終わらせる為には犠牲が必要だろ」

「でも、女の子だから」

「キッシシシシ!!なら俺たちはどうなるんだ?俺たちモンスターは生まれて数日も経たない内に殺されるんだぞ!?モンスターを殺せるなら子供ぐらい殺せるだろ!」

「いや」

「それとも!お前もなのか?お前にとってもモンスターは単なるモンスターでしかないのか?」


 俺は困惑している。事態が整理できていない。生贄になる女の子を助ける必要はある。しかし、俺が適当な事やって、ここにいる連中が捕まらずに、同じような儀式がまた繰り返されるなら、結果的に俺の行動は敵を助ける事になる。

 まだ知らない、何にも関わりがない女の子だ。名前も知らない。それに、確かに俺はモンスターを殺しているし、モンスターが殺されている現状を良しとしている。

 ゴーパーの言う事は確かだ。もっと言えば、俺がモンスターと人間を平等に見ていないのも、確かだ。


「分かった。いや、分からない。結局、俺がどうするのかは分からないけど、とりあえずは丹羽さんに従って……いや」

「キッシシ!今更人が死ぬのを嫌がるのか?既に人殺しだぜ?お前は」

「そう。そうだ。でも……間違っていたとしても……助けたいと思ったら絶対助けるからな。やると決めたら絶対に助けるから、その時には作戦もクソもないよ」

「キシシ。どうするんだ?作戦に従うのか?」

「従う事にする。でも、従いたくないって思ったらいつでも逆らうよ。その後始末も」


 俺なんかよりも考えてるんだ。丹羽さんもブラックさんもゴーパーもみんな。俺よりもちゃんと悩んでいる中で、この計画を考えてるはずなんだ。

 この儀式自体を止めようとしているって事は、良い人であるはずなんだ。だから、この作戦も悪い物ではないはずなんだ。でも、最終的に全てを決めるのは俺だ。俺が助けたいと思ったら、どれだけバカな行動だったとしても、それによってここにいる奴らに逃げられたとしても俺は助ける。

 そして、その後始末はする。人生を賭けても?そこまでの覚悟があるのかは分からないが、どうなっても結局は俺が決める。


「私に手伝える事があったら言って?」

「うん。というか、アルダードとストームも呼んでおいた方がいいかもしれないね。あんまり気を遣ってばかりいられる状況でも無くなってきた」

「そうだな!ストームなら掻き乱してくれるだろうよ」


 ストームはS級ダンジョンのボスだから、きっととんでもない力を持っているはずだ。今はその力に頼るべきかもしれない。

 これから最初っから連絡しておけば良かったなぁ、何で変な意地張ってたんだろ?生贄の儀式をしている秘密結社に潜入するっていうのはなんとなく分かってたんだし。

 後悔していると、俺がいる物置らしき部屋の扉が開き、シルクハット姿のおじさんが入ってくる。いやぁ、タイミングも悪いのか。ツイてないな。


「お待たせいたしましたぁ。ささ、金蜘蛛様の出番が近づいております。ワタクシがご案内させて頂きますのでどうぞこちらへ」

「……何をすれば?」

「会場ではしばらくの間、舞踏の時間を設けております。それが終わったのちに、玉座の前で金蜘蛛様を崇め奉る為の儀式を執り行わせて頂きますぅ」

「……」

「羽山健人様の最近のご活躍はワタクシ共にとっても驚くべき物でしてねぇ?将来のS級冒険者なのではないか?という話を様々な方とするのですよ。金蜘蛛の御加護もありますしね?えぇ」


 俺に低姿勢で接しているが、必要なのは金蜘蛛なんだろう。もちろん、自分の意に反する事をするなんてよくある事だが、今はコイツのこの態度にイライラして仕方がない。

 金蜘蛛にしか興味がないのか?金蜘蛛を信仰できればそれ以外はなんでも良いのか?尊厳も人間性も優しさもそこにはないのか?

 純粋に金蜘蛛の為だけに生きているのだとしたら、コイツはモンスターよりもモンスターだ。一つの基準だけで動く機械。感情がないんだ。決められた事しか出来ない機械……

 人間になりたい、とローズは言うが、人間になるなんて簡単に言わない方が良いのかもしれない。なぜなら、人間は時にモンスターよりも醜く汚い。ウザい、気持ちが悪い、生きている価値がない。


「一つだけ良いですか?」

「何でしょうか?ワタクシにご不満がありましたか?」

「俺と金蜘蛛は別です。俺に対して丁寧な対応する必要なんてないですよ」

「はぁ……?と言いますと?」

「そんなに畏まらなくても良いですよ?って事です。俺なんて知らなかったでしょ?」

「いえいえ、そのような事は」

「対等に接しましょうよ。ね」

「……ワタクシ共はゲストを招待している身で御座いますから。礼を欠く訳にはいきません」

「そうですか」


 上も下も関係あるか。俺はムカついたらコイツを殴る。

 冒険者の権限を使って殺してやる。こんな人間いない方がマシだ。


読んでいただきありがとうございました!!

何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!

ランキングに乗りたいのでブックマークや評価などしていただけると嬉しいです!他の人に広めてもらえたりなども嬉しいです!


ブックマークや評価等とても嬉しいです!ありがとうございました!

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