第75話 バルコニー的な場所でゆったり
ゴーパーの騒動があった後、周囲からの視線に耐えられなくなった俺は2階のベランダ?いや、もっときっと高貴な名前を持つバルコニー的な場所で外を眺めていた。
ここは正直田舎だ。だから、暗くなってきている空に星がキラキラと浮かんでいるのが分かる。
都会よりも星が綺麗だー、もうそろそろ満月になりそうな月もあって、外は結構明るい。
「ゴーパーは自由だね。普通は思ってても言えないよ」
「キシシ。本当に俺が自由に見えてんのか?」
「え?」
俺にはゴーパーが自由に見えている。その質問の意味はすぐには分からなかったが、しばらく考えてみると、確かにゴーパーは自由ではなかった。
「まぁ、いつか自由になれるから。きっと」
「そうか?ローズだけじゃなくて俺も頼むぜ?」
「ま、まぁ、なんとかするよ。多分」
俺が設けている最低ラインはローズを幸せにする事だから、極端な話他のみんなが召喚獣として生きていく事になっても仕方がないと微かに思っている。
はぁ、これ以上仕事を増やしたくはないけどこんな事言っちゃった訳だし、他のみんなは周りにいないしだからゴーパーとも約束するか。
「分かった。じゃあ、一回ちゃんと約束しよう。ちょっとだけ【召喚】」
「良いのか?まだなんだろ?俺の出番は」
「ちょっとだけ」
月や星の微かな光をゴーパーの金の身体が反射する。綺麗な生き物だな。きっと、綺麗に見えるようにデザインされているんだろうけど、それにしても本当に輝いている。
魔法がかかっているみたいなゴーパーの周辺。その身体に歪んで反射する俺。室内の賑やかな音楽は未だに聴こえてくるがここは静かだ。
「ゴーパーが自由に生きられるような社会を作ります。約束ね」
「キッシシ!他のみんなにもしてやれよ!」
「うーん、でも……」
「してあげてよ。健人」
ローズさんは他人に共感する能力が高い。だから、自分だけが得をするよりかはみんなで得をする社会を理想とするんだ。
今まで静かにしていたローズが言いたい事を言う為に口を開いた。これは、相当なお願いだな。実は気持ちこもってる。
「分かった!後でみんなにも約束するわ。これ以上使役するつもりもないし、とりあえずみんなだけは自由に生きられるようにする」
「よく言ったな!約束だぞ!」
「約束するよ」
ホントの話をするとこの約束が果たせる自信はない。ローズは姿が人間だから社会の中に溶け込んでいたとしてもおかしくないし、ストームも人型だし、そもそも人懐っこいから何となく社会の中で役割を得られるイメージはある。
小手先じゃなくて、根本の部分を変えないとダメそうだな。どうすれば良いのかは分からんが、とりあえず色々考えとこう。
「キャ!あらこんな場所に!」
「え?」
「みなさん!こちらです!こちらに居ましたわ!」
俺は声の方向を振り向く。明らかに俺に対して声が向いていたので、知り合いだと勘違いしたが全く知らない人だった。
華やかなドレスを着た若い女性。このパーティーには老若男女色々な人が来ている。みんな秘密結社の一員なのだろうか?
全く知らない人ではあったが、どうして騒がれているのかはすぐに分かった。ゴーパーが俺の目の前にいるからだ。
キラキラ輝く美しいゴーパーよ。目立つ。
「キシシ!大丈夫そうか?」
「いやぁ、まぁ、とりあえず【召喚解除】」
これ以上トラブルにならない為に、とりあえずゴーパーの召喚は解いておいた。これで大丈夫だろう、と僅かに期待していたが、人々はこのお洒落なバルコニー的な場所に集まる。
そして俺を取り囲むのだ。いや、みんな香水の匂いがしてすげー変な気分。クラクラする。
「君だろ?金蜘蛛を使役しているのは。一足先に私に見せてくれたまえ」
「そうですよ!ここにいるのは皆その資格がある人間ですから召喚してください!」
「ねー!見せてー!」
「見たい!見たーい!
子供もいた。子供には見せてあげても良いかなぁ、とか思ったし、別に大人でも見せてあげれば良いかなぁ、とか思っていたが、一応ブラックさんとの約束?約束って訳ではないが、ブラックさんにまだ召喚するなと言われているので躊躇う。どうしよっかなぁ、うーわ、難しい。
「羽山健人君!探したよ!!」
パーティー会場の中から、外に向かって大きな声を発する謎の人。聞き覚えがあるから分かるが彼の名前は丹羽さんだ。
俺の周りにいた人は、前と同じようにその声を聞いて静かになる。もー、さっき注意されたばかりでしょ!?ちゃんとしなさい!め!
「もうそろそろ準備の時間だよ。僕に着いてきて」
「あぁ、ありがとうございます。丹羽さんって運営側の人なんですか?」
「ブラックさんに頼まれたんだ。僕は君達と一緒だよ」
人混みを掻き分ける。ようやく俺の出番が来たか、と思いながら、煌びやかで抑圧的な大きなパーティー会場を出ていき、洋館の長ーい廊下を2人で歩く。
道中、丹羽さんについて質問してみる事にした。不思議な人だし。
「丹羽さんとブラックさんの関係って聞いても問題ないですか?」
「僕の所にピアノを持ってきたのがブラックさんだったね。カジノのピアノが壊れたらしくてね」
「へぇ……」
あらら。ブラックさんが言っていた出会いとは違う理由が聞けてしまった。
なんか怪しいなぁ、もしかしてブラックさんに言われてここに来ている人か?
トリガーラッキーさん曰く、俺がクインを殺すような出来事がこの後に起こるみたいだし、そのキッカケになるような人なのかもしれない。そもそもブラックさん自体もただただここに来ているだけな訳がないからな。色んな思惑が渦巻いているんでしょう。きっと。
「僕はこれから一体何をするんでしょうか?」
「今は自由な時間だが、これから全員での舞踏の時間が少しある。その後は儀式だ。その儀式の時に君が、いや、金蜘蛛が必要になる」
「俺はゴーパーだぜ!」
「そうか。ならゴーパーが必要になる。詳しくはブラックさんと一緒に話そう」
「ブラックさんに?」
儀式と聞いて、アーローさんから聞いた話を思い出す。本当に生贄の儀式が行われている?だとしたら俺はそれに加担する事になるのか?
しばらく長ーい廊下を歩いていた俺たちは、一つの扉を開けた。物置みたいな部屋だ。雑に様々な物が置かれている。
その先にはぱっちりとした、革で出来たタイツみたいなスパイっぽい服装に着替えたブラックさん。やっぱり何かやらかすつもりだ。どんな事が起こるんだろう。
どう考えても潜入捜査をする為の格好でしかないんだけど、何をするんだ?てかスタイル良いな、身長高くて足が細々。
「ブラックさん」
「ようこそ。羽山健人」
「君も察しているとは思うが、これから先僕たちはトラブルを起こす」
「まぁ、はい。知ってました」
「その時に君はクインを止めておいてくれ。僕たちは混乱の中で後から罪を追求する為の証拠を集める」
いきなり色々言われても分からん!何を言われているのか正直よく分かっていなかったし、自分がどうすれば良いのかもあまり分かってない。
「君はただ私たちの指示に従ってくれればそれで大丈夫だ」
「どういう事なんですか?全然理解出来てないです」
「ここには悪事の証拠が無数にある。それを抑える事によって彼らは没落していき、相対的に私たちの立場が向上する」
「まぁ、そうなんですかね?」
「心配はしなくていい。そして理解もしなくていい。ここで待っていればシルクハットの男が君を迎えに来るから、彼について行けばいい」
全然分からない。全然分からないまま、俺は黙って指示に従う事にした。俺はトリガーラッキーさんのせいでこういうの慣れてるんだよ。俺の周りってみんなこんなんなのかな?
読んでいただきありがとうございました!!
何かトラブルが起こらない限りは毎日投稿をしていこうと思っているので、次話もよろしくお願いします!18時頃更新予定ですよ!
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